【第２部開始】すべてを奪われたので、今度は幸せになりに行こうと思います

1章 帝国編

２８話

帝国歴、1209年。


長く続いた内戦が終わった。


反乱の元凶。
多くの人々を殺したエルメラは、死んだ。


遺体は焼かれ、遺骨は海に撒かれた。


主の死に最後まで抵抗を続けていた者達も、降伏する。


帝国に平和が訪れたのだ。


人々は歓喜する。
もう戦争に怯える必要はないのだ、と。


だが、喜ばしいことばかりではない。
帝国は内戦でボロボロだ。


残っているのは焼け野原。
大切な人を失い、みんな心に大きな傷も、ある。


これからは、別の戦いがはじまるのだ。
復興、という戦いが。


銃での撃ち合いとは違う。
長く、根気のいる戦いが。


「アリシアちゃん、こっち手伝ってもらえる？」


「はい、今行きます！」


船医さんに呼ばれて、返事をする。
でも、心配はしていない。


ともに戦ってくれる、人達がいるから。


兵士さんたいはスコップを持つ。
持ち慣れた、銃では無くて。


今、私達は復興のお手伝いをしている。


リヴァイヤサンは、航行不能になってしまった。


もう修復も不可能らしい。


少しさみしかった。


でも、艦長さん曰く、船の仕事を完遂したのだから、彼女も本望だろうさ。


との事なので、泣くことはしない。


花を添えて、みんなで祈る。


彼女は陸に上げられた後、記念艦となる予定らしい。


まだまだ一緒に、いることは、できるそうだ。


で、その後。


船も無く、みなさんやることもないので、こうなった。


復興のお手伝いをすることに。


慣れない道具に、みなさん苦戦している。
けれど、順調に作業は進んでいた。


戦争以前のように戻るのに、
そう長くはかからないだろう。


私は、そんな兵士さん達のお手伝いをしている。


飲み物だったり、食べ物を用意する。
ケガをした人がいたら、治療をする。


そんな雑用係だ。


「アリシアちゃ～ん」


みなさんとの関係は変わらない。
私が皇帝の娘だと知っても、同じように接してくれる。


楽しかった日々。
やっと、帰って来てくれていた。


「アリシア」


「あ、父さん！」


「げ！こ、皇帝陛下！？」


「げ、とはなんだ！げ、とは！無礼だぞ、貴様ら！」


父が来た。
父を見た兵士さん達が気まずそうな顔をする。


そんな反応に、臣下さんが怒っている。
最近の日常であった。


父に駆け寄っていく。
父はそのまま抱き上げてくれた。


力強く。
ギュウっと、抱きしめてくれた。


父が、撃たれたと聞いたときは、大変だった。


心臓が飛び出るような思いだった。


でも、すぐに医務室に運ばれて。
きちんと治療してもらって、一命を取り留めた。


原因は、パウルという部下であったらしい。
彼は今、投獄されている。


手紙が届かなかったのも。


エルメラに私の存在がばれたのも、彼が原因であったそうだ。


いろいろと思うことはある。
けれど恨むことはやめておこうと思った。


休憩の時間。


父の隣で、ゴハンを食べる。
数年ぶりの、一緒のゴハンだ。


簡単に作れる、軽食ではある、
でも、それがとてもおいしかった。


「ケガは、大丈夫？」


「ああ、もう、問題はない」


父は無表情に言った。
でも、嬉しそうなのはわかった。


少しだけ、口角が上がっている。
喜んでいる証だった。


そんな父を見つめながら、ブローチを握る。
母の、形見のブローチを。


崖から飛び降りたにみた、母の姿。
あれが夢だったのか、現実だったのかは、わからない。


でも、あのおかげで、今は私はここにいる。
こうして父と再会できて、共に過ごせている。


大切な人達もたくさんできた。


本当に、あのときに死ななくて良かった、と思った。


苦しんで、という母の言葉。
何度も頭の中で繰り返す。


きっとこれからもたくさん苦しむことになるだろう。


でも、そのたびに、思い出そうと思う。


母の、言葉を。


お母さん、私苦しむよ。
たくさん。


だから、もうしばらく会えないけれど。
のんびり待っていてね。