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2章 王国編

32話

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「アリシアさん!一緒に食事を取りませんか?」


「いいえ、アリシア様は私達と食べるのよ!」


「なんですって!」


「文句でもあるのですの!」


いがみ合う二つのグループ。
生徒達が私を取り合う。


お互いににらみつけ合っている。
間に火花が出ている気がした。


私は必死になだめる。
一緒に食べよう、と。


どうして、こうなっているのだろう。
思わずにはいられなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


学校生活が始まった。


ミネルヴァ学園。
王国が誇る最大の教育機関だ。


とても大きな校舎。
充実した設備。


どれをとっても帝国とは引けをとらない。
そのくらいすごい所だった。


私は、そんな学校に通う事になる。


入学初日は大変だった。


留学生。


その立場だけでも注目されるというのに。
私には皇女という肩書きまで追加されるのだ。


当然、生徒たちの注目の的となる。


一瞬で囲まれた。
講義が終わった瞬間に。


そしてたくさんの質問がやってくるのだ。


必死に質問に答える。
あっという間に時間が過ぎる。


最初は不安で一杯だった。
でも、不安を感じる暇も無かった。
実際は。


数日後。


だいぶ落ち着いてきた。


少しずつ、打ち解けていく。
王国のみなさんと。


みなさん、親切な人だった。
手取り足取り教えてくれる。
分からない事、知らないことを。


くだらない事を話す。


同じ年齢のの子ども達と。
同年代と一緒にお話をするのは久しぶりだ。


最近はずっと大人と一緒だったから。
かなり新鮮な感じがした。


なかなか悪くはない、と思った。
こんな生活も。


でも、そんな思いは、長くは続かなかった。


「アリシアさん!一緒に食事を取りませんか?」


少女達が声を掛けてくる。
食事のお誘いだった。


まだ一緒にいたことのない子達だ。
緊張しているようだ。


ソワソワと、手足を動かしている。


私は、よろこんで了承する。
たくさん人と交流するのが、留学の意義だ。


断る理由などなかった。


「いいえ、アリシア様は私達と食べるのよ!」


立ち上がり、彼女らに付いて行こうとする。
すると急に道が塞がれた。


別のグループの子達だった。
私の腕を掴む。


そして引き寄せられた。
自分たちのものであると、主張するように。


「なに?私達が先に声を掛けたんだけど」


「あら?没落貴族達のみなさんが?よくもまあできましたわねえ」


「なんですって!」


「文句でもあるのですの!」


いがみ合う二つのグループ。
生徒達が私を取り合う。


お互いににらみつけ合っている。
間に火花が出ている気がした。


私は必死になだめる。
一緒に食べよう、と。


彼女達の仲はよくないようだ。
お話を聞く限りは。


没落貴族。
その単語だけ、はっきりと聞き取れた。


学園は、寄付で成り立っているらしい。
多くが貴族達からの寄付だ。


その膨大な金額で設備を維持している。


そのせいで階級があるそうだ。
学校内での、生徒の偉さに。


たくさん寄付をしている貴族。
その家の生徒はとても偉い。


そして寄付が少ない家はその逆だ。


とても分かりやすい制度。
でも、好きになれそうではなかった。


「アリシア様!このような者達と共に過ごさぬ方が良いですわよ」


生徒さんが親切に教えてくれる。
王国での常識を。


本当の、善意の気持ちで。


そんな生徒達を、別の生徒達がにらみつける。


そこで私は気づくのだ。
また、とんでもない所に来てしまったのだと。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ずいぶんとお疲れですね?」


「うん。ちょっとね」


夜。


パウルさんに指摘される。
どうやら顔に疲れが出ているらしい。


隠せているつもりだったのだけれど。
彼にはお見通しのようだ。


今日あったことを話す。


「普通の事ですね。身分制を採用する国では」


「でも帝国ではなかったよ?」


「帝国がおかしいのです。皇帝陛下の改革のたまものですよ。内戦という対価を払うことになりましたが」


パウルはあきれたように言った。
彼も身分制というものを嫌っているようだ。


ため息までついている。
実にくだらない、と。


「染まらないでくださいよ、アリシア様」


「染まらないよ」


「なら、いいです」


パウルは短く返事をした。


「みなあなたを狙って来ます。頑張って逃げてください」


「助けてよ」


「さあ?その程度はご自身で解決してください。次期皇帝は、そのくらいできませんとね」


パウルは軽口を叩いた。
私はその軽口に言い返す。


そして気づかなかったのだ。
彼が、次期皇帝、と言っていたことに。
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