【第2部開始】すべてを奪われたので、今度は幸せになりに行こうと思います

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)

文字の大きさ
上 下
30 / 46
2章 王国編

30話

しおりを挟む
「王国に留学ですか?」


少し言葉を詰まらせる。


王国。


帝国の隣国であり、元友好国。
私とも、深い関係がある国だ。


何を隠そう、義父達がいる所である。
あの辛かった日々を思い出す。


内戦から逃れるために王国にいって。
その王国で、耐えがたいほどの虐待を受けて。


最終的に、崖から飛び降りた記憶。


あまり、思い出したくはなかった。


「各国の親交を深める、という名目だ。奴らは私達と関係を修復したいらしい。そのためにアリシアに来てもらいたいそうだ」


「顔の皮が厚いものですな」


臣下さんが嫌みの様に言う。
父や、臣下さん達も似た思いのようだ。


王国は信用できない。
それが帝国からの評価だ。


信じて私を預けたにも関わらず、無下に扱い。


劣勢と聞けば、反乱軍側につき。


帝国が勝利した途端、頭を下げてくる。


とんでもない最低野郎だ。
人に例えたら。


そんな国から、お誘いが来るとは。


「ですが、これはよい機会かもしれません」


嫌な感情を飲み込む。
そして告げる。


共和国は敵対的だ。
それに対して王国はまだ可能性がある。


敵を増やしても利益はない。
犠牲になるのは兵士さん達だ。


嫌な気持ちはある。


けれど、もっと嫌なのだ。
みなさんをまた戦場に行かせるのは。


王国が味方になってくれれば、牽制になってくれる。


暴れようとする共和国への。


「私は、構いません」


「・・・そうか。パウルにも意見を求めよう」


父は、不安げな顔をした。
そして話を少しそらした。


目で後で話そうと訴えてくる。
私の顔を見つめながら。


父と分かってはいるのだろう。
国益のためには、私を送るのが最善だと。


でも、父としての気持ちが、判断を鈍らせている。


分かった気がした。


2年前。
パウルさんが懸念していたことが。


尊敬できる父と、尊敬できる皇帝。
この二つは、両立できるものではない。


どれだけその人が優れていても。
コインの裏と表は繋げられない。


それが摂理だ。


帝国を守る。
そのために必要のは、尊敬できる皇帝だ。
尊敬できる父ではない。


少し、胸が痛む。
きっとまた苦しい日々が、訪れるだろう。


首に提げたブローチを握る。


大丈夫だよ、お母さん。
忘れてないよ。


私、ちゃんと苦しむから。


もう、簡単に逃げたりはしないから。


だから、安心して見ていてください。
私の、これからの、生き様を。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ようこそ、王国へ。アリシア様。あなたを歓迎いたします」


「ありがとうございいます、女王陛下」


私は、今、王国に来てる。
王都で、女王陛下と対面している。


女王陛下は王国のトップだ。
一番偉い人だ。


そんな人が目の前にいる。
考えるだけで、体が震えてきた。


共にテーブルに着き。
共に紅茶をすする。


きっとよいものなのだろうに。
まったく味がしなかった。


緊張のせいで。


「いかがですか?」


「はい。とてもおいしいです」


にこりと微笑む。


「まあ、嬉しいわあ」


女王陛下も、笑う。
どうやら正解を引き当てたようだ。


すこしゆっくりした後。
王国内を案内される。


女王陛下直々の解説付きで。


王国は小さな国だ。
そして厳正な身分制を採用している。


王族、貴族、市民。
生まれつきの身分で、すべてが決まる。


案内されたのは、王族や貴族の町。
とても綺麗で、整っていた。


「あれが、虐殺皇帝の・・・」


町中を歩く。


ひそひそと声が聞こえる。
住人達が話してた。


私を見つめながら。


「・・・・・・」


一応、微笑んでおく。


虐殺皇帝の娘。
それが国外の私での評価だ。


内戦時。
父はたくさん殺した。


そしてついたあだ名が虐殺皇帝。
その名は国外にまで轟いている。


そして私も、同じように怖がられている。
冷酷無慈悲の皇帝の一人娘として。


噂とは面白い。


やったことに対して、必ず尾ひれがつく。
加えてだいたい間違ってもいる。


いい迷惑だと思った。
舐められるよりは、いいのかもしれないけど。


明日からは、ついに学校だ。
どうなるのだろうか。


ただ、不安で胸が一杯だった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

処理中です...