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2章 王国編
40話
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川から這い上がった。
スグルを掴みながら。
彼は気を失っているようだ。
寒さで唇を紫にしながら。
軽く震えている。
体調は良くはなさそうだ。
そして私も、似たような状況だ。
加えて横腹が熱い。
赤くにじんできている。
撃たれたようだ。
でも抑えている暇は無い。
気にせずに、歩く。
血が出るのを。
意識がもうろうとする。
だが、息をしている。
生きていた。
追っ手も来ている気配はない。
逃げ切れたのだ。
今は、それだけで十分だ。
(火を、起こさなくちゃ)
冷たい水で体を濡らした。
体が震えている。
急いで温めなければいけない。
「あれ?」
体が勝手に倒れた。
意識はある。
けれど体が動かない。
言うことを聞いてくれない。
全身が悲鳴を上げていた。
無理をしすぎたようだ。
意識が遠くなっていく。
今、気を失うのは、良くないのに。
まぶたが自然と閉じていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ!起きた!起きた!」
目が覚めた。
目の前にはたき火があった。
パチパチと音を鳴らし、燃えていた。
暖かい。
思わず手をかざす。
冷たいからだが、じんわりと暖まった。
声をする方を見る。
先にはスグルがいた。
こちらをみて、安堵している。
子犬のような笑顔だ。
すぐ駆け寄ってきた。
大丈夫?苦しくない?としきりに聞いてくる。
私は意識を失っていた。
火をおこす前に。
ということは、彼がやってくれたのだろう。
「ッ!」
「あ!まだ動いたらだめだよ!」
思わず起き上がる。
でも、痛みで顔を歪めた。
撃たれた傷の所だ。
傷を見てみる。
(・・・手当されれてる)
とても雑だけれど。
布が当てられていた。
傷は、そこそこといったところか。
弾がかすめたようだ。
深刻ではない。
けれど放置はよくない。
そのくらいの傷だ。
動きもかなり制限される。
最悪な置き土産だ。
あの眼帯男からの。
状況を確認する。
私が意識を失ったあと。
どうやらすぐに彼が目を覚ましたらしい。
そして私を運んで、火を付けて、手当もしてくれたそうだ。
服も替わっている。
スグルが着ていたものに。
おそらく先に乾かしたのだろう。
そして着替えさせたといった所か。
おかげで越えずに済んだ。
ただの臆病な人だと思っていた。
でも、なかなかどうして。
とても助けられていた。
「ありがとうございます。着替えまでしていただいて」
「見てないよ!ちゃんと目をつぶってやったからね!」
感謝を伝える。
スグルはあわあわと弁明する。
何を慌てているのだろうか。
よく分からない。
「道具は、ダメですね」
スグルを無視しつつ、道具を確認する。
多くの道具がダメになっていた。
無くなっていたり、濡れて使えなくなっている。
川に飛び込んだせいで。
いらないモノは捨てていく。
バッグがあるだけ良かったと思おう。
「ねえ、本当に大丈夫なの」
「大丈夫では、ないです。でも、動くしかありません」
なんとか立ち上がる。
スグルに肩を借りながら。
ここに留まるのは危険だ。
追っ手が来ているかもしれない。
眼帯の男。
彼はとてもおそろしい。
再び出会わないために。
移動し続けるしかない。
ゆっくりと歩き始めた。
歩くたびに、苦痛で襲う。
ブローチを、握りしめる。
大丈夫。
まだ、苦しめる。
「・・・あ、あのさ」
「なんでしょうか?」
「そのブローチって、お気に入りなの?」
「どうして、そう思ったのですか?」
「いや、その、ずっと握っていたから」
スグルが問うてきた。
母の形見のブローチの事を。
いつも肌身離さず付けている。
そして苦しいときに、堅く握っている。
おかしなことではないだろう。
思い出の品と予測されるのも。
少しだけ話した。
母の事を。
自分の過去を。
話していると、楽になる。
気が紛れて。
痛みが、少しだけ引いてくれた。
「・・・・・・」
「ごめん」
「いえ」
スグルは気まずそうに言った。
そして、少し、力が入った気がした。
私を支える、手に。
スグルを掴みながら。
彼は気を失っているようだ。
寒さで唇を紫にしながら。
軽く震えている。
体調は良くはなさそうだ。
そして私も、似たような状況だ。
加えて横腹が熱い。
赤くにじんできている。
撃たれたようだ。
でも抑えている暇は無い。
気にせずに、歩く。
血が出るのを。
意識がもうろうとする。
だが、息をしている。
生きていた。
追っ手も来ている気配はない。
逃げ切れたのだ。
今は、それだけで十分だ。
(火を、起こさなくちゃ)
冷たい水で体を濡らした。
体が震えている。
急いで温めなければいけない。
「あれ?」
体が勝手に倒れた。
意識はある。
けれど体が動かない。
言うことを聞いてくれない。
全身が悲鳴を上げていた。
無理をしすぎたようだ。
意識が遠くなっていく。
今、気を失うのは、良くないのに。
まぶたが自然と閉じていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ!起きた!起きた!」
目が覚めた。
目の前にはたき火があった。
パチパチと音を鳴らし、燃えていた。
暖かい。
思わず手をかざす。
冷たいからだが、じんわりと暖まった。
声をする方を見る。
先にはスグルがいた。
こちらをみて、安堵している。
子犬のような笑顔だ。
すぐ駆け寄ってきた。
大丈夫?苦しくない?としきりに聞いてくる。
私は意識を失っていた。
火をおこす前に。
ということは、彼がやってくれたのだろう。
「ッ!」
「あ!まだ動いたらだめだよ!」
思わず起き上がる。
でも、痛みで顔を歪めた。
撃たれた傷の所だ。
傷を見てみる。
(・・・手当されれてる)
とても雑だけれど。
布が当てられていた。
傷は、そこそこといったところか。
弾がかすめたようだ。
深刻ではない。
けれど放置はよくない。
そのくらいの傷だ。
動きもかなり制限される。
最悪な置き土産だ。
あの眼帯男からの。
状況を確認する。
私が意識を失ったあと。
どうやらすぐに彼が目を覚ましたらしい。
そして私を運んで、火を付けて、手当もしてくれたそうだ。
服も替わっている。
スグルが着ていたものに。
おそらく先に乾かしたのだろう。
そして着替えさせたといった所か。
おかげで越えずに済んだ。
ただの臆病な人だと思っていた。
でも、なかなかどうして。
とても助けられていた。
「ありがとうございます。着替えまでしていただいて」
「見てないよ!ちゃんと目をつぶってやったからね!」
感謝を伝える。
スグルはあわあわと弁明する。
何を慌てているのだろうか。
よく分からない。
「道具は、ダメですね」
スグルを無視しつつ、道具を確認する。
多くの道具がダメになっていた。
無くなっていたり、濡れて使えなくなっている。
川に飛び込んだせいで。
いらないモノは捨てていく。
バッグがあるだけ良かったと思おう。
「ねえ、本当に大丈夫なの」
「大丈夫では、ないです。でも、動くしかありません」
なんとか立ち上がる。
スグルに肩を借りながら。
ここに留まるのは危険だ。
追っ手が来ているかもしれない。
眼帯の男。
彼はとてもおそろしい。
再び出会わないために。
移動し続けるしかない。
ゆっくりと歩き始めた。
歩くたびに、苦痛で襲う。
ブローチを、握りしめる。
大丈夫。
まだ、苦しめる。
「・・・あ、あのさ」
「なんでしょうか?」
「そのブローチって、お気に入りなの?」
「どうして、そう思ったのですか?」
「いや、その、ずっと握っていたから」
スグルが問うてきた。
母の形見のブローチの事を。
いつも肌身離さず付けている。
そして苦しいときに、堅く握っている。
おかしなことではないだろう。
思い出の品と予測されるのも。
少しだけ話した。
母の事を。
自分の過去を。
話していると、楽になる。
気が紛れて。
痛みが、少しだけ引いてくれた。
「・・・・・・」
「ごめん」
「いえ」
スグルは気まずそうに言った。
そして、少し、力が入った気がした。
私を支える、手に。
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