カメレオン小学生

ウルチ

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序章

天使は悪魔と名乗った

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研究所は、第三ダンジョンシティの隅っこに存在していた。
能力検査を受けた役所がある街の2つ隣の街だ。
ここは、テロ事件に巻き込まれた時のデパートがあった街だ。

少し歩くと様変わりというほどでもないが、見たことのない建物が多かった。

現在地が分かったところで一度家に帰ることにした。
きっと叔母さんたちは心配しているはずだ。

見つかるリスクも考えたが、川北が戻ってくるのは三日後の予定だから大丈夫だ。
やっと帰ることが出来る。
俺は、全力で走った。


明け方になって無事に家に着くことは出来た。
出来たのだが…

そこは、更地で空き地の看板が立っていた。
足に力が入らない。
あるべきはずの物がない喪失感は想像以上に大きかった。

「ちょっと、そこのあなた大丈夫?」

突然背後から声をかけられた。
一緒にボランティア活動をしたことがある、近所のおばさんだ。
逃げている最中だから俺がリオンだということは気づかれるまで黙っておくことにした。

「大丈夫ですよ。全力疾走しすぎて少し疲れただけです」
「そう?でも、ここに用があったように見えたわよ?」
「そうですね。あなたは、ここに住んでいた久崎をご存じですか?」

そこでおばさんは暗い顔をした。

「ここに住んでいた久崎さんはねぇ、不幸が重なってしまったのよね」
「不幸?」
「10年くらい前だったかしらねぇ。両親を亡くして引き取った親戚の子が危険な能力だってことで帰ってこれなくなっただけどね、その半年後くらいに自身の能力の暴走で亡くなったのよ。しかも遺体は残ってなくて届いたのは肘から先の腕だけ。自分だって両親を亡くしたばかりなのに人のために頑張るんだぁ~ってボランティア活動に積極的に参加するいい子だったんだけどねぇ」

言葉が出てこなかった。
あの検証の時、俺は死んだことにされていたらしい。
おそらく川北は最初からこうするつもりだったのだろう。
先に死んだことにしてしまえば、あとは使いつぶせばいい。
実験でどうなったとしても処分してしまえば問題ないということだ。

「それからもご夫婦ともにへこたれずに過ごしていたんだけど、今度は旦那さんが事故にあって亡くなった。それから奥さんが精神的におかしくなってしまって、最後には自殺したのよ。色々なことが重なってまいってしまったんでしょうね」

二人が亡くなった?
信じられない思いでいっぱいだったけど、目の前の更地が真実だと言ってきているように感じた。

「家はどうして壊されたんですか?」
「事故物件扱いになって買い手が付かなかったのよ。それで、管理も手間だってことで、つい最近取り壊されたのよ」
「そうですか」
「それより、あなたは久崎さんを訪ねてきたんでしょ?どんな知り合いなの?」
「昔、少しの間だけお世話になったことがある程度の関係です。ホントにそれだけで…」

涙が自然と溢れてきた。
俺がつらい記憶を思い出さないように、常に優しく温かった二人がもういない。
そして、俺の居場所がもうどこにもないのだとわかって心がついてこない。
だが、ここで立ち止まる訳にもいかない。

「ちょっと、大丈夫?落ち着くまでうちでお茶でも飲んでいくかい?」
「いえ、大丈夫です。もう行かないとなので。お話、ありがとうございました」
「そうかい。どういたしまして。気を付けて帰るんだよ」
「はい、ありがとうございます」

こうして俺は、自身の存在と居場所を奪われたのだった。
 
 
 
行く当てもなく、ひたすらに走った。
もう、俺が頼れる人はどこにもいない。
逃げても無駄なのかもしれない。
死んだことになっているから、生体IDも無くなっているため買い物も出来ないし、公共施設を使うことも出来ないはずだ。

「これからどうすればいいんだよ」

人がいない方へ人がいない方へと移動した。
そうしてたどり着いたのは、サスペンスドラマに出て来そうな崖。

「はは…結局こうするしかないのかなぁ」

「おぉ!本当にこんな所に来るやついるんだな!死ぬのか!なぁ、死ぬのか!?」
 
さっきまで誰もいなかったのに、そんな言葉が頭上からかけられた。

「おいおい黙ってないでなんか言ってくれよぉ。つまらないだろぉ」

なんてデリカシーのない発言だ。
俺が本当に自殺するつもりだったらどうする気だ。

「死ねるもんなら死にたいよ。でも、ここじゃ無理だ」
「ん?人間だったらこの崖から飛べば十分だろ?」
「一応、能力持ちなんだよ。だから無理だと思う」
「能力?あぁスキルのことか!だったらダンジョンにでも行けばいいだろ。あそこなら細っぱちなお前ならすぐにおさばらさ!」
「いや、それも出来ない状況なんだ。俺には施設を利用するための生体IDがない」
「生体ID?なんかよく分からんが、楽しそうな状況だな!」

さっきからこいつは何を言っているんだ?
俺はやっと声の主を探すために顔を上げた。
そして、そこに居たのは、純白の羽を風に靡かせる天使。
修道士が身に着けていそうな旅装束を着ていた。

「天使?俺の迎えに来てくれたのか?」
「いんや。俺は悪魔だ。お前を食いに来た」

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