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第8話 強者と対峙する

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「変に気を遣わないでくれたまえ。僕はそういうのが苦手でね」

 普通、エルフとはいうのは高潔な種族で、ヒューマンをはじめとする他の人間種族に対しては見下すような態度を取る。
 勿論それは個人個人の考え方にもよるとは思うけど、エルフ全体として、そういう風潮があるらしい。

 でも、ラメセスだけは違った。

 同胞エルフの風習たるものを嫌い、ひとりの人間として俺達と関わりを持とうとしている。

 物語で、彼はギルドでアーサーに出会い、そこから行動を共にするうちに仲間として加わるようになるわけだけど、そんなキャラが悪役レッドと対面しているという状況はいかなるものか。

「僕の名はラメセス。僕は個人的に興味があるんだよ。20階層なんて、よほどの実践経験がなくては来られないような場所だ。それに君達は、これが地下迷宮ダンジョン攻略初めてなのではないかい?」

 ラメセスの質問に、俺達ふたりは頷く。

「でもまあ、たまたま……みたいな?」

 謙遜している雰囲気で、一応そう言っておく。
 まあ多分、俺達が少しばかり強くなりすぎてしまっただけだろう。一件落着。

「ここはたまたま・・・・到達できるような場所ではないよ。僕も20階層までの到達には丸々2年かかってしまったかな」

 ラメセスは両手を上げて敵意がないことを示した後、ゆっくりと俺達の方へと近づいてきた。

 この3人の他に周囲に冒険者はいない。
 そんなことはあり得ないけど、もしここで急にラメセスが襲ってきたらどうなるんだろう?

 今の俺の実力で、彼に勝てるのか?
 
 シャロットと一緒に立ち向かえば、有利に勝利に持ち込むことができるかもしれない。

 とはいえ、ラメセスは作中屈指の実力者だ。
 それゆえ人気も高い。

 俺みたいな悪役キャラが戦って勝ってしまえば、翌日には大ブーイングの嵐だろう。
 
 そう、レッド・モルドロスはざまぁされる対象なのである。
 暇さえあれば主人公の勇者パーティに喧嘩を売りに来て、痛い目に遭わされて逃げていく。

 友達にはしたくないようなウザい系キャラ。

 それが、レッド・モルドロス──つまり俺だ。

「そこで提案だけど、いいかな?」

 爽やか爆イケボイスで、その整った顔を見せつけてくるラメセス。
 いちいち提案に許可を取るあたり、完全にいい奴感を出しにきているとしか思えない。

 とはいえ、本当にいい奴であることは『英雄物語ロード・オブ・ザ・ヒーロー』のファンとしてわかっているので、文句は言わなかった。

「僕とここで交戦してくれないかい?」

「……えぇ! なんで!? ま、まさか、俺があまりにイケメンすぎて嫉妬してしまった、とか?」

 俺の渾身のボケを、ラメセスは愛想笑いで流す。

「僕はこのところモンスターとしか戦っていないものでね。対人戦の訓練の相手になってくれる人もいないのだよ」

「どうしてですか?」

 今度はシャロットが聞いた。
 
「練習とはいえ、僕と戦うのを恐れる人が多くてね。でも、最初からいきなり20階層に足を運ぶような強者で、なおかつ恐れ知らずな君達なら、僕のいい相手になってくれると思ったんだ」

「なるほど。それは確かに」

 ラメセスが剣を抜く。
 俺達がどう返事をするかはわかっているらしい。

 無論、断るつもりはさらさらなかった。
 俺が欲しかったのは手応えだ。
 モンスターと戦って手応えを得られない以上、ここは作中屈指の強キャラと戦うことで、自分の今の実力と立ち位置を完璧に把握しておきたい。

「シャロット、最初は俺ひとりでやる」

 そう言って、彼女を後ろに下がらせる。

「私を守ろうとしてくださるのですか! もう私の身体はとろとろですっ!」

 せめて、メロメロくらいで抑えてくれ。
 コンプライアンス的によくないです。

 よし、メインヒロインの反応はとりあえず無視して、目の前の相手に集中しよう。

 相手はエルフの剣聖。
 アーサーと協力した魔王討伐戦でも、彼の高威力の剣はパーティーの主力となっていた。

 俺が警戒しているのはその剣捌き。

 とはいえ、俺も学院で毎日剣を振り回していた男だ。寿命の長いエルフには劣るかもしれないけど、それなりに長い間、剣と向き合い、自分のものにしたという自信がある。

「楽しみだよ。もうすでに耳にしているけど、君の口から名前を聞いておこうか」

「レッド」

 俺の名前であり、物語の中でも嫌われているキャラの名前。

 でも、今、この世界では違う。

「レッド・モルドロスだ」





《次回断章1 エルフの剣聖》
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