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7話
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「平民のくせに!生意気なんだよ!」
講義を終え、教室を移動していると声が聞こえてきた。
怒りが籠もった怒声だ。それに平民という単語も聞こえた。
この学校で、平民と呼ばれる人間は一人しかいない。
まさか、と思い声の元に走って向かった。
「や、やめてください」
声の先では予想通りの光景が広がっていた。
ヘレナがいじめられていたのだ。
貴族の生徒達に囲まれている。
水をかけられたのか全身が濡れていた。
おもわず顔をしかめる。ここは原作通りなのか。
原作でのヘレナも、こんなふうに貴族達にいじめられ続けていた。
まるで彼女に親でも殺されたかのごとく。
で、ちゃくちゃくとヘレナの心には貴族制打倒という意思が育まれていくことになる。
最終的に自分たちの首を切り落とす怪物を、自分たちで育ててしまったのだ。
当然、私は首を切られたくはない。
「なにをしているの?」
「は?誰だよ?あ!ま!マリー様!」
再び彼女に水を掛けようとしている生徒に声を掛ける。
生徒は邪魔されたことにイラついたのか、一度こちらをにらみつけ来た。
けれど声を掛けたのが私だと分かると、驚き目を見開く。
「も、申し訳ありません!失礼な態度を!」
「それはいいの。これは、なにをしているの?」
歩いてヘレナの前に立つ。
彼女を生徒達から、庇うように。
生徒達は目をそらし、気まずそうにしていた。
自分たちがやっていたことに、悪いという自覚があるのだ。
私の質問には答えずに、もごもごと口を動かしている。
さて、これからどうしようか。
このまま弱いものイジメはいけません、などと言うつもりはない。
貴族達は正義感で動くわけではないから、無意味だ。
下手に正義を振りかざせば、私の立場が逆に危うくなってしまう。
貴族であるにもかかわらず平民を庇った裏切り者だとレッテルを貼られて。
それだけは避けなければいけなかった。
「あなた、名前は?」
「は、はい!フレデリカと言います」
「そう、フレデリカ。言い名前ね。あなた、この子に水をかけたのね」
「それは、その・・・」
フレデリカはうつむく。
堅く口を閉ざしながら。
「とても、良い心がけだと思います」
「え?」
私は微笑みながら言った。
言葉を聞いたフレデリカは、驚いた様に顔を上げる。
そして私の顔を凝視した。
「言葉で言っても分からないから、体で教えてあげたのでしょう?この獣に」
「えっと、その」
「良い判断よ。でも、あまり熱中してはだめ。私達は人よ?できるだけ人と一緒にいましょう。ね?大切な時間を、獣をなんかに使ったら、だめ」
「!」
フレデリカが何かに気づいたようにハッとした。
他の生徒達がざわめいている。
一斉に私を見つめていた。
自分たちの行いが肯定されるなどと思ってすらいなかったのだろう。
以前、皇帝陛下に意見を具申したときと同じだ。
いい状況であった。
後一押しだ。
「後は私がやっておく。だから、もうしちゃだめよ?あなたの貴重な時間を、無駄にしないで」
「そうでした、私はなんて馬鹿な事を。ありがとうございます、マリー様!」
フレデリカは満面の笑みで返事をしてきた。
そして私と固い握手をしてくる。
まるで真理でも教えていただけたかという風に。
そしてそのままたち去っていってくれた。
私に、手を振りながら。
他の生徒達も、少し不満はありながらも素直にフレデリカに付いて行った。
さて、これで第一関門は突破した。
思わずため息をつく。
これで私のイメージを壊さず、ヘレナを救えた。
いちいちこうしなければいけないというのは、面倒くさくてしかたがない。
そうしてヘレナと二人きりになる。
場には重い空気が流れていた。
「・・・・・・」
肝心なヘレナは、私の顔ををジッと見つめていた。
濡れた自分の体も気にとめずに。
少し微笑んでいるようにも見えた。
さきほどまでいじめられていて、目の前で獣とよばれたにも関わらずだ。
いったいどんな神経をしているのだろうか。
「すぐに乾かしてあげる。乾いたら目の前から消えなさい」
手に青い炎を出現させる。
ヘレナは水でずぶ濡れだ。
下着がすけて見えてきてしまっている。
このままでは講義もうけれないだろう。
確か原作では替えの着替えも持っていなかったはずだ。
魔法を使って、一瞬で衣服を乾かしてあげておく。
「やっぱり、すごい」
ヘレナは感嘆の声を上げた。
私の青い炎を見つめながら。
口を開けて喜んでいる。
やけにのんびりしているな、と思う。
確かに、青い炎を使えるのは帝国で父と私だけだ。
珍しく見とれてしまうというのはわかる。
でも先ほどまでいじめられていた人間がする反応だろうか。
さすが主人公となる人物だ。精神構造が根本から違うらしい。
「ふん!」
髪を払って、不機嫌そうな鼻息を鳴らし、いかにも悪役のように振る舞う。
私はあなたの味方ではないよとアピールをしておく。
下手に勘違いされてもこまるからだ。
「あ、あの!」
「興味ない」
ヘレナが私に話しかけてきた。だが、会話をするつもりはない。
生徒達に時間を無駄にするなと言ってしまったのだ。
言った本人が無駄にしていては示しがつかないだろう。
有言実行を行うためにも、ヘレナの言葉は無視して歩き出す。
「助けていただいて、あ、ありがとうございました!」
後ろから、ヘレナの言葉が聞こえてきた。
これでイジメが減ると、いいのだけど。
私の戦いは、まだまだ続きそうだった。
講義を終え、教室を移動していると声が聞こえてきた。
怒りが籠もった怒声だ。それに平民という単語も聞こえた。
この学校で、平民と呼ばれる人間は一人しかいない。
まさか、と思い声の元に走って向かった。
「や、やめてください」
声の先では予想通りの光景が広がっていた。
ヘレナがいじめられていたのだ。
貴族の生徒達に囲まれている。
水をかけられたのか全身が濡れていた。
おもわず顔をしかめる。ここは原作通りなのか。
原作でのヘレナも、こんなふうに貴族達にいじめられ続けていた。
まるで彼女に親でも殺されたかのごとく。
で、ちゃくちゃくとヘレナの心には貴族制打倒という意思が育まれていくことになる。
最終的に自分たちの首を切り落とす怪物を、自分たちで育ててしまったのだ。
当然、私は首を切られたくはない。
「なにをしているの?」
「は?誰だよ?あ!ま!マリー様!」
再び彼女に水を掛けようとしている生徒に声を掛ける。
生徒は邪魔されたことにイラついたのか、一度こちらをにらみつけ来た。
けれど声を掛けたのが私だと分かると、驚き目を見開く。
「も、申し訳ありません!失礼な態度を!」
「それはいいの。これは、なにをしているの?」
歩いてヘレナの前に立つ。
彼女を生徒達から、庇うように。
生徒達は目をそらし、気まずそうにしていた。
自分たちがやっていたことに、悪いという自覚があるのだ。
私の質問には答えずに、もごもごと口を動かしている。
さて、これからどうしようか。
このまま弱いものイジメはいけません、などと言うつもりはない。
貴族達は正義感で動くわけではないから、無意味だ。
下手に正義を振りかざせば、私の立場が逆に危うくなってしまう。
貴族であるにもかかわらず平民を庇った裏切り者だとレッテルを貼られて。
それだけは避けなければいけなかった。
「あなた、名前は?」
「は、はい!フレデリカと言います」
「そう、フレデリカ。言い名前ね。あなた、この子に水をかけたのね」
「それは、その・・・」
フレデリカはうつむく。
堅く口を閉ざしながら。
「とても、良い心がけだと思います」
「え?」
私は微笑みながら言った。
言葉を聞いたフレデリカは、驚いた様に顔を上げる。
そして私の顔を凝視した。
「言葉で言っても分からないから、体で教えてあげたのでしょう?この獣に」
「えっと、その」
「良い判断よ。でも、あまり熱中してはだめ。私達は人よ?できるだけ人と一緒にいましょう。ね?大切な時間を、獣をなんかに使ったら、だめ」
「!」
フレデリカが何かに気づいたようにハッとした。
他の生徒達がざわめいている。
一斉に私を見つめていた。
自分たちの行いが肯定されるなどと思ってすらいなかったのだろう。
以前、皇帝陛下に意見を具申したときと同じだ。
いい状況であった。
後一押しだ。
「後は私がやっておく。だから、もうしちゃだめよ?あなたの貴重な時間を、無駄にしないで」
「そうでした、私はなんて馬鹿な事を。ありがとうございます、マリー様!」
フレデリカは満面の笑みで返事をしてきた。
そして私と固い握手をしてくる。
まるで真理でも教えていただけたかという風に。
そしてそのままたち去っていってくれた。
私に、手を振りながら。
他の生徒達も、少し不満はありながらも素直にフレデリカに付いて行った。
さて、これで第一関門は突破した。
思わずため息をつく。
これで私のイメージを壊さず、ヘレナを救えた。
いちいちこうしなければいけないというのは、面倒くさくてしかたがない。
そうしてヘレナと二人きりになる。
場には重い空気が流れていた。
「・・・・・・」
肝心なヘレナは、私の顔ををジッと見つめていた。
濡れた自分の体も気にとめずに。
少し微笑んでいるようにも見えた。
さきほどまでいじめられていて、目の前で獣とよばれたにも関わらずだ。
いったいどんな神経をしているのだろうか。
「すぐに乾かしてあげる。乾いたら目の前から消えなさい」
手に青い炎を出現させる。
ヘレナは水でずぶ濡れだ。
下着がすけて見えてきてしまっている。
このままでは講義もうけれないだろう。
確か原作では替えの着替えも持っていなかったはずだ。
魔法を使って、一瞬で衣服を乾かしてあげておく。
「やっぱり、すごい」
ヘレナは感嘆の声を上げた。
私の青い炎を見つめながら。
口を開けて喜んでいる。
やけにのんびりしているな、と思う。
確かに、青い炎を使えるのは帝国で父と私だけだ。
珍しく見とれてしまうというのはわかる。
でも先ほどまでいじめられていた人間がする反応だろうか。
さすが主人公となる人物だ。精神構造が根本から違うらしい。
「ふん!」
髪を払って、不機嫌そうな鼻息を鳴らし、いかにも悪役のように振る舞う。
私はあなたの味方ではないよとアピールをしておく。
下手に勘違いされてもこまるからだ。
「あ、あの!」
「興味ない」
ヘレナが私に話しかけてきた。だが、会話をするつもりはない。
生徒達に時間を無駄にするなと言ってしまったのだ。
言った本人が無駄にしていては示しがつかないだろう。
有言実行を行うためにも、ヘレナの言葉は無視して歩き出す。
「助けていただいて、あ、ありがとうございました!」
後ろから、ヘレナの言葉が聞こえてきた。
これでイジメが減ると、いいのだけど。
私の戦いは、まだまだ続きそうだった。
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