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2章 王国編

36話

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誰かの声が聞こえた。
叫んでいるような声だ。


再び目を覚ます。


今度は目が見えた。
どうやら目隠しは外されているようだ。


縛られて床に転がされていた。


目の前の人間と目が合った。
スグルだ。


彼も同じように捕まっている。
ただ今は目覚めていた。


必死にムー!ムー!と叫んでいた。
聞こえていた叫びは彼のもののようだ。


「ムム!」


スグルは目を見開く。
私が起きたことを喜んでいるようだ。


「・・・・・・」


部屋には他に誰もいない。
近くにもいないようだ。


彼が叫ぶのを止めないところ見ると。


チャンスだと思った。
手を揺する。


少しずつ拘束を緩めていく。
すぐに拘束は緩んできた。


音を聞きながら、外す。
もう、手慣れたモノだ。


両手が自由になった。
口枷を外し、足の拘束もほどいていく。


「ムー!ムムー!!」


スグルが叫んだ。
とても多きな声で。


信じられないという風に。
そして自分のもほどいて、という風に。


彼の口を塞ぐ。
心臓がバクバクとなった。


(ばれたかな?)


耳をすます。
だが音はしなかった。


大丈夫そうだ。


スグルはフガフガと暴れる。
打ち上げられた魚のように。


「生きたい?」


私はスグルに告げた。


この子が、よく分からない。
味方なのか、敵なのか。


このまま縛っておいた方が安心ではある。


でも逃げるために人手はいる。
二人なら、できることは増えるから。


スグルは必死にうなずいた。
コクコクと、首を縦に振る。


「じゃあ、協力して」


◆◇◆◇◆◇◆◇


「助けて!誰か助けてえ!」


男の声で兵士は目を覚ました。
捕まえたスグリの声だ。


せっかく気持ちよく寝ていたのに。
兵士は不機嫌げに立ち上がった。


どうやら口枷が外れたようだ。
大声でわめいてる。


無駄なことだ。
ここは人里からかなり離れた場所にある。


誰かに声が届くことなどない。


「うるせえぞ!」


扉を蹴って入る。
ひっ!とスグルが怯えるのが見えた。


やはり口枷は外れていた。


「な!ウソだろ!」


だが見張りはそれ以上のモノを見た。


窓が、空いてたのだ。
そして皇女がいない。


拘束していたはずの縄だけが床に落ちている。
抜けたというのか。


あの拘束を。


兵士は思わずうろたえた。


「おい!女はどこに行った!」


「し、知らない!気づいたら、もうこうなってて!」


兵士はスグルの胸倉を掴む。
そして問い詰めた。


スグルは首を振る。
涙で顔を汚しながら。


「やべえ、やべえぞ!俺、隊長に殺されちまう」


兵士の顔が恐怖にゆがんだ。


他の者達は別行動中だ。
ここにいるのは、兵士一人。


信頼され、見張りをまかされていたというのに。
油断して、最重要目標を逃がしてしまった。


殺される。
絶対に殺される。


兵士は最悪の結末を想像していた。


今、彼に現実は見えていない。


だから、傷かなかった。
自身の真後ろに、その最重要目標が、いるという事実に。


◆◇◆◇◆◇◆◇

瓶を振り下ろす。
思い切り兵士の頭を叩いた。


鈍い音が鳴り響く。


「ぐぇえ!」


兵士が鳴いた。
バタリとスグルに覆い被さる。


「ひぃいいいいいい!」


「騒がないで。このくらいじゃ死なないから」


胸をなで下ろす。
とりあえず上手くいってくれたようだ。


数分前。


拘束を外した後。


私達は作戦を建てた。
ここから逃げる作戦をだ。


すぐに逃走する方法もあった。
でも所詮子ども二人だ。


対した装備もない。


すぐに捕まってしまう可能性が高かった。
大人の兵士相手には。


情報と、装備がいる。
きちんと逃げるためには。


そのためには、奪うのが一番早い。
で、こうして見張りの兵士を狙ったわけだ。


スグルを囮にして。
私は扉の後ろに隠れておいて。


油断した兵士を。
一気に叩く。


追加の音はしない。
うまくいってくれたようだ。


スグルの拘束を解く。
そして私の彼の分の縄で、兵士を縛っていく。


お返しとばかりに。
手足を縛り、口枷と目隠しも付けてやる。


これでしばらくは大丈夫だろう。


「急ぐよ」


スグルの手を引く。
彼は未だに泣いていた。


男の子なのに。
弱虫のようだ。


役に立つのだろうか。
少し不安に思う。


私達は逃走するのであった。
そんな不安を抱えながら。
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