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第3話 メインヒロインと友達になる
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目の前に並んでいる剣3本は、残酷な表情をしながら嘲笑うように俺を見つめていた。
──あいにく、もうお前の入るクラスは決まってるんだよ。
そう言われているようでなんか癪だ。
アーサーの入る【ニューエイジ】に自分も、なんて別に思ってない。ただ【ダークエイジ】にさえ入らなければ、それでいいのだ。
しかーし──。
『レッド・モルドロス、【ダークエイジ】に決定!』
マクナール先生の凛々しい声が大広間を駆ける。
だよなぁ。
知ってたけど、なんか悔しい。こんな感じで、自分ではどうにもならないようなことに対して嘆いたところで、何も変わらないんだけどさ。
どうして俺は悪役に転生したんですかね。
「よろしくお願いします」
闇派閥のテーブルに行き、先輩達や先に組分けされた新入生達に挨拶する。
当然挨拶を返してくる奴はいなかった。
まあ、予想通りだ。
ていうか、みんな見るからに悪そうな奴らだなぁ。
確かに映画本編でも、あそこの連中は将来闇の騎士団入りが決まっている、みたいな軽蔑したセリフが出てきたくらいだし。
友達になれそうな奴がひとりもいないってのはどういうことなのかな? これ、学院として問題では?
***
案の定、俺に友達はできなかった。
主人公アーサー君は勇者候補が揃う【ニューエイジ】の善良な友達に囲まれ、すっかり楽しそう。
映画の中でのレッドがここで嫉妬心を募らせていたのも納得できる。
でも俺はそんな妬むようなことはしない。
アーサーがどれだけいい奴か知っているのだから。我らが主人公は、どんなに過酷な状況でも諦めず、周囲を励まし、自分のことよりも他人のことを優先できる、まさに勇者に相応しい人物なのだから。
その代わりと言ってはなんだけど、とにかく実力を磨いた。
授業では最前列に座って先生の話を1秒たりとも聞き逃さず、実技でも常に自分より強い相手との対戦で少しずつレベルを上げていく。
同じ組の生徒と授業は共にするわけだけど、半年もしないうちに他のみんなよりも圧倒的に強くなってしまった。
まあ、【ダークエイジ】は言ってみれば不良の集まり。
真面目な奴なんて俺だけだ。
思い返してみれば、俺は前世の頃から真面目だった。
真面目であることなんて、自分の普通を際立たせるつまらない要素でしかないと思っていたわけなのに、ここに来てようやく理解する──真面目であることは全然普通なんかじゃない。
むしろ凄いことなのだ、と。
そうして俺は【ダークエイジ】で前代未聞の優等生という評価を得ることができた。
最初はそんなに気にしていなかったものの、14歳になったくらいの頃だろうか。周囲の連中も恋愛というものに本格的に足を突っ込みだした。
友達は相変わらず同じクラスにはいない。
入学して4年もたつのに友達がいないなんて、正直あり得ない話ではある。
でも本当なのだ。
【ダークエイジ】のみんなは俺のことを自分達以上の変人だと思って近づいてくることもない。
とはいえ、【ニューエイジ】や【シルバーエイジ】に知り合い、というか、友人っぽい人は何人か存在していた。
主人公アーサー君は頼もしい友達に囲まれていて関わる隙などなかったわけだけど、メインヒロインのシャロットとは、ひょんなことがきっかけで関わるようになったわけだ。
『今日も図書館でお勉強ですか、レッドくん』
『え、あ、どうも』
俺は入学してから1周間とたたないうちに、学院図書館の常連になっていた。
毎日放課後には1時間程度ここに通い、魔術や歴史の文献を読み漁る。
それから少し文学作品でも読んで、リラックス。
この世界に娯楽は少ないので、すっかり小説を読むことが娯楽の中心となっていた。
テレビやスマホがない生活も、案外いける。
それどころか、スマホがいかに1日の時間を奪っていたのかを実感し、完全にスマホアンチとなりました。めでたしめでたし。
***
14歳、4年生のある日、図書館で勉強していた俺に、ひとりの女子生徒が話し掛けてきた。
それがメインヒロインのシャロットだ。
彼女は完全に主人公サイドの人間なので、特に大人になってからだけど、悪役のことを忌み嫌うようになった。そんな悪役とメインヒロインが絡むというイベントは、この物語に必要なのだろうか。
「あの……ところで君は……」
「はい、なんでしょう?」
「いやー、どうして俺の隣の席に座って、俺のことをじっと潤った目で見つめてくるのかなー、なんて思ったりして」
この時がシャロットとの初対面だった。
というか、今までにすれ違ったりしたことはあるものの、話したのはこれが初めてだ。
まさしく正統派ヒロインといった感じの顔立ちだ。
いわゆる清楚系って感じ?
肌は白く透き通っていて、大きくパッチリとした瞳は青。俺も憧れた碧眼だ。
肩にかかる長い髪はブロンド。
金髪に碧眼なんて、王道美女ヒロインの正規ルートを辿っている女だぜ、まったく。
で、そんな可愛い美少女に隣から見つめられると、読書に集中できないんですが!
「ずっと話し掛けるタイミングを狙っていたんですけど、集中の邪魔をしてしまったら申し訳ないと思っていまして」
「はあ、なるほど」
「ですが、今回勇気を振り絞ったんです、私! どうでしょう?」
「えーっと、何が?」
「お友達になってくれませんか?」
「え!?」
つい驚いて声を張り上げてしまった。
ここは神聖なる図書館だというのに。
すまない、読書愛好家の友よ。
今回ばかりは許してくれたまえ。
俺が驚いたのは、シャロットの友達の作り方があまりに大胆で下手であることではなく、こっちを見つめるシャロットの目があまりにも可愛すぎてキュンとしてしまったことでもなく、物語のメインヒロインともあろうお方が、悪役である俺なんかと友達になろうとしているこの状況だ。
映画を観る立場の観客からすれば、普通に嫌な展開では?
メインヒロインと悪役は、仲良くなってはいけないのだ!
だって、そうだろう──ハーマ◯オニーと◯フォイが実は大親友、とかだったらなんか嫌じゃね?(厳密に言えば、これは『メインヒロインと悪役』っていうポジションじゃないものの、結構わかりやすい例じゃないかと思う)
「なんでいきなり、そんなことを?」
俺はアホ面で聞き返した。
拍子抜けしたような感じだった。
するとシャロットは少し恥ずかしそうに頬を赤らめて。
僅かに微笑み。
そして口を開いた。
「他の誰よりも努力する貴方が、とても魅力的でしたので」
俺を見つめたまま、エヘッと笑う。
ここだけ見ると小悪魔系美少女だろ。なんだかズルい。
「別に構いませんけど」
なんだか上から目線な言い方になってしまった。
でもこの状況でどんな返事をすればいいのかもわからないし、とっさに出てきた言葉に任せるしかない。
生意気な奴だって思われないといいけど。
その考えを否定するかのように、シャロットは無垢な笑みを浮かべ、グッと俺に接近した。
この世界でも、女子って本当にいい香りするんだな。それはシャロットに限っての話なのだろうか。
とにかくありがとう、異世界よ。
そうして、俺とシャロットは図書館で話すようになった。
俺からわざわざ話し掛けるわけじゃなく、彼女が結構ガツガツ来るからだ。
おかしい。
映画でのシャロットはこんな積極的なキャラではなかったはず。
やっぱり俺が悪役のテンプレから外れた行動を繰り返していることで、物語に大きな影響を与えてしまっているのかもしれない。
だとすれば、俺が悪役ではなく、勇者でもなく、主人公を超えるほどの人気キャラになるのも、時間の問題だと思う。
《次回4話 美少女からの告白を断る》
──あいにく、もうお前の入るクラスは決まってるんだよ。
そう言われているようでなんか癪だ。
アーサーの入る【ニューエイジ】に自分も、なんて別に思ってない。ただ【ダークエイジ】にさえ入らなければ、それでいいのだ。
しかーし──。
『レッド・モルドロス、【ダークエイジ】に決定!』
マクナール先生の凛々しい声が大広間を駆ける。
だよなぁ。
知ってたけど、なんか悔しい。こんな感じで、自分ではどうにもならないようなことに対して嘆いたところで、何も変わらないんだけどさ。
どうして俺は悪役に転生したんですかね。
「よろしくお願いします」
闇派閥のテーブルに行き、先輩達や先に組分けされた新入生達に挨拶する。
当然挨拶を返してくる奴はいなかった。
まあ、予想通りだ。
ていうか、みんな見るからに悪そうな奴らだなぁ。
確かに映画本編でも、あそこの連中は将来闇の騎士団入りが決まっている、みたいな軽蔑したセリフが出てきたくらいだし。
友達になれそうな奴がひとりもいないってのはどういうことなのかな? これ、学院として問題では?
***
案の定、俺に友達はできなかった。
主人公アーサー君は勇者候補が揃う【ニューエイジ】の善良な友達に囲まれ、すっかり楽しそう。
映画の中でのレッドがここで嫉妬心を募らせていたのも納得できる。
でも俺はそんな妬むようなことはしない。
アーサーがどれだけいい奴か知っているのだから。我らが主人公は、どんなに過酷な状況でも諦めず、周囲を励まし、自分のことよりも他人のことを優先できる、まさに勇者に相応しい人物なのだから。
その代わりと言ってはなんだけど、とにかく実力を磨いた。
授業では最前列に座って先生の話を1秒たりとも聞き逃さず、実技でも常に自分より強い相手との対戦で少しずつレベルを上げていく。
同じ組の生徒と授業は共にするわけだけど、半年もしないうちに他のみんなよりも圧倒的に強くなってしまった。
まあ、【ダークエイジ】は言ってみれば不良の集まり。
真面目な奴なんて俺だけだ。
思い返してみれば、俺は前世の頃から真面目だった。
真面目であることなんて、自分の普通を際立たせるつまらない要素でしかないと思っていたわけなのに、ここに来てようやく理解する──真面目であることは全然普通なんかじゃない。
むしろ凄いことなのだ、と。
そうして俺は【ダークエイジ】で前代未聞の優等生という評価を得ることができた。
最初はそんなに気にしていなかったものの、14歳になったくらいの頃だろうか。周囲の連中も恋愛というものに本格的に足を突っ込みだした。
友達は相変わらず同じクラスにはいない。
入学して4年もたつのに友達がいないなんて、正直あり得ない話ではある。
でも本当なのだ。
【ダークエイジ】のみんなは俺のことを自分達以上の変人だと思って近づいてくることもない。
とはいえ、【ニューエイジ】や【シルバーエイジ】に知り合い、というか、友人っぽい人は何人か存在していた。
主人公アーサー君は頼もしい友達に囲まれていて関わる隙などなかったわけだけど、メインヒロインのシャロットとは、ひょんなことがきっかけで関わるようになったわけだ。
『今日も図書館でお勉強ですか、レッドくん』
『え、あ、どうも』
俺は入学してから1周間とたたないうちに、学院図書館の常連になっていた。
毎日放課後には1時間程度ここに通い、魔術や歴史の文献を読み漁る。
それから少し文学作品でも読んで、リラックス。
この世界に娯楽は少ないので、すっかり小説を読むことが娯楽の中心となっていた。
テレビやスマホがない生活も、案外いける。
それどころか、スマホがいかに1日の時間を奪っていたのかを実感し、完全にスマホアンチとなりました。めでたしめでたし。
***
14歳、4年生のある日、図書館で勉強していた俺に、ひとりの女子生徒が話し掛けてきた。
それがメインヒロインのシャロットだ。
彼女は完全に主人公サイドの人間なので、特に大人になってからだけど、悪役のことを忌み嫌うようになった。そんな悪役とメインヒロインが絡むというイベントは、この物語に必要なのだろうか。
「あの……ところで君は……」
「はい、なんでしょう?」
「いやー、どうして俺の隣の席に座って、俺のことをじっと潤った目で見つめてくるのかなー、なんて思ったりして」
この時がシャロットとの初対面だった。
というか、今までにすれ違ったりしたことはあるものの、話したのはこれが初めてだ。
まさしく正統派ヒロインといった感じの顔立ちだ。
いわゆる清楚系って感じ?
肌は白く透き通っていて、大きくパッチリとした瞳は青。俺も憧れた碧眼だ。
肩にかかる長い髪はブロンド。
金髪に碧眼なんて、王道美女ヒロインの正規ルートを辿っている女だぜ、まったく。
で、そんな可愛い美少女に隣から見つめられると、読書に集中できないんですが!
「ずっと話し掛けるタイミングを狙っていたんですけど、集中の邪魔をしてしまったら申し訳ないと思っていまして」
「はあ、なるほど」
「ですが、今回勇気を振り絞ったんです、私! どうでしょう?」
「えーっと、何が?」
「お友達になってくれませんか?」
「え!?」
つい驚いて声を張り上げてしまった。
ここは神聖なる図書館だというのに。
すまない、読書愛好家の友よ。
今回ばかりは許してくれたまえ。
俺が驚いたのは、シャロットの友達の作り方があまりに大胆で下手であることではなく、こっちを見つめるシャロットの目があまりにも可愛すぎてキュンとしてしまったことでもなく、物語のメインヒロインともあろうお方が、悪役である俺なんかと友達になろうとしているこの状況だ。
映画を観る立場の観客からすれば、普通に嫌な展開では?
メインヒロインと悪役は、仲良くなってはいけないのだ!
だって、そうだろう──ハーマ◯オニーと◯フォイが実は大親友、とかだったらなんか嫌じゃね?(厳密に言えば、これは『メインヒロインと悪役』っていうポジションじゃないものの、結構わかりやすい例じゃないかと思う)
「なんでいきなり、そんなことを?」
俺はアホ面で聞き返した。
拍子抜けしたような感じだった。
するとシャロットは少し恥ずかしそうに頬を赤らめて。
僅かに微笑み。
そして口を開いた。
「他の誰よりも努力する貴方が、とても魅力的でしたので」
俺を見つめたまま、エヘッと笑う。
ここだけ見ると小悪魔系美少女だろ。なんだかズルい。
「別に構いませんけど」
なんだか上から目線な言い方になってしまった。
でもこの状況でどんな返事をすればいいのかもわからないし、とっさに出てきた言葉に任せるしかない。
生意気な奴だって思われないといいけど。
その考えを否定するかのように、シャロットは無垢な笑みを浮かべ、グッと俺に接近した。
この世界でも、女子って本当にいい香りするんだな。それはシャロットに限っての話なのだろうか。
とにかくありがとう、異世界よ。
そうして、俺とシャロットは図書館で話すようになった。
俺からわざわざ話し掛けるわけじゃなく、彼女が結構ガツガツ来るからだ。
おかしい。
映画でのシャロットはこんな積極的なキャラではなかったはず。
やっぱり俺が悪役のテンプレから外れた行動を繰り返していることで、物語に大きな影響を与えてしまっているのかもしれない。
だとすれば、俺が悪役ではなく、勇者でもなく、主人公を超えるほどの人気キャラになるのも、時間の問題だと思う。
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