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2章 王国編

41話

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「少し、不味いかもしれないです」


「え!?え!?ど、どうしよ!?」


スグルの肩を借りながら歩く。


血が止まらない。
道に赤い目印が付いている。


ずっとポタポタと出血しているのだ。


頭がクラクラとしてきた。
息が荒くなる。
視界がゆがむ。


脂汗が止まらない。


まっすぐ歩けなかった。
歩き続けるのは厳しそうだ。


「や、休もう!?」


幹によりかかせてもらう。
少し楽になった。


けれど良くはなってくれなそうだ。


「の、飲んで」


スグルが水を含ませてくれる。


でも、意識の混濁が止まらなかった。


まさか傷がここまで響いてくると。
想定外だった。


眼帯男の置き土産。
本当に最悪なものをくれたものだ。


まだ、逝くわけにいかないのだ。


私が死んだら、父は悲しんでしまう。
これから一緒にたくさんすごすと決めたんだ。


まだ、父を一人にするわけにはいかない。
父と、まだ離れたくない。


苦しんでも、生きる。


それが、約束なのだ。
お母さんと、父との。


「ど、どうしよう!?」


「火を、起こしてもらえますか?」


「火?」


「はい。やりたくなかったのですが、やります」


スグルにお願いして、火をおこしてもらう。


そしてナイフを火で温めた。
出血を止めないといけない。


けれど今、まともな道具はない。
そしてお医者さんもいない。


ここに船医さんがいてくれれば、どれほど良かったことか。
そう思う。


「こ、これ、ど、どうするの!?」


ナイフが熱せられる。
真っ赤に発光していた。


「傷口に、押し当ててください」


服を脱いで、傷口を見せる。


「い、いいの!?」


「よくは、ないです」


傷口を焼いて塞ぐ。
これが今できる最善の方法だ。


合っているかは知らない。
焼いて傷を塞ぐと聞いたことがあるだけだ。
軍人さん達の会話から。


布を噛んでおく。
間違って舌を噛まないように。


そして目で合図をした。
お願いします、と。


スグルはこくりと頷く。
深刻そうな顔で。


熱せられたナイフが、傷口にあたる。
森には、私のうめき声が響いた。


結論から言えば、血は止まった。
どうやらうまくいってくれたようだ。


「はあ、はあ、はあ」


「もう少し、もう少しだから!」


歩いた。
スグルの肩につかまりながら。


体はもうボロボロだ。
でも、歩く。


帰るのだ。
帝国に。


どんな事があっても。
それでを考えて、歩いた。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「おめえら、災難だったな~」


知らない声で目を覚ました。
どうやら意識を失っていたらしい。


体が揺れる。
誰かに背負われているようだった。


「あ!よかった!」


「お?目、覚ましたか?」


横を見る。
スグルがいた。


彼は歩いているようだ。


前を見る。
予想通り、私は背負われていた。


老人だった。
彼が私を背負って、移動してくれている。


人と合流できたようだ。
しかも、眼帯の男と関係のない人間と。


これなら、一安心だった。


老人にそのまま運ばれていく。
着いたのは、小さな村であった。


王国国内に存在する村。
平民の階級の皆さんが住んでいるらしい。


「森歩いてたらお前らがいて、ビックリしたよ」


「すみません、迷子になってしまって」


スグルが受け答えをする。
どうやら私達は迷子という設定のようだ。


服は猟師小屋で拾ったもの。
だから疑われたはしない。


「痛いと思うけど、我慢してね」


私はすぐに治療をしてもらった。


村のみなさんに。
消毒と簡単な手当てを。


あとお風呂。


おばさん達があっというまに取り囲んでくる。
動けない私をの衣服を脱がし、やってくれた。


そのまま床に寝かせられる。
絶対に安静に、ときつく言いつけられながら。


「偶然、会えたんだ」


スグルが耳打ちをした。


老人とは、本当に偶然であったらしい。


私が気を失って、どうしたらいいか分からない。
森で泣いていたら、その声を聞きつけて。


彼が来てくれたそうだ。


「困ったときはお互い様だ。ゆっくりしなさんな」


老人は言った。
運が回って来ているようだ。


でも、のんびりしている暇はなかった。


急いで、連絡をしないといけない。
パウルの元に。


私が、ここにいる、と。


(手紙は、届くだろうか)


前のように内通者がいて。
こちらの位置がばれてしまう可能性も、ある。


敵は王国兵に紛れているのだ。
その可能性は無視は出来ない。


でも、リスクをおってでも、出すしかない。


ここに居続けるわけにはいかないのだ。


パウルのことだ。
内通者の事は熟知しているだろう。


なんといっても経験者なのだ。
敵と内通することに関しては。


素人の私より、よほど信用できる。
対策も、見分け方も。


こういうときは、頼もしい。


手紙を送ってもらう。
これで、もう、大丈夫だ。


「よかった~、よかった~」


子犬のようにじゃれてくるスグルを見つめながら、再び眠りにつく。
安心をしたせいか。


眠るのに、そう時間はかからなかった。
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