上 下
5 / 38

第5話 パーティを結成する

しおりを挟む
 ダスケンデール学院を卒業し、メインヒロインからの告白を断ってから2日。

 俺は実家に帰って絶世の美女ははおやに溺愛されていた。
 やっぱり母親はいい。
 マザコンと言われても喜んで受け入れよう。

 シャロットとは卒業してからも友達だぜっ、っていう感じで、俺はあの告白を受けてすぐに逃げ出した。

 まあ、ヤンデレが怖かったっていうのもある。少なくとも、あのまま放置しておけばいい感じで主人公アーサーとくっついてくれるんじゃないか?

 よくよく考えてみれば、あんな美少女からの告白を断る男って、俺ぐらいなのでは?

 やっぱり、罪な男だぜ、俺は。

『レッド、あなたのお友達が来たみたいよ』

 昼食を取り終わり、自分の部屋ですっかり退屈していた俺に、母さんの声が掛かった。
 なんか嫌な予感がする。

 俺のお友達といえば、彼女あいつしかいないと思うけど……。

「よかったわね、卒業してもこうして来てくれて」

「その友達はどこに──」

「あら、もう家に入れたわ」

 慌てて部屋を出て、居間リビングに駆け出す俺。

 別に嫌じゃない。
 嫌じゃないけどっ──。

 ──親の前でヤンデレムーブかまされるのは困るんですが!!

「レッドくんっ!」

 居間に到着した瞬間、柔らかいものが俺の体に直撃し、母さんが驚きの声を漏らす。
 
 客とはシャロットだった。
 この世界で最も大切なもの、みたいな感じで俺を抱き締めている。

 退屈していたこともあって、嫌というほどでもなかったけど……。

 なるほど。
 美女に異性として溺愛されるってこんな感じか。

 母さんは感動して涙を流している。
 俺に恋人ガールフレンドができたと勘違いしているのかもしれない。確かにシャロットは清楚系だし、親からの評価も高そうな正統派美少女だから、母さんとしては嬉しいのかも。

「シャロットちゃん、もしかして息子レッドとは……そういう関係なの? 結婚式はいつ?」

 花柄のハンカチで涙を拭きながら、母さんが聞く。
 もう完全にシャロットのこと認めてるし。
 
 ていうか結婚式ってなんだよ!

「はい……実はつい先日恋人になりまして……婚約もしています!」

「あら!」

「ですからお母様は私を実の娘のように扱って──」

「ちょっと待て待て!」

 暴走しているふたりを、この中で唯一まともな俺が止める。
 
「俺達は付き合ってないって」

「レッドくん、あの言葉は嘘だったのですか?」

 狂気が潜んでいるようにも見える瞳で、俺を見つめるシャロット。
 メインヒロインがこんなヤバい奴だなんて、知らなかったよ……トホホ……。

「告白には応えられないって言ったじゃないか」

「あら、どうしてこんな可愛い子からの愛の告白を断ったの?」

「それはちょっと事情がありまして」

 母さんからの本気の質問をごたごたと流す。

 俺は『英雄物語ロード・オブ・ザ・ヒーロー』に出てくるセルシという女性キャラに心奪われていた。
 さほど活躍するキャラじゃないけど、主人公を想う一途な気持ちを見て、完全に落ちてしまったのだ。

 この世界に転生したからには、実際に会いたいし、付き合いたい。

 俺は本気なんだ。

 ずっと物語の中だと思って諦めていた恋が、現実にできそうなのだから。
  
「お母様、ご安心ください。必ず私がレッドくんの心を奪ってみせます。そして一生彼を幸せにしますから」

「あら、頼もしいわ」

 すっかり仲よくなってるし。
 友達と母さんの間に友情ができるのは構わないけど、俺を巻き込むのはやめて欲しい。

「レッドくん、そろそろ本題に入ってもいいですか?」

 まだ本題じゃなかったんだ。前置きって重いね。

 ていうか、ちゃんと本題があったことにも驚きだ。
 会いたくて来ちゃった、みたいな可愛い理由なのかと思っていた自分が馬鹿みたいだ。



「私と、冒険者パーティーを組んでくださいっ!」

 俺の警戒とは裏腹に、まったく予想外のことを口にするシャロット。

 どうして急に冒険者パーティーなんて言い出す?

「卒業後のことを話した時、冒険者になりたいって言いましたよね?」

「え、まあ、そうだけど」

「ですから私も冒険者になります!」

「え?」

「レッドくんに一生ついていくと誓ったのですから、たとえ険しい道のりだったとしても、どこまでもお供します」

 いつ、どこで、何に誓ったんだろう。
 
 そういえばシャロットは誠実で、一度認めた相手に対しては忠実なキャラだった。
 物語の中ではそれがアーサー君だったわけだけど、今回は俺に懐いたというわけか。

「いいじゃない。シャロットちゃんになら、息子のこと任せられるわ」

 母さんが速攻同意する。

「はい、私にお任せください。戦いも、生活も、夜の楽しい営みも……」

 怖い怖い。
 
「俺は別にひとりでも大丈夫──」

「駄目です。私がいますから。ひとりでする必要はありません」

「は?」

 こいつ、何言ってるんだ?

「それに、レッドくんには責任があります」

「責任?」

「私を惚れさせた責任です。もう私はレッドくんなしでは生きられない身体になってしまいました」
 
「あら、もうそんな関係に──」

「誤解だよ誤解! 母さん、シャロットの言うことにいちいち耳を傾けないで!」

「それに、私、学院にレッドくんしかお友達がいなくて……だって、昼休みも放課後も休日も、ずぅーと一緒でしたし」

 確かにそうだけどっ!
 
 そればかりは否定できないけどっ!

 というのも、彼女はずっと俺についてきていた。
 最初は学院図書館での関係だけだと思っていたのに、気づけば放課後の訓練も、休日の訓練も一緒にしていたし、休日に出掛けるっていう友達っぽいこともたまにしていた。

 俺だけじゃなく、シャロットにまで友達がいなかったとは思わなかったけど。
 だったら俺のせいで、彼女は友達ができなかった?

 はっとした。

 俺があまりに異性として魅力的すぎて、シャロットを釘付けにしてしまったのだとしたら……なんて罪な男だ、俺は。

 いい男すぎて乙女の心をこんなめちゃくちゃにしてしまうなんて!

「わかった。その責任は取るよ。とりあえず、冒険者パーティを組もう」

「あ、というか、もう冒険者ギルドに私とレッドくんの名前で申請してありますので安心してください。こうなることは必然だったのです」

 コノヤロウ!

 俺は目をハートにするシャロットと、息子の成長を喜ぶ母さんを前に、膝から崩れ落ちた。





《次回6話 最初の依頼を受ける》
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】勇者パーティーの裏切り者

エース皇命
ファンタジー
「この勇者パーティーの中に裏切り者がいる」  Sランク勇者パーティーの新人オーウェン=ダルクは、この神託の予言が示す『裏切り者』が自分のことだと思っていた。    並々ならぬ目的を持ち、着実に実力をつけていくオーウェン。    しかし、勇者パーティーのリーダー、ウィル=ストライカーから裏切り者が別にいることを知らされる。  容疑者はオーウェンを除いて6人。  リーダーのウィルに、狼の獣人ロルフ、絶世の美女ヴィーナス、双子のアルとハル、そして犬の獣人クロエ。  一体誰が勇者パーティーの裏切り者なのか!?  そして、主人公オーウェンの抱える狂気に満ちた野望とは!?  エース皇命が贈る、異世界ファンタジーコメディー、開幕! ※小説家になろう、エブリスタでも投稿しています。 【勇者パーティーの裏切り者は、どうやら「俺」じゃないらしい】

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...