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2章 王国編

35話

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目が覚めた。


真っ黒な場所にいた。
手足が動かない。


口も何かで塞がれているようだ。


(誘拐、だね)


状況はすぐに理解出来た。


すんなりと現状を受け入れる。
とても冷静な自分がいた。


大分慣れてきている気がする。


もう三回目のだ。
いちいち驚いてなどいられない。


慣れてはいけないことなのかもしれないけど。


記憶を呼び起こす。


誘拐される前。
確か私はスグルという人に付いて行った。


見せたいモノがある、と誘われて。
そして誰かに後ろから襲われて。


気がついたら、この状態だ。


スグルという人物が黒なのは間違いない。
そして他にも複数名いるのは確定だ。


耳を澄ます。
すると誰かの話し声が聞こえて気てきた。


「*****、*********」


「******。**************」


男性の声だ。
言葉が聞き取れない。


情報がほしかった。
だが、これでは無理そうだ。


足を動かす。
箱?のようなものを思いっきり蹴る。


起きたとことを伝えるのだ。
大きな音が鳴る。


男性達の驚いた声。
次いで、何かが開けられる音。


予想通りだ。


「よお、ずいぶん元気だな、皇女様」


目隠しが外される。
視界が開く。


目の前には男がいた。
眼帯を付けた男性。


王国兵の服を着ている。


薄ら笑いを浮かべながら。
片目でジッとこちらを見つめていた。


(この人が誘拐犯?)


首を傾げる。


「はは!なんだ!ずいぶん落ちついてんなあ!」


「・・・・・・」


「ククク!さすが皇女様だぜ。王子様とは訳がちがうってわけか」


眼帯の男が視線をそらす。


視線の先にはスグルがいた。
私と同じように縛られ、地面に置かれている。


息はしているようだ。
だが動かない。


気絶しているのだろう。


おまたがぐっしょりと濡れていた。


(・・・味方じゃ、ないのかな?)


隻眼の男と、スグル。
彼らは味方同士ではないのだろうか?


味方なら拘束する理由がない。
それに恐怖でお漏らしもしないだろう。


演技にしては、ひどすぎる。


「まだ若いのになあ。すまんね。君にはできるだけ残虐に死んで貰わないといけないんだ」


隻眼の男が告げる。


「・・・・・・」


口が塞がれたままだ。
返事などできない。


黙って男の話を聞く。
ついでに辺りを見回した。


ここは倉庫のようだ。
暗く、蜘蛛の巣が張っている。


しばらく使われてなさそうな場所。


誘拐犯は3人。
見えない所に、もっといるかも。


こちらは拘束されている。
服装は制服のまま。


武器もない。


今、反抗するのは不味い。
黙って従うふりをする。


「怖がらねえと面白くねえな」


隻眼の男が吐き捨てた。
怖がることを期待したのだろう。


だが、ウソにはだまされない。
残虐に死んでもらう。


その言葉が本当なら、もう殺しているはずだ。
私が起きるのを待つ必要はない。


こうやって起きれた時点で、殺す意思がないのは明らかだ。


彼らの目的は別の何か。
それを、速く暴かないといけない。


「水、飲むかい?」


しばらくにらみ合う。
隻眼の男が告げる。


口枷が外された。
口を掴まれる。


水が押し込まれていく。
すぐに意識が遠くなってきた。


どうやら何か入っているらし。


食事にも気をつけた方が良さそうだ。


物理的に眠らされる。
一番やっかいな方法だった。


なにも行動できなくなってしまうから。


まぶたが閉じていく。


パウルはすでに動いているだろうか。
あの人は勘がいい。


すぐに捜索を始めるはずだ。


自力の脱出は厳しい。


なら、見つけてもらえるようにしよう。
時間を稼ぎ、痕跡を残すことに徹する。


これから色々大変だな、と思った。
そうして意識を失うのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「何が起こっているのです!」


王都にある王宮。
その一室に、女王の声が響いた。


女王はとてもお怒りだ。
鼻息を荒く、顔を怒りでにじませている。


アリシアを誘拐して一日がだった。


計画通りならば、すでに救出されているはずだ。
にも関わらず、一向にその連絡がこない。


「そ、それが、ゆ、行方が不明なのです」


臣下が震える声で告げた。


誘拐を担当する班。
彼らは予定の場所に現れる気配はない。


だがきちんと学園からは消えていた。
アリシアとスグルの両名が。


計画にない事態が起きていた。


(マズイマズイマズイ!)


女王は立ち上がる。
座ってなどいられない。


このままでは国際問題になってしまうだろう。


預かった帝国の皇女。
彼女をみすみす誘拐されたとなれば。


帝国は黙ってはいない。
もともと関係が悪いのだ。


下手をすれば戦争もありえる。


それだけは、なんとしてでも避けねばならない。


「探しなさい!帝国に気づかれる前に!」


「はは!」


女王は願った。


皇女が無事であることを。


自身の子どものことなど、まるで忘れているかのように。
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