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9話

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「ど、ドラゴンだあ!」


それは実習としてゴブリンを狩っている最中だった。
一人の生徒の悲鳴が、野原に響いた。


彼は空を指さしている。


空を見上げる。
そこにはこちらに拘束で向かってきている赤いドラゴンがいた。


レッドドラゴン。


世界のあちこちに生息する巨大生物。
滅多に人前には表れないけれど、表れたら町一つ無くなってしまうような、動く災害だ。


「な、なんでこんなところにドラゴンが!」


教師が原作通りの台詞を吐いた。
どうやらイベントが始まったようだ。


手に炎を出す。


「マリー!急いで逃げよう!」


ルークが私の手を引いた。
原作のマリーは、腰を抜かし、お漏らしをしながら彼に引っ張ってもらう。


だが、今の私はそんな情けない姿はさらさない。
先手必勝だ。


教師が食べられる前に、仕留める。


「うわああ!」


レッドドラゴンの口が開いた。
教師を丸呑みするように。


(させない)


そんなドラゴンに対して青い炎を放つ。


「キシャアアアアアアアアアアア!」


ドラゴンは全身が青い炎に包まれた。
いきなりの攻撃に驚いたのか、バランスを崩し、地面にそのまま激突した。


「な、なにが!?」


「マリー様だ!マリー様の魔法だ!」


教師が腰を抜かし、何がおこったか分からないという顔をしている。
とりあえず、生存させることには成功したようだ。


ドラゴンの墜落地点には大きな土煙が上がっている。


「やったか?」


生徒達がフラグを立てる。
ああ、これは生きてる奴だ、と土煙を見つめていると、


「ガアアアアアアアア!」


と空気を震えさせる方向をしながらドラゴンが顔をだす。
全身にやけどを負っている。けれど元気よく動いていた。


(ウソでしょ)


顔には出さないけれど、内心はパニックだ。
最大火力を当てたというのに、元気いっぱいだなんて。


せめてもう少しダメージを負って欲しかった。


「ま、マリー!あいつ、こっち見てる!」


ルークが悲鳴を上げた。
彼の言う通りドラゴンは怒った顔で私を見つめている。
いきなり全身を焼いたのだ。恨まれもするだろう。


「ガア!」


(まずい)


ドラゴンは私に向けて口から火を噴いてくる。
ブレス攻撃だ。回避は無理。


青い炎を放って、正面から対抗する。
赤と青の炎が混ざって、大爆発が起きた。


「うわああああああ!」


生徒達が悲鳴を上げた。


「逃げてください!みなさん!できるだけ遠くに!」


爆風や悲鳴に負けぬよう、教師が大声で叫んだ。
声を聞き、生徒達は蜘蛛の子を散らしたように逃げ始める。


そして教師も魔法を放ち始めた。


生徒達を守るために。


この人がどれだけドラゴンと戦えるかは、わからない。
だって原作では開始早々食べられてしまい、戦っていないし。


「マリー様、あなたも逃げてください。ここは、僕が!」


威勢良く言い放ちながら、教師は魔法を放った。
炎の槍がドラゴンを襲う。


パスッ。


炎の槍は竜の鱗に当たって消えた。
ダメージは全くなさそうだった。


「・・・・・・?」


ドラゴンはまったく気にしていなかった。


や、やくにたたねえ。


貴族の教師を任されるような優秀な人間でこれなのだ。
どうやら私の魔法は、そこそこダメージを与えられていたらしい。


最悪な誤算であった。


「ガア!」


再びドラゴンがブレスを吐いた。
今度は教師に向かってであった。


「ああ!」


教師は急いで防御の魔法を張る。
けれどそれはブレスの前ではボロぞうきん当然で、一瞬で破壊されてしまった。
勢いがそのままのブレスが教師を襲う。


救出は、間に合わない。


「邪魔だ」


教師のことは諦めようとしたとき、男の声が聞こえた。
そして教師の前に赤い氷の柱が現れる。


赤い氷はドラゴンのブレスを防ぐ。
みるみると解かされていき、辺りが水蒸気に包まれた。


水蒸気が晴れる。
そこには教師と、彼の前に立つウィルがいた。


どうやら彼が教師を助けたようだった。
ポーカーフェイスを貫いているが、恨んでいる国の人間を救うくらいは、情はあるらしい。


「死ね」


ウィルが氷を放つ。
無数の赤い氷で出来た剣がドラゴンを襲った。


「ガアアアア!」


「・・・堅いな」


氷の剣がドラゴンに突き刺さる。
ダメージにはなっているようだが、浅い。


まだ倒れてくれそうな気配はなかった。
けれどこれで攻撃が効く存在が二人いる。


ドラゴンは、どちらも警戒しなければいけなくなる。


本当は私一人で倒してしまうのがベストであったのだが。
この際はしかたない。


食べられるよりは、マシだと思おう。


「ガア!」


ドラゴンがブレスを吐いた。
今度はウィルに対してだ。


ウィルは再び氷で防ぐ。
ブレスを吐いている隙をついて、私はドラゴンに魔法を打ち込んだ。


「ガアアアアアアアア!」


ドラゴンの悲鳴が響く。


「「・・・・・・」」


ウィルと目が合った。
お互いに発する言葉はない。


仲もよくなければ、話したことだって数えるほどしかないのだ。


だが、非常に不服ではあるが、連携が取れていた。
息がぴったりあっているのだ。


これなら、勝てる。
フラグをへし折ることができる。


そんな希望を胸にいだきながら、ドラゴンとの戦いを続けるのであった。
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