【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命

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第10話 架空の婚約を祝福される

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 ラメセスの言葉を聞いて、鳥肌が立った。

 それはなにも、俺を認めてくれて嬉しかった、とか、実力者に勝てて感動した、とかそういう理由じゃない。
 
 聞いたことのある台詞セリフだったからだ。

 わからないはずがない。
 エルフの剣聖であるラメセスが大声で笑い出し、降参だと認め、そして自分もパーティーの仲間メンバーに加えて欲しいと頼む……台本シナリオ通りの展開だ。

 でも、問題がひとつ。
 その元々のシナリオでは、ラメセスの言葉をもらう相手は俺ではない。我らが主人公、アーサー君なのである。

 俺は今後アーサーが行うはずだったイベント、「ラメセスとの交戦」を得て、本来アーサーが手にするはずだった「ラメセスという戦力」を手にしたのだ。

 またやっちゃった。

 もうこれは、この物語の主人公がレッド・モルドロスに変更された、ということなのか!?

 罪な男だぜ、俺は。

「流石レッドくん! 私の応援は力になりましたか?」

「え、うん、まあ」

「なんだかレッドくんが冷たいです……シクシク……」

「ごめん、別にそんなつもりじゃ──」

「冗談です。では、泣いている私を慰めてくださいね。子供作りましょうか」

 心配して損した。
 相変わらず、シャロットを精神病院に連れていきたい気持ちは健在だ。

 俺があまりにイケメンなせいで、彼女はすっかり骨抜き状態。やっぱり俺の存在は罪なのか……。
 俺は別に女を弄ぶような男になったつもりはない。
 
「君の仲間も随分と面白いね。確か名前はシャロット、だったかい?」

 俺達は20階層から去り、地上に戻っている。
 ちょうど5階層といったところだ。
 このぐらいの階層であれば、モンスターが飛び掛かってきても拳ひとつで撃退できる。

 でも、俺達の強さはモンスター達も直感か何かでわかるらしく、無心に突っ込んでくるようなバカモンスターはいなかった。
 少しは利口だということか。

 俺はあっさりラメセスの加入を許可した。
 ギルドで正式に申請してしまえば、数分後にはもうちゃんとしたパーティメンバーとなる。

 本来なら、シャロットもラメセスも、主人公アーサー側だったはずなのに。

 それに、シャロットはメインヒロイン。
 俺がこんなに物語ストーリーをぶち壊していいのか、とも思ったけど、もう決めた。

 俺は主人公として生きる。

 遠慮なんてしない。

 この世界に誕生したからには、俺の人生を生きてやる。
 たとえそれが、世界の望むものでなかったとしても。

 決意に満ちた自分のかっこよさに騙され、とりあえず前向きに生きてみよう。

「すっかり感心したよ。こう言うと上から目線だって思われるかもしれないけど、君達は僕の期待を遥かに超えてきた」

「レッドくんが期待以上なのは当然です。誰よりも努力していますから」

「まあまあ、俺のことはいいから」

 ラメセスからの称賛の言葉を、ツンと跳ね除けるシャロット。
 俺はそれを滑らかにすべく声を上げる。
 
 確か、『英雄物語ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の中でのシャロットとラメセスは、さほど相性がよくなかったっけ。
 
 理由は本当に不明だけど、シャロットはエルフがあまり好きじゃないらしい。

 偏見を持つな、と注意したいところだけど、恐ろしい過去とかがあったらなんだか気まずいし、そっとしておこう。

 エルフに親を殺されたんです、とか、エルフアレルギーなんです、とかあるかもだしな。

「とにかく、レッドくんの隣は私が歩きますね。ラメセスさん、でしたか? あなたはレッドくんの遥か後ろを歩いてください」

「もしかして、嫉妬しているのかい? 僕は君からレッドを取ったりしないよ」

 愉快なラメセス。
 本当に楽しそうだ。俺達が面白くて仕方ないらしい。

 ラメセスに反発するように、シャロットが俺の腕を引っ張り、豊満な胸に押し当てる。

 こんな美女と腕を組んで歩いている状況は誰もが羨むだろう。でも、俺はセルシ一筋!

 メインヒロインとイチャついている場合ではない。
 セルシに会いたい。

 セルシって誰だ、なんて思っている人のためにもう一度説明しよう。
 
 作中に数分登場する、ほぼモブに近いものの超絶タイプな短髪ショートの美女だ。俺は一目見た瞬間から、彼女に惚れている。
 だから彼女に会わなくてはならない。だからこの麗人メインヒロインの告白も断った。

「ひとつ聞いてもいいかい?」

 またラメセスが口を開く。
 思っていたよりもお喋りだ。もっとクールなキャラだとばかり思っていたけど、実際はそうでもないらしい。

 かなりセリフがカットされていたらしい。人気キャラなんだし、もっとセリフを増やしてやれよ、脚本家!

「ふたりは、付き合っているのかな?」

 この状況を見れば当然の質問。
 
 素早い反応を示したのはシャロットだった。

「はい! 勿論です。学院卒業と同時に婚約しました!」

「へぇ。僕は同じパーティの仲間メンバーになる者として、君達を祝福するよ」

「卒業した時、振ったはずですが!」

 慌てて止め、付き合ってないと訂正するも、あまり効果はない。
 ラメセスもなんとなくわかっているっぽいけど、シャロットの愛の重さには呆れる。

 罪な男だぜ、俺は。

「レッドくん、私のこと、嫌いですか?」

「いやいや、普通に好きだけど。友達として。仲間として。別に異性としてじゃなく」

「え、世界で何よりも好き!? それはもう、言い過ぎですよ~」

 シャロットは耳が遠いらしい。

 頭を抱える俺と、声を上げて笑うラメセス。
 少しずつ、新しい家族パーティが広がっていくような気がしていた。





《次回11話 パーティの名前を決定する》
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