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2章 王国編
31話
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「いかがいたしますか、女王様」
臣下がつぶやく。
女王陛下は、立ち去る少女を見つめていた。
帝国唯一の皇女、アリシア。
かの虐殺皇帝の、娘。
彼女はとても重要な人物であった。
最大の領土と軍事力をもつ帝国。
2年前の内乱で多くを失いつつも、復興を遂げた国。
帝国は、今や、かつての地位を取り戻しつつある。
彼女は、そんな帝国と、王国をつないでくれる唯一のパイプであるのだ。
多くの不満もあっただろうに。
その不満を飲み込み、王国を訪れてくれた。
彼女の温情で、繋がっているのだ。
王国の、希望は。
女王は堅く目をつぶった。
「早急に処分した方がよろしいのでは?帝国に誠意を見せる時です」
「しかし、貴族共は納得しますまい。下手をすれば帝国と同じ道をたどるかもしれませんぞ」
「ははは!ならいいではないか!改革が成功するのだかならな!」
老人が笑う。
臣下達は会議をしていた。
とある地方貴族の処分についてだ。
貴族の名は、二アール。
アリシアを保護していた貴族の事だ。
彼らは、アリシアを養子として引き取った。
だが養子と言うのは名ばかりだ。
実態は、彼女を冷遇し、虐待まで行っていた。
利益だけをすする寄生虫として。
アリシアを引き取ったのだ。
「愚かなことをしてくれたものだよ」
臣下はため息をつく。
王国の状況は、悪い。
国内、国外、共に不安定だ。
市民は不満を溜めている。
そして身分制に怒りを向けている。
王族、貴族を狙った攻撃も多い。
外交も大失敗だ。
帝国を見限り、反乱軍についた。
にもかかわらず。
反乱軍は敗北してしまった。
結果、帝国派閥からは、愛想を尽かされている。
裏切りが遅かった。
そのため反帝国派閥からも異端扱いだ。
帝国を裏切らず。
アリシアをきちんと保護さえしていれば。
そんな後悔が、襲う。
「処分は、保留します。今は、貴族達の協力は必須です」
女王は口を開いた。
二アール家を処分する。
帝国にすり寄るには、一番の方法だ。
現時点でとれる、最良の方法だ。
だが、問題も多い。
貴族達は、横の繋がりが強い。
お互いが仲間意識を持っている。
そしてプライドも高い。
自分達が王国を支えているという意思があるのだ。
彼らは許さないだろう。
仲間を売られることを。
帝国のご機嫌取りのために。
最悪の場合、起こるのは貴族達の反逆だ。
帝国と同じ結末だ。
それだけは、さけなければならなかった。
「国を預かるモノとして、私達は進まねばなりません。例えそれがどれほど困難な道であろうとも」
女王は目を開ける。
臣下達を見つめ、告げるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はしたないですよ、アリシア様」
パウルは告げた。
視線の先には気まずそうにするアリシアがいる。
彼女は食べていたのだ。
パンを、スープに浸して。
パウルにとって、懐かしい食べ方であった。
貧困家庭のパンは固い。
そのままかじることができない程度に。
だからスープに浸すのだ。
ひたひたにして柔らかくするために。
だが、王族や貴族のパンは柔らかい。
よって浸して食べる必要はない。
故に、浸して食べることは忌避されている。
王族や、貴族には、特に。
「少しくらい許してよ」
「ダメです。癖は出ますよ」
「え~」
アリシアは不満げだ。
彼女はこの食べ方がお気に入りらしい。
リヴァイヤサンでの生活で、よくやっていたそうだ。
船はしばらく陸に戻らない。
一度出航してしまえば。
そのため、食料は保存が利くモノになる。
特にパンは水分が抜かれ、カチカチになる。
だから、結果的に似たような食べ方になるのだ。
貧困層の者達と。
パウル自身も、その食べ方はお気に入りだ。
だが、決して皇女たるものがする食べ方ではない。
見られてしまえば、まずいだろう。
パウルは苦笑する。
アリシアという人物に。
彼はアリシアに救われていた。
2年前。
パウルは拘束された。
帝国を裏切り、皇帝に銃を向けた罪で。
そして罰をうける事になっていた。
パウル自身も、受け入れていた。
元々、処刑すら覚悟で行った裏切りだ。
妥当な判断である、と。
十数年の投獄。
判決が決まり、檻に入ろうとする。
そんな彼を止めたのがアリシアであった。
アリシアはパウルを欲しがった。
自身の側近として。
そして自身の父に訴えたのだ。
今の帝国には、彼も必要だと。
自身を殺そうとした男であるにも関わらず。
結局、彼は解放された。
アリシアの尽力のおかげで。
で、現在彼女の元で働いているわけだ。
自身の犯してしまった罪を、償うように。
運命とは分からないものだ。
パウルは、そう思った。
「明日から、登校です。今日は早めに寝てくださいね」
「は~い」
信用の証だろう。
アリシアの態度は軽い。
その点は、嬉しく思っている。
だが、これは臣下ではなくお母さんでは?
と、パウルはちょっぴり嘆くのであった。
臣下がつぶやく。
女王陛下は、立ち去る少女を見つめていた。
帝国唯一の皇女、アリシア。
かの虐殺皇帝の、娘。
彼女はとても重要な人物であった。
最大の領土と軍事力をもつ帝国。
2年前の内乱で多くを失いつつも、復興を遂げた国。
帝国は、今や、かつての地位を取り戻しつつある。
彼女は、そんな帝国と、王国をつないでくれる唯一のパイプであるのだ。
多くの不満もあっただろうに。
その不満を飲み込み、王国を訪れてくれた。
彼女の温情で、繋がっているのだ。
王国の、希望は。
女王は堅く目をつぶった。
「早急に処分した方がよろしいのでは?帝国に誠意を見せる時です」
「しかし、貴族共は納得しますまい。下手をすれば帝国と同じ道をたどるかもしれませんぞ」
「ははは!ならいいではないか!改革が成功するのだかならな!」
老人が笑う。
臣下達は会議をしていた。
とある地方貴族の処分についてだ。
貴族の名は、二アール。
アリシアを保護していた貴族の事だ。
彼らは、アリシアを養子として引き取った。
だが養子と言うのは名ばかりだ。
実態は、彼女を冷遇し、虐待まで行っていた。
利益だけをすする寄生虫として。
アリシアを引き取ったのだ。
「愚かなことをしてくれたものだよ」
臣下はため息をつく。
王国の状況は、悪い。
国内、国外、共に不安定だ。
市民は不満を溜めている。
そして身分制に怒りを向けている。
王族、貴族を狙った攻撃も多い。
外交も大失敗だ。
帝国を見限り、反乱軍についた。
にもかかわらず。
反乱軍は敗北してしまった。
結果、帝国派閥からは、愛想を尽かされている。
裏切りが遅かった。
そのため反帝国派閥からも異端扱いだ。
帝国を裏切らず。
アリシアをきちんと保護さえしていれば。
そんな後悔が、襲う。
「処分は、保留します。今は、貴族達の協力は必須です」
女王は口を開いた。
二アール家を処分する。
帝国にすり寄るには、一番の方法だ。
現時点でとれる、最良の方法だ。
だが、問題も多い。
貴族達は、横の繋がりが強い。
お互いが仲間意識を持っている。
そしてプライドも高い。
自分達が王国を支えているという意思があるのだ。
彼らは許さないだろう。
仲間を売られることを。
帝国のご機嫌取りのために。
最悪の場合、起こるのは貴族達の反逆だ。
帝国と同じ結末だ。
それだけは、さけなければならなかった。
「国を預かるモノとして、私達は進まねばなりません。例えそれがどれほど困難な道であろうとも」
女王は目を開ける。
臣下達を見つめ、告げるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はしたないですよ、アリシア様」
パウルは告げた。
視線の先には気まずそうにするアリシアがいる。
彼女は食べていたのだ。
パンを、スープに浸して。
パウルにとって、懐かしい食べ方であった。
貧困家庭のパンは固い。
そのままかじることができない程度に。
だからスープに浸すのだ。
ひたひたにして柔らかくするために。
だが、王族や貴族のパンは柔らかい。
よって浸して食べる必要はない。
故に、浸して食べることは忌避されている。
王族や、貴族には、特に。
「少しくらい許してよ」
「ダメです。癖は出ますよ」
「え~」
アリシアは不満げだ。
彼女はこの食べ方がお気に入りらしい。
リヴァイヤサンでの生活で、よくやっていたそうだ。
船はしばらく陸に戻らない。
一度出航してしまえば。
そのため、食料は保存が利くモノになる。
特にパンは水分が抜かれ、カチカチになる。
だから、結果的に似たような食べ方になるのだ。
貧困層の者達と。
パウル自身も、その食べ方はお気に入りだ。
だが、決して皇女たるものがする食べ方ではない。
見られてしまえば、まずいだろう。
パウルは苦笑する。
アリシアという人物に。
彼はアリシアに救われていた。
2年前。
パウルは拘束された。
帝国を裏切り、皇帝に銃を向けた罪で。
そして罰をうける事になっていた。
パウル自身も、受け入れていた。
元々、処刑すら覚悟で行った裏切りだ。
妥当な判断である、と。
十数年の投獄。
判決が決まり、檻に入ろうとする。
そんな彼を止めたのがアリシアであった。
アリシアはパウルを欲しがった。
自身の側近として。
そして自身の父に訴えたのだ。
今の帝国には、彼も必要だと。
自身を殺そうとした男であるにも関わらず。
結局、彼は解放された。
アリシアの尽力のおかげで。
で、現在彼女の元で働いているわけだ。
自身の犯してしまった罪を、償うように。
運命とは分からないものだ。
パウルは、そう思った。
「明日から、登校です。今日は早めに寝てくださいね」
「は~い」
信用の証だろう。
アリシアの態度は軽い。
その点は、嬉しく思っている。
だが、これは臣下ではなくお母さんでは?
と、パウルはちょっぴり嘆くのであった。
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