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申し訳なさそうに百円くださいというお仕事

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プロレスラーもビックリするような大男にぶん殴られる。

「クソっ!払いたくもねぇのに銅貨渡しちまった!」
「ギャハハ、賭けは俺の勝ちだ!ほら、早く銀貨よこせ」

殴られた痛みにボーッとしながら、ただただ日本へ帰りたいと願う。
まさか、百円くださいって言っただけでこんなことになるとは思わないじゃないか。

  

俺は、財布の中にお金が入っていると、まぁいいかという気持ちで使ってしまうタイプだ。
そのためなるべく財布の中に入れておくお金は最小限にしていた。
この日、俺は財布の中にお金を補充し忘れていたのを知らずに自動販売機に来ていた。
財布を開くとあるのは60円。
この自動販売機だと丁度100円足りない。
電子決済も出来ないタイプだったため諦めようとした時だった。
隣に人の良さそうなおじいさんが飲み物を買おうとしていた。
不躾だし、返す当てもないくせに俺はこのおじいさんに言ってしまったのだ。

百円ください、と。

人が良さそうという見た目の判断だけで、見ず知らずの人から百円を貰おうとする。
文字で表すとこうなるだろうか。
常識知らずにも程がある。
流石にそう思った俺ではあったが、このおじいさんの返しも予想とは違っていた。

「舐め取るな、お主」
「あ、すみません。優しそうな方だったので思わず…」
「それが舐め取ると言っておるんじゃ。お前はそうやって年寄りを食いもんにしとるんじゃろ?儂は詳しいんじゃ」
「いえ、そんなことは…」
「ふん、口ではどうとでも言えるわい。はぁイライラする」

なんだか虫の居所が悪かったらしい。
ここぞとばかりになじられた。

「そうじゃ。ぬくぬく育ったお主にプレゼントをやろう!」
「いえ、大丈夫です。俺が欲しいのは百円ですから」
「そうか!欲しいか!ならばくれてやろう!」

話しを聞かないじいさんだな!要らないって言っただろ!

という言葉を飲み込んで別の言葉を発しようとした時だった。
おじいさんはどこからともなく自分の身長くらいある杖を取り出した。

「お主たちの世界では流行っとるじゃろ?異世界転移」
「は?」

おじいさんは杖をかざした。
その瞬間、足元が揺らぎ、地面が泥の様になった。

「お主はラッキーじゃな!特別なスキルも用意してやるぞ!」

その言葉を最後に俺は泥の中に飲み込まれた。

 

次に意識がハッキリすると異世界にいた。
なんでわかるかって?
目の前にステータスボードがあるからだ。
そこには、あのおじいさんからと思われるメッセージが表示されていた。

桃井一城殿へ

儂は、カッとなりやすいタイプなのじゃが、あの時はすでに苛ついており、非常に申し訳ないことをした。君をガクアルに送った時はイライラのピークでスキルがそこで暮らすには厳しいものになっている。予想以上に力を使ってしまい、送り返すことが出来ないうえにチートを授けることが出来ない神を許してほしい。

PS.言語理解は付けられたから読み書きに困ることはないだろう。健闘を祈る。

 

こんなメッセージがあった。
そして、ステータスボードを右にフリックすると俺のスキルが出てきた。

スキル 百円(ガル)は代償とともに

申し訳なさそうに百円(ガル)くださいと言うと相手から百円(ガル)を貰えるスキル。 
ただし、相手が百円を渡すために提示する条件を達成しなければならない。
相手が通貨を持っていない場合、百円(ガル)相当の物を奪う。

 

「あのじじい!やりやがった!何が許して欲しいだ!許せるわけないだろ!」

暮らすのはどうにかなるかもしれない。
だけど、それだけじゃ死ぬ予感を感じていた。
それと言うのも、空をヘリコプターくらいのトンボの様な虫が飛んでいたのだ。
あんなのがうじゃうじゃいる世界で百円貰うスキルなんて役に立つわけがない。

「ひとまずここは離れないとダメだ。街を目指さなきゃ」

こうして無事に街に着いた俺は、検問も特にない場所だったため中にもすんなり入れた。
そして、異世界といえば冒険者ギルドだろうという安直な考えから冒険者ギルドへ行くことにした。
ギルドへ着くと酒場が併設された、これぞ冒険者ギルド!という様相の建物で感動した。
そんな感じでボーッとしているとスタッフと思わしきお姉さんに話しかけられた。

「あの~ギルドに何かご用ですか?」
「あっ、えぇーと、少し事情があって身分証がないのですが、冒険者証みたいなものってありますか?」

我に帰って冷静に考えると無いとまずいものを持っていなかったので、聞いてみることにした。

「はい、冒険者証は立派な身分証になりますよ。手続きいたしますか?」
「よろしくお願いします。ただ、お金を持っていないんですけど、大丈夫ですか?」
「後払いも可能です」
「そうなんですね!じゃあよろしくお願いします!」

こうして手続きを進めていき、最後にステータスを読み込むことになる。

桃井一城(23)

レベル1

スキル 百ガルは代償とともに

と記載されている。

ここでは、円ではなくガルのみになっていた。
通貨価値が分からなかったので、正直これだけでもかなり助かる。

「えっと、このスキルは戦闘に使えなさそうなんですけど、大丈夫ですかね?」

「その歳でレベル1となるとかなり厳しいとは思いますが、ダンジョンにはスキルオーブなんかもドロップしますので、頑張り次第ですね」

「なるほど」

「ソイルちゃーん、いつまでもそんな奴相手してないで俺を相手してくれよ~」

まだ、手続きが終わっていないにも関わらず、プロレスラーもビックリするような大男が後ろに立っていた。

「そうだぜ。こんなモヤシ野郎を相手にするのはもったいねぇ」
「これがお仕事ですので、もう少しお待ち下さい」
「いいじゃねぇかよ!」
「そうだぜ!しかもこいつレベル1じゃねぇかよ!」
「うわ!マジかよ!こりゃ傑作だ!」
「ギャハハ、お前冒険者向いてねぇよ」

見られちゃまずい情報を見られた気がする。
まぁ、仕方ない。
とりあえずここまでスキルを試していなかったので、代償が怖かったが使ってみることにする。

「あのぉ、申し訳ないんですけど、百ガルください」

俺が口にすると大男の隣に居た体格のいい男が懐から銅貨1枚を差し出してきた。
それを受け取るとハグをされ、頭の匂いを思いっきり嗅がれた。
その後、突き飛ばされ、尻もちをついてしまう。

「お、お前急に何をするんだ!そういうのは段階を踏んでだなぁ…」

顔を真っ赤にしたスキンヘッドの男。

なるほど。その手の手合いか。
だとしたらこれで百円は安すぎる気がする。

「おいおい、俺がソイルちゃん口説いてる時になにやってんだ」
「仕方ないだろう!体が勝手に!」
「レベル1の奴にお前がか?マジかよ」
「クッソ!おいモヤシ!こいつにも試せ!」
「別にいいけど、俺に得無くない?この人にセクハラされるしさ」
「せく?はよく分からんが、いいだろう!賭けをしてやる!」
「おっ!いいねぇ!じゃあ、俺はお前が操られるに銀貨1枚だ!」
「なんで、お前も参加すんだよ!チッ、まぁいい俺は操られないからな!」

なんか勝手に話しが進んでいるが、俺も乗っかっておく。
これが、冒頭の殴られた場面のいきさつ。

はぁ、どうしてこうなった。

そして、レベル差がかなりあったようで、この衝撃に耐えられなかった俺は意識を失った。

それから俺は、無事に目を覚まし、ダンジョンに来ていた。
浅い階層ならレベル1でも即死はしないという話しを男食のスキンヘッドから聞いたからだ。
そして、俺のスキルは、人が相手じゃなくても使えるようなので試しておく必要がある。

さっそく現れたのは、スライム。
弱かったり強かったりと色々種類がいる魔物だが、この世界では弱い魔物らしい。

「あのぉ申し訳ないんですけど、百ガルください」

演技力バッチリにスキルを発動させると、スライムは自身の魔石を吐き出した。
魔石を吐き出したスライムは、自身の肉体を維持できなくなり消滅する。
代償は発生しなかった。
対象が消える、もしくは金銭の対価ではなく奪っているから発生しなかったのだろう。

「弱い魔物相手には、最強なのでは?」

しかも、これの効果が効いている間、行動の制限も出来るようなので、仲間がいれば隙を衝いてくれるかもしれない。

どうなるかの結果が分かったので、さらにスライムを探しては、謝るを繰り返し、50体程倒したところでダンジョンを出る。

それからの俺は、スキルを使って百円相当の願いを叶えながら、冒険者のサポート役として生活を送った。
このスキルには強制力がある。
強い魔物にも効果が発揮されたため、リスクはあるが、上級パーティーの荷物持ちとして雇ってもらえる機会が増えた。

路上で商売することもある。
この時には、異世界との価値観の違いに苦しむこともある。
比較的多いのは、困っていることの話を聞くことだが、ストレスが溜まっていると殴られる。
肉屋の手伝いなんかは、その後に串焼きを貰えたりしてラッキーだ。
人のぬくもりが欲しい、荷物持ち、靴磨き。

百円分の仕事は、俺にも強制力が働くため逃げられる心配もない。
このあたりが労働の対価が人によって違うので、なかなかに面白い。

俺を利用して、商売相手のお金の価値観を知りたいという依頼もある。
これで、要求された内容を見て商談がなくなったケースもあるくらいだ。

 
俺は弱い。
一人で大きく稼ぐのも難しい。
でも、周りの人達に支えられて生きている。

日本に帰れる日を待ち望みながら。

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