【第2部開始】すべてを奪われたので、今度は幸せになりに行こうと思います

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)

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2章 王国編

37話

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「走って!」


「まって!まってよ!」


今、走っている。
監禁されていた小屋から離れる。


できるだけ遠くに。


時間はあまりない。
いつ眼帯の男が帰ってくるかわからない。


留まる理由などなかった。


道なき道を進む。


ここは森の中のようだ。
近くに人の気配はない。


急いで誰かと合流しなけれな。
再び捕まれば、もうお終いだ。


今度はもう油断されない。
逃げられないよう、拘束される。


徹底的に。


(逃げ切れるかな)


状況は良くない。
現在地がわからない。


相手の正体もわからない。
分からない事だらけだ。


王国兵が敵だとする。
そうなれば誰に助けを求めればいいのか。


脳みそが焼き切れてしまいそうだ。


だが悪すぎることもなかった。


多くの備品が手に入ったのだ。
小屋と、捕まえた兵士から。


王国のお金に、ナイフに、拳銃。
バッグに、食べ物、飲み水。


どれも今は貴重なものだ。


危険を犯したかいがあった。
自信をもって言える。


それくらいの成果物だ。


「はあ!はあ!はあ!はあ!」


スグルが息を切らす。
荷物を持っているのは私だ。


彼の手も引いている。


にも関わらず息切れがはやい。
どこかで休憩しないと不味かった。


私も息が上がってきている。
心臓が痛かった。


「ね、ねえ!あれ!あれ見て!」


しばらく走り続ける。


すると突然、スグルが指を指した。
指の指す先を見る。


月明かりに辺りが照らされた。
そこには小屋があった。


猟師小屋のようだ。
運はこちらの味方のようだ。


「閉まってる」


小屋に近づく。
扉を引いてみるが開かなかった。


鎖でつながれている。
鍵など当然持っていない。


拳銃を取り出す。


「な、なにするつもりなの!?」


「こじ開けます」


スグルは驚愕している。
だが、いちいち反応している余裕はない。


「ごめんなさい」


拳銃で鎖を撃つ。
布で包んで、音を抑えながら。


乾いた音が響く。
火薬の匂いがこびりつく。


扉が開いた。
鎖は無事に壊れてくれた。


中に入る。
当然だが、誰もいなかった。


猟の際に使う道具が置かれている。
使えそうなものもある。


少し物色させてもらった。


「人のだよ!?人のなんだよ!?勝手に触っちゃっていいの!?入り口もさあ!?」


「緊急事態です。無事に帰れたら、ちゃんと謝りましょう」


後ろでスグルがわめいた。
良いわけがない、と心でつぶやく。


最低な行為だ。


人の物を勝手に物色するなど。


だが、今はやるしかない。
命がかかっているのだ。


このまま捕まる訳にはいかないのだ。


使えるものは何でも使う。
迷惑をかけてしまったとしても。


今はそれだけ考えるのだ。
後の事は、生きていたら考えよう。


「う、うわ!?な、何してんのさ!?」


「着替えてください。制服だと、動きづらいので」


スグルに服を渡す。
息子さん用なのだろうか。


ちょうどいいサイズのものがあった。
制服を脱ぎ捨てる。


そして着替えた。
男モノだが、悪くない。


前よりも動きやすくなった。


「あ!あ!あ!」


スグルは顔を赤らめていた。
耳まで真っ赤であった。
手で顔を覆っている。


何をしているのだ、彼は。
熱でもあるのだろうか。


「見てない!僕は何も見てないから!」


「いいので、速く着替えてください」


あなたはお漏らししているのだ。
特に着替えて欲しい。


脱いだ制服は穴を掘って埋めておく。
目立った収穫は衣服。


あと地図だ。


地図のおかげで現在地がわかった。
このまま進めば町があるようだ。


かなり遠いけれど。
希望が、少し見えてきた。


拳銃のがあったおかげだ。
でも、弾は少ない。


残りは大切に使おう。


少し休んで、再び走る。
スグルの腕を掴みながら。


このまま何事も起きないで欲しい。
私は、ただそう願うのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「で?お前はガキ二人に逃げられたと?」


「許して!許してください!隊長!」


アリシア達が逃走した後。
小屋には眼帯の男がいた。


無様に拘束された部下を見下ろす。
その目は、異様に冷たかった。


「嫌だ、まだ、死にたく・・・」


乾いた音が響く。
兵士の頭が砕ける。


言葉を言い切るまでもなく。
兵士は死んだ。


「無能め。死んで償え」


「隊長」


「どうした?」


「物資が盗れれています。おそらく奴らが」


「ほお!なかなか面白い子達だね。この馬鹿と違って」


眼帯の男は笑った。
死んだ兵士の遺体を蹴った。


男は、外に出る。


地面を見つめながら。
地面には足跡が残っていた。


二人分の足跡だ。
森の方へと続いている。


「お前ら、追いかけっこは好きかい?」


眼帯男が告げた。


「ええ、もちろんです」


兵士隊が返事をする。
興奮が隠し切れないという風に。


「報酬は皇女様だ」


「おお!」


「殺すなよ。そして最初に捕まえた奴は、自由に使ってもいいことにしよう」


「おお!」


兵士達が歓声を上げる。


彼らは、森へと進んで行った。
二人の足跡をたどりながら。


意気揚々と。軽い足取りで。


眼帯男が銃を撃つ。
命をかけた、追いかけっこ。


その始まりの、合図であった。
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