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2章 王国編

30話

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「王国に留学ですか?」


少し言葉を詰まらせる。


王国。


帝国の隣国であり、元友好国。
私とも、深い関係がある国だ。


何を隠そう、義父達がいる所である。
あの辛かった日々を思い出す。


内戦から逃れるために王国にいって。
その王国で、耐えがたいほどの虐待を受けて。


最終的に、崖から飛び降りた記憶。


あまり、思い出したくはなかった。


「各国の親交を深める、という名目だ。奴らは私達と関係を修復したいらしい。そのためにアリシアに来てもらいたいそうだ」


「顔の皮が厚いものですな」


臣下さんが嫌みの様に言う。
父や、臣下さん達も似た思いのようだ。


王国は信用できない。
それが帝国からの評価だ。


信じて私を預けたにも関わらず、無下に扱い。


劣勢と聞けば、反乱軍側につき。


帝国が勝利した途端、頭を下げてくる。


とんでもない最低野郎だ。
人に例えたら。


そんな国から、お誘いが来るとは。


「ですが、これはよい機会かもしれません」


嫌な感情を飲み込む。
そして告げる。


共和国は敵対的だ。
それに対して王国はまだ可能性がある。


敵を増やしても利益はない。
犠牲になるのは兵士さん達だ。


嫌な気持ちはある。


けれど、もっと嫌なのだ。
みなさんをまた戦場に行かせるのは。


王国が味方になってくれれば、牽制になってくれる。


暴れようとする共和国への。


「私は、構いません」


「・・・そうか。パウルにも意見を求めよう」


父は、不安げな顔をした。
そして話を少しそらした。


目で後で話そうと訴えてくる。
私の顔を見つめながら。


父と分かってはいるのだろう。
国益のためには、私を送るのが最善だと。


でも、父としての気持ちが、判断を鈍らせている。


分かった気がした。


2年前。
パウルさんが懸念していたことが。


尊敬できる父と、尊敬できる皇帝。
この二つは、両立できるものではない。


どれだけその人が優れていても。
コインの裏と表は繋げられない。


それが摂理だ。


帝国を守る。
そのために必要のは、尊敬できる皇帝だ。
尊敬できる父ではない。


少し、胸が痛む。
きっとまた苦しい日々が、訪れるだろう。


首に提げたブローチを握る。


大丈夫だよ、お母さん。
忘れてないよ。


私、ちゃんと苦しむから。


もう、簡単に逃げたりはしないから。


だから、安心して見ていてください。
私の、これからの、生き様を。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ようこそ、王国へ。アリシア様。あなたを歓迎いたします」


「ありがとうございいます、女王陛下」


私は、今、王国に来てる。
王都で、女王陛下と対面している。


女王陛下は王国のトップだ。
一番偉い人だ。


そんな人が目の前にいる。
考えるだけで、体が震えてきた。


共にテーブルに着き。
共に紅茶をすする。


きっとよいものなのだろうに。
まったく味がしなかった。


緊張のせいで。


「いかがですか?」


「はい。とてもおいしいです」


にこりと微笑む。


「まあ、嬉しいわあ」


女王陛下も、笑う。
どうやら正解を引き当てたようだ。


すこしゆっくりした後。
王国内を案内される。


女王陛下直々の解説付きで。


王国は小さな国だ。
そして厳正な身分制を採用している。


王族、貴族、市民。
生まれつきの身分で、すべてが決まる。


案内されたのは、王族や貴族の町。
とても綺麗で、整っていた。


「あれが、虐殺皇帝の・・・」


町中を歩く。


ひそひそと声が聞こえる。
住人達が話してた。


私を見つめながら。


「・・・・・・」


一応、微笑んでおく。


虐殺皇帝の娘。
それが国外の私での評価だ。


内戦時。
父はたくさん殺した。


そしてついたあだ名が虐殺皇帝。
その名は国外にまで轟いている。


そして私も、同じように怖がられている。
冷酷無慈悲の皇帝の一人娘として。


噂とは面白い。


やったことに対して、必ず尾ひれがつく。
加えてだいたい間違ってもいる。


いい迷惑だと思った。
舐められるよりは、いいのかもしれないけど。


明日からは、ついに学校だ。
どうなるのだろうか。


ただ、不安で胸が一杯だった。

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