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第7話 エルフの美青年と会う

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 ──外の世界をよく知らないままの状態で、何度も訓練を繰り返してきた。

 学院から外に出ると、そこはまるで地獄のような世界だ。
 モンスターは強く、どれだけ鍛えられた我々人間の肉体も、すぐに朽ち果ててしまう。

 そう教わった。

 厳しい教官付きの檻の中で、必死に修練を積む。

 ただひたすらに技を磨き、卒業する時には学内で最強の剣士になっていた。

 師は言った。
 学院の外の世界は弱肉強食で、弱い者はすぐに強者に食われてしまうのだ、と。

「なんか10階層も大したことなかったな」

「そうですね。どうして1階層であれだけ苦戦する冒険者がいるのか疑問です」

 俺達に与えられた依頼クエストは、地下迷宮ダンジョンの1階層に生息しているチビゴブリンを討伐し、その魔石を証拠に回収して帰ること。

 それだけだ。

 でも──。

 1階層のチビゴブリンは瞬殺。
 学院の卒業記念にもらったオーダーメイドの剣を一振りするだけで、1階層にいるチビゴブリンを一掃してしまったのだ。

 ちょっとやり過ぎたのかも。
 そう思ったけど、シャロットも俺も、相当な手加減をしていたし……。

 気づけば10階層。

 人生って、こんなイージーだったっけ?

「どうやら私達、相当・・強くなっていたようですね」

「傲慢はよくないけど……確かにそうなのかもしれない」

 もしかすると、主人公アーサーの全盛期を超えているんではなかろうか。
 だったら簡単に魔王なんて倒せそうだ。

 とりあえず、まだまだ余裕があるので、10階層よりも先に進むことを決める。

 モンスターは徐々に小型から大型に、そしてより獰猛に変わっていった。
 20階層まで来ると、ノーマルドラゴンが普通にいて驚いたものの、ふたりで心臓を刺したことで蒸発してしまった。

「手応えが……ない」

 うつむきながら呟く。

 俺が冒険者という職業に求めていた挑戦や強敵との戦闘も、今のところはない。

 最初の仕事場に選んだこの地下迷宮ダンジョンがたまたま雑魚だったとか?
 
『見ない顔だね。君達はもしかして期待の新人ルーキーかい?』

 軽くて爽やかな声が地下に響いた。
 20階層ともなれば周囲の冒険者の数も少ない。

 後で聞いた話だけど、この20階層に来るような冒険者はほとんどがCランク以上らしい。

 俺達は今最下位であるFランクだから、こんなところに来ているのは場違いだ。

 死んでいてもおかしくない。
 が、実際はどれだけ戦っても満足感を得られず、さらなる強敵を求めて下の階層を目指す、恐ろしい新人二人組だ。

 声がする方を振り返る。

 俺達の後ろには何かと強者感漂うエルフの青年がいた。

 減点するところなんてない完璧な顔を見る限り、エルフ族には妖精という表現が正しい。
 ヒューマンや獣人、小人族コビット、そしてエルフを含む「人間」という括りのなかで、やっぱりエルフだけは飛び抜けて神聖な美しさを誇っていた。
 
 最も神に近く、美しい種族。

「こんにちは」

 神に挨拶するかのように丁寧にお辞儀をし、表情を引き締める。
 
 目の前にいるエルフの青年は外見20歳前半くらいで、身長は俺より低く、耳にかかるほどの流れるような金髪に、緑色エメラルドグリーンの瞳。
 顔立ちは勿論、はっとするほど整っていた。

 そして、俺はこの美青年エルフが何者であるのか知っている。

 名前はラメセス。
 この『英雄物語ロード・オブ・ザ・ヒーロー』では主人公サイドの、頼りになる勇者パーティの仲間メンバーとなった男だ。

 確か、アーサーと出会う前までは高ランクの冒険者として高名だったとか。
 俺はまさに、作中屈指の人気キャラであるラメセス君の、冒険者だった時代かこに偶然鉢合ってしまった、というわけだ。





《次回8話 強者と対峙する》
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