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8話

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「マリー、君はずいぶんと変わったね」


「そうでしょうか?」


テーブルに置かれた紅茶を口に付けながら、私は返事をした。
返事をした相手は、ルークと言う男性だ。


マリーの婚約相手。
子どもの頃から結婚することが決まっていた許嫁だ。


彼は昔からの私を知っている、数少ない人物である。


粗暴で、わがままで、気に入らないことがあるとすぐに権力で黙らせてくる悪女マリー。
彼女とずっと一緒にいるのだから、変化に気づくのも当然だろう。


けれど、もうそこそこの時間を共に過ごしている。
今では、混ざった私の方が正常と言う認識でいてくれる、はずだと思いたい。


正直ルークと共にいるのも怖いのだ。
原作では私は別の男と浮気をしてルークを裏切る。


そしてさまざまな葛藤を得た後に、大正義主人公様の味方について、私を倒す。
マリーの行動がきっかけとはいえ、普通に私の敵なのだ。


(・・・まだ信用してないから!)


「?」


ルークをちょっとにらみつける。
彼は首を傾げ、頭の上に疑問符を浮かべていた。


まだ敵ではないのだ。当然だろう。


私は浮気などする気は一切無い。
でも、その場合ルークがどう動くのかがまったくわからない。


何もしなくても敵になるのか、それともこちらの味方になるのか。
完全なイレギュラーだ。


想定外の動きをして、足下をすくわれるかもしれない。
要警戒、という風にしておこうと思う。


学校生活は順調に進んでいた。


けれど油断はできない。
ヘレナも着々と行動を起こしているからだ。


この前は、授業でケガを負ったウィルの治療をしていた。
原作での、二人が初めて関係を持つイベントが起こったのだ。


それいらい、二人は急速に距離を縮めている。
私を倒す主力メンバーが近づいているのはとてもまずい。


私が助けて以降、ヘレナは目に見えたイジメを受けているようには見えない。
だから貴族制への憎悪も少なく、原作と同じようにウィルと手を組むとは思えないけど。


でも怖い。


ひょんな事で手をくまれてしまえば一巻の終わりだ。
二人の仲を裂いてやりたいと心のそこから思う。


ただ、それ明らかに悪役がやって、結局上手くいかなくて、二人の仲をさらに深める行動だよなと気づいて実行はしていない。


どうしたものか。
再びため息をつきながら、私はルークとのお茶会を終え、講義に参加するのであった。


「今日は戦闘訓練をしていただきます。校外で実際に戦闘を行いますので、くれぐれもよそ見などしないように」


教師の声を聞きながら馬車に揺られる。


前にも解説したとおり、貴族は魔法という強力な力をもつ。
そして多くの特権を与えられる代わりに、国と平民を守る義務があるのだ。


あと平民の鎮圧。


そのため戦闘系の訓練はかなり多い。
今回はより本格的な実地訓練をやるわけだ。


(・・・さて、ここからが、問題だ)


さて、ここで問題だ。
今までの原作のシーンを鑑みて、この実地訓練は無事に終わるでしょうか?


シンキングタイムはなしだ。


正解は、終わらない。
なぜなら、この作品の作者はとても性格が悪いから。


実地訓練を行っていると急にドラゴンがやってきて、


「な、なんでこんなところにドラゴンが!」


と叫ぶ教師をペロリと食べてしまのだ。
その後、ドラゴンは生徒達を追いかけ回す。


みんなを逃がそうと主人公が囮になって、さあ食べられてしまわれそうとなったら、ウィルが助けにはいり、二人は行方不明に。


で、無事に帰ってきたと思ったら、二人は心が完全に通じ合ってるというわけだ。


本当に最悪なイベントだと思います。


ともかく、二人に関係はこれ以上深くさせたくない。
そのためにはこのドラゴンイベントを回避させてやる必要がある。


(鍛えた魔法で、焼きトカゲにしてやる)


幼少期から訓練をし続けて、私の魔法技術は12歳とは思えないほどに成長していた。
きっとこれならドラゴン相手にでも戦えるだろう。


二人がピンチになる前に。
いやそもそも教師が食べられてしまう前に倒せば、イベントは発生しない。


これ以上原作通りに進ませてなるものか。
フラグは全部へし折って、物語を成立できなくさせてやる。


首のためだ。
悪く思わないでほしい。


「では、はじめましょう」


馬車が止まった。


学校から少し離れた広場へと到着する。
実習が始まったら、すぐにドラゴンは空からやってくる。


来た瞬間に、始まるのだ。
これからの未来を決める、大きな分岐が。


絶対に、ミスは許されない。
私は深呼吸をして、自分を落ち着かせながら馬車から降りるのであった。
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