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1章
敵の敵は味方になれるもの
しおりを挟むとにかく当てもなく走り続けた。
疲れは、スキルの効果で感じなくなるので、2日くらい走ってみた。
「そろそろいいんじゃねぇか?飽きたぞ」
「飽きたってお前が遠くへ逃げろって言ったんだぞ」
「逃げろとは言ったが寝ずの飲まず食わずで走れとは言ってねぇ。お前、人に戻るんじゃなかったか?」
「うっ。もっと早く指摘してくれればいいじゃん!なんで言わなかったのさ」
「言わない方が自覚するだろ。んでそれに飽きたってことだ」
今までの限界まで酷使するのが普通だという感覚が抜けていないらしい。
でも、これには言い分がある。
「一応、お金が無いからホテルに泊まれないって理由があるし」
「それがどうした。犬猫にでもなって潜り込むくらい簡単だろ」
「それだと犯罪じゃん」
「犯罪以外に方法がねぇならやるしかないだろ」
「いや、だから犯罪は嫌だから走ったんじゃないか」
「ケケケケ。休憩なしの理由にはなってないがな」
これには、何も言い返せない。
そもそもなんで俺は言い訳をしているんだ?
逃げるために走った。
それだけなのに。
「とりあえず次にダンジョンがある街に着いたらそこがゴールとしよう」
「そのあとは?」
「働け」
「どうやって」
「俺が知るか」
「俺だって働いたこと無いから分からないよ」
「冒険者にでもなれば稼げるんじゃないのか?」
「資格がいるんだよ。それを取るのには生体IDっていう生まれた時に決められた証明証が必要なんだ」
「お前は持ってないのか?」
「死んだことになってるから失効されてるはず。俺の両親が死んだとき引き取ってくれた人が手続きしてたのを覚えてる」
「まずは、そのIDの入手から始めんだな」
「再発行なんて話聞いたことないよ」
「誰か殺してそいつになるとかでいいんじゃないか?」
「無理無理無理。俺がそんなことできない。そもそもDNA的なので管理されてるから照らし合わせたらすぐにばれる」
「じゃあ、失効手続きしててもお前の証明できんじゃね?」
「たぶん名前を語った別人扱いになると思うけど…」
「うだうだうるせぇな。出来ない言い訳ばっかりしやがって。どうせ失うもんはねぇんだからやってみろ」
「わ、わかったよ」
さっきのやりとりから2時間後、ダンジョンのある街に到着した。
物は試しということで役所へと行ったのだが、パッと見た感じ生体IDの失効手続きが出来そうになかったのと薄汚れたジャージという格好はマズいと気づきダンジョンへと向かうことになった。
この街のダンジョンは、3階建ての建物で、地下にダンジョンへの入り口があるらしい。
1階が、素材のやりとりや換金所、書類提出の窓口となっていた。
2階は食事処で、3階に武具類の販売所がある。
ひとまず、冒険者登録が出来ないことには始まらないので登録窓口へと行く。
「いらっしゃいませ。本日は冒険者登録でよろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
気の良さそうな受付のお姉さんが机の下から書類を取り出す。
「まず、こちらにご自宅の住所などをお書きください」
住所もいるのか…。
これ登録出来るのか?
「すみません。実は、いろいろと事情がありまして、住所が無い場合はどうすればいいですか?」
「え?」
すごく困惑した様子で考え込んだあと、別の書類と簡易的な生体IDのスキャナーを取り出した。
「それでは、こちらのスキャナーでIDの照会をお願いします。それからこちらの書類は同意書となりますのでよく読んでからサインをお願いします」
言われた通りにまずはスキャナーに付いている針を人差し指にチクっと刺し、血を読み込ませる。
すると、スキャナーはけたたましく光ったあとエラー表示となった。
「えっ?」
「エラーになっちゃいましたね」
「しょ、少々お待ちください」
予想通り認識がされなかったけど、ここからどうなるのだろうか。
受付のお姉さんは、慌てた様子で奥へと行った後、いかついおじさんを連れて戻ってきた。
「局長、こちらの方です」
「ふむ、彼か」
整えられたあごひげをさすりながらこちらをジロジロと見てくるおじさんは、スーツを着ており、鍛えられた体にジャケットがとても窮屈そうだ。
「ひとまず、ここでは話しにくいこともあるだろう。奥の応接室に行こうか」
「わかりました」
「ケケケケ。この筋肉だるま、中々ヤバそうだから注意しとけ」
「わかった」
警戒をしている様子のカラレに小声で答え、局長と呼ばれていた男についていく。
通された部屋は、会議室のような部屋だった。
「さて、まずは、自己紹介といこうか。俺は、ダンジョン運営局、白羽根ダンジョン支局長の四賀太平だ」
「俺は、久崎リオンです」
「そっちの羽の生えた少年は?」
「おっと、おっさん俺が視えるのか。悪魔のカラレ。成り行きでこいつと行動している」
「悪魔?まぁいい。久崎君はなぜ生体IDのスキャンにエラーが出たか心当たりはあるのかね?」
「死亡手続きがされているみたいなので、それが原因なのかなと…」
「やはりその手の案件か」
「けっこうあるんですか?」
「ここ2.30年くらいは毎年1件はあるな。ただダンジョン外での話は初めて聞くがな」
「なんで俺がダンジョン外ってわかるんですか?」
「冒険者登録してないんだからダンジョンに入れないだろう。この手のケースはタグのみ回収されて出てきたときのスキャンで発覚っていうパターンでしか発生していなかったんだがな」
「ケケケケ。管理社会コエー」
「管理されているからこそ分かるんだ。犯罪の割り出しも簡単に出来る」
「それでおっさん。リオンはどうなんだ?」
「まずは、事情を聴かせてもらおう。なぜ、悪魔といるのかというところも含めてな」
少し迷ったが、自分のスキルについてはぼかしつつ話すことにした。
これまで起こったことをかいつまんで話していると、四賀さんは顔を歪めていったが、気にせずに話した。
「以上がこれまでに起こったことです」
「あんの女狐やってくれたな」
「涼子さん…川北を知ってるんですか?」
「少しだけ因縁のある相手だな。話すと長くなるんだが…」
「おっさんの話には興味ねぇからリオンがどうしていけばいいか教えてくれよ」
「はぁ。せっかちな悪魔だ」
「敵の敵なら味方にもなれるだろ。簡単に裏切られもするがな」
なんかカラレが不穏なことを言っているが、俺も早く行動を起こしたいと思ったので、先を促した。
「面倒な手続きは必要になるが、ある程度はこちらで進めておこう。それから社員寮に空きがあるから今はそこを使うといい」
「ありがとうございます」
「図体だけでかいが、小学校中退してっから、サインするときに口頭での説明もよろしくな!」
「そうか、久崎君はまともな教育を受けられていないのか」
「そうですね。研究所では実験の日々でした」
「わかった。そこら辺も考慮して動こう」
「何から何までありがとうございます」
「いや、気にしなくていい」
「そうだぞリオン。このおっさんもなんか思惑があるんだ。社員寮に居れるのだって監視か囮に違いないから気にしなくていい」
「四賀さんはそこまでいってないだろう」
「いや、この悪魔の言う通り近くに置くのは思惑あってのことだ。利用されるからには利用するくらいの気持ちでいれくれて構わない。あとは単純にこういうことも含めて仕事の内だからな」
「ありがとうございます」
「それでおっさん。リオンは冒険者になれんのか?」
「講習を受けてもらう必要はあるが、能力がある時点で問題ない。手配しておこう」
「講習なんてリオンが分かる訳ねぇんだから、免除しろよ」
「おい、さすがに馬鹿にしすぎだろ!俺にだってちゃんと理解出来るよ!」
「規則で免除は無理だ。それから理解できなくても理解できるまでしっかりと教えるから安心してくれ」
「ケケケケ。補習コースましっぐら~」
こうして、四賀さんのおかげで、住居と職がなんとかなった。
社会的に生き返ることが出来て、ひどく安堵した。
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