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2章 王国編

34話

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数時間前。


「まったく、女王様も扱いがひどいな」


「愚痴るなよ。必要な仕事だろ」


王国兵達は話す。


彼らは着替えていた。
全身黒ずくめの姿へと。


誘拐犯になり、帝国の皇女を誘拐せよ。


女王からの指令だ。
はじめは耳を疑った。


自分たちの聞き間違えであるかと。
だが、事実であった。


王国は、とてつもなく恐ろしいことをしようとしている。


友好関係を築きたいからと。
誘拐と救出を自作自演するなど。


綱渡りもいいところだ。


王国の未来をすべてかけたギャンブル。
正気の沙汰だとは思えなかった。


「ほら、行くぞ」


黒塗りの馬車に乗る。


作戦開始は数時間後。
始まったら、もう戻れない。


元の、平穏な人生には。


この作戦に参加する者達。
それは王国に忠誠を誓う忠臣達だ。


王国のためを思い。
皇女を誘拐し。


そして捕まり、投獄される。


市民は糾弾するだろう。
愚かな行為をした馬鹿者だと。


成功したところで、自らに利益などない。
だが、それでも王国のために犠牲になれる。


みな、覚悟をしていた。


「悪い、遅れた」


「遅いぞ、緊張でもしてんのか?」


「すまない」


別の班の者達が来た。


予定より遅れている。
何をのんびりしていたのやら。


王国兵は、顔をしかめた。


「悪かったよ。お詫びだ」


兵士は飲み物を渡す。
機嫌が悪いのを感じ取ったようだ。


「へへ!まあ、許してやらんこともない」


「おい、作戦前だぞ」


「いいじゃねえか、最後の晩餐だぜ。お前も飲んでおけよ」


王国兵は受け取る。
そして口をつけた。


甘い果実の味が広がる。
とてもおいしい飲み物であった。


同僚にも、飲むように進める。
同僚はいやいやながらも、口をつけた。


「どうだ?」


「・・・うまいよ」


「そうか。最後の晩餐だ。しっかり味わえよ」


「?」


突如、視界が揺れた。


「あ、あれ?」


体が倒れたのだ。
起き上がろうとする。


だが、動かない。
目を動かし、同僚を見る。


同僚も同じように倒れていた。


「な、なにが・・・」


「しっかりと、味わえよ」


兵士が縄を手に持つ。


「な、なにすんだよ!」


縄を王国兵の首に巻く。
カエルを絞めた声が響いた。


同僚が絞められている。
家畜を屠殺するかのように。


「やめろ!」


王国兵は懇願する。
どうしてこんな事をする。


恐怖で顔がゆがむ。


「しっかりと、味わえよ。縄の味を」


だが、兵士は笑った。
恐怖でゆがむ王国兵の顔をみて。


首が絞められる。
意識が遠のいていく。


しびれでもがくこともできない。


こうして王国兵達は殺害された。
誰にも気づかれぬように。


「遺体をかたづけろ」


「さあ、始めようか」


兵士達は馬車に乗り込む。
王国兵の遺体を隠して。


何事もなかったかのように。


馬車は走り出した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あ、あれ?」


スグルは違和感を覚えた。


アリシアを誘拐して、移動中。
馬車が曲がるはずの場所で曲がらないのだ。


予定と違う道を進んでいる。


窓は塞がれている。
景色は見えない。


何かあったのだろうか。


「あ、あの!」


兵士たちに声を掛ける。


彼らは、アリシアを拘束していた。
手足を縛り、木箱へと詰めている。


偽装とはいえ、やけにリアルだ。


「どうしましたか?」


「み、道を、間違えてないでしょうか?」


兵士達は顔を見合わせる。


「そんなことはありませんよ」


ニッコリと笑う。
スグルは胸をなで下ろした。


兵士さんが言うのだ。
ならば問題はない、と。


劣っている自分よりも、彼らの方が優秀なのだ。


しばらく馬車に揺られる。
馬車が止まった。


「おつかれさん」


新たな兵士が入ってきた。
片目に傷がある男だ。


眼帯も付けている。


彼はスグルを一瞥する。
そしてすぐに目を離す。


「で、皇女様は?」


「ここにいますよ」


「ほお?あのクズの子にしては、かわいいじゃねえか」


眼帯男はアリシアの顔を掴む。


雑な扱いであると思った。
演技にしたとしても。


「だ、だめだよ」


スグルは叫ぶ。
もう少し優しく彼女を扱ってほしい、と。


「ああ?うるせえな。なんでコイツ起こしたままなんだよ」


「寝かせる必要もないかと思いまして」


「うるせえ。さっさと絞めろ」


「へい」


隻眼の男は命令する。
兵士達がスグルに手を伸ばしてくる。


(演技、演技だよね!?)


スグルの首に手がかかる。


そして彼は思い知るのだ。
これが、演技などではないことを。

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