カメレオン小学生

ウルチ

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1章

人って優しかったんだな

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あれからすぐにダンジョン局の寮に入れてもらえた。
そんなボロボロな服では出歩くのも苦労するだろうということで、四賀さんが古着屋で服を買ってくれた。
さらに、いつ振りかわからない風呂。
あの研究所に居た頃は、まともに入った記憶が無い。
こうして少しだけ人間らしい時間を過ごしたことで、あの生活の異常性をはっきりと認識することが出来た。

 

翌日、偶然にも講習会が今日行われるということで、再びダンジョン局に来ていた。
本来は、事前に体力テストなどを受ける必要があるらしいけど、俺の事情を考慮して免除してくれたらしい。
受け付けを済ませ待合室で時間をつぶしていると、席を一つ空けた隣にショートカットの水色の髪をハーフアップにまとめたスラリとした美人が座った。
ツリ目気味な瞳にはやる気が満ちている。
この人も冒険者の講習を受けに来たのだろう。

「ケケケケ。リオ~ン、お前の好みはあぁいうタイプか?女に酷い目に合わされてたってのに、俺様、関心しちゃうぜぇ」

そこで、我に返った。
カラレが茶化すくらいには見つめていた自覚がある。

「ち、違うぞ。ただ髪色が珍しいと思ったから」

あの美人にバレない様に小声で答えた。

「あ?スキルの影響で髪色なんていくらでも変わるだろ。お前だって白髪なんだから人のこと言えねぇだろ」
「え?俺の髪の色って白になってんの?」
「気づいてなかったのか?」
「うん。鏡見てなかったし」

なんか一気に老けたみたいで嫌だと思ったが、黙っておいた。

「それで、あの女が気になってたんだろ?」
「不思議な感覚がしたんだ。それで見てた。ただ、この感覚の言葉を俺は知らない…」
「ケケケケ。惚れたか?」
「そ、そういう感じじゃないよ。別にドキドキしてないもん」
「あの~さっきから一人でブツブツ言ってますけど、大丈夫ですか?」

カラレと話していて気付かなかったが、心配そうな顔をした美人さんが隣の席に詰めてきていた。
透き通った水色の瞳が特徴的だ。

「大丈夫ですよ!ちょっと緊張してて頭の中を整理していたら声に出ちゃってたみたいです」

カラレは特殊なスキルを持っていなければ見えないようにしているらしく、こういう時には誤魔化すしかないのが面倒だ。
悪魔と話してましたよりも独り言言ってましたの方がいくらかマシだろう。

「そうなんですか?なんかずっとこっち見てた様な感じだったので、何かやっちゃったのかと思いましたよ」
「勘違いさせてごめんなさい。さっきは僕の周りには水色の髪が珍しくて見つめてしまいました。特に意味は無いです」
「ケケケケ。あなたに興味がありましたって言っとけ。ワンチャンってやつがあるかもしれねぇぞ」
(お前は黙ってろ)
「そうですか。急に話しかけてすみません。今日はお互いに頑張りましょうね!」
「ありがとうございます。頑張りましょう!」

そういって、この美人はまた席を離れていった。

「なぁ、カラレ。講習会なのに何を頑張るんだ?」
「あ?最後モンスターの討伐をするとか言ってたからそれじゃね?」
「あぁ。なるほど。気を引き締めていかないとダメか。武器もないし」
「ま、あの娘はそっちの話をしたわけじゃないと思うがな」

それからしばらくして、講習会が始まり、ダンジョン探索の基礎や注意すべきこと、ドロップ品の取り扱い例などを座学で教わった。
ここで聞いた話がほとんど一般常識として紹介されたことに愕然とした。
自分の止まった10年が悔やまれた。

座学が終わった後は、仮の冒険者証が発行されダンジョンへと入ることになった。
ここで、人型のモンスターを倒すことで人を切る拒否反応や恐怖心を感じてもらい、冒険者として本当にやっていけるかを確かめるらしい。

これを聞いた俺は、正直この感覚が理解できなかった。
やらなきゃやられるのに何を躊躇うことがあるのか。

(案外、人って優しかったんだな)

そんなことを考えている内に試験官がゴブリンを連れてくると宣言した。
こうして、しっかりと一体ずつ連れてきて、安全なフロアでテストしていくらしい。

「それでは、これから討伐試験を行う。挙手制で行くから準備できたものから名乗り出てくれ」

今回の講習会に参加しているのは、俺を含めて20人強といったところだ。
この人数を待っていたら結構かかりそうだ。

「リオン、お前は後の方にやれ。んで、周りの感情を感じる練習をするんだ」
「どういうこと?」
「おいおい、俺たちは人の正と負の感情を集めるって言っただろ。ここは、試験への不安感とかやる気とかいろんなもんで溢れてる。利用しなくてどうすんだ」
「ごめん。俺にはその辺の感情が分からないみたいだ」
「分かる必要はねぇよ。感じろ。そして味わえ。それが俺らの糧になる」
「分かった。やってみる。どうやればいい?」
「契約をした時に出来たパスがあるんだが、それを通じてオーラ的なものを感じられるようにするから、お前の適応でオーラが分かる自分を適正な形だと落とし込め」
「オーラか」
「ちなみにオーラって便宜上言ったが、実際は魔力の揺らぎだから深く考えなくていいぞ」
「わかった」

一度目を閉じ、カラレとの繋がりに意識を向ける。
すると温かくも冷たくもない、けれども包まれているという不思議な感覚があることが分かった。
この感覚を血が流れているイメージで目まで届けてから静かに目を開いた。
この行いが成功したことを示すように、人から暖色と寒色が入り混じって見えるようになった。

「うまくいったみたいだ。見える色が2種類しかないけど」
「それ以上あったって邪魔だろ。正か負か分かればいいんだし、十分だろ」
「確かに。これはどうやれば見えなくなる?」
「魔力の流れを止めれゃいい」
「なるほど。ちなみにこれもスキル?」
「違う。天使とか悪魔が当たり前に持ってる力だが、スキル名としては一応魔力感知ってのが近いな」
「ふーん」

上手くいった状態を確かめていると、ゴブリンを探しに行っていた試験官が戻ってきた。
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