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1章 帝国編

25話

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甲板に出た。
エルメラに連れられて。


辺りは兵士さん達で囲まれている。


みんな怖い顔をしていた。
エルメラをにらみつけている。


誘拐された時と同じだ。
みんな私のせいで撃てないのだ。


自分の事など、どうでもいい。
でも、また兵士さん達に迷惑をかけてしまっている。


それだけは、嫌だった。


「船だ!船を用意しろ!」


エルメラが叫ぶ。
彼はここから逃げるつもりだ。


どこか遠くの国に逃げて。
そこで力をつけて帰ってくるつもりだ。


また、私の大切なモノを、
父を、奪うために。


「馬鹿な事はよせ。あなたは負けたんだ。素直に銃を下ろすんだ」


艦長さんがしゃべった。
どうやら彼が交渉役であるらしい。


艦橋からわざわざ降りてきてくれている。
危険を承知で、エルメラの前に出ている。


艦長さんは私を見つめていた。
とても不安そうな顔で。


「人質なら、変わろう。私でも十分なはずだ。子どもを、怖がらせるな」


「いいや、不十分だ。あんたはもう、知ってるんだろう?」


「・・・・・・」


「この子が、あのクロードの娘である事をさあ。お前なんかが代わりになるものか!」


エルメラは怒りながら銃を撃つ。
艦長さんの足下に穴を開けた。


兵士さん達がざわめく。


お互いに顔を見合わせて。
信じられないという顔をする。


皇帝の一人娘。
アリシア・ロベイン。


私の、正体。


「・・・マジかよ」


誰かの声が聞こえた。
ムリもないと、思った。


ウソをついていたのだ。
平然と、普通の子どものふりをしていたのだ。


そう声にだされても、しかたがない。


楽しかった日々。
普通の少女として過ごせた日々。


あれは、もう帰ってこないのだ。


「ほら、速くしろ!速くしろよ!」


エルメラはしびれを切らす。
銃を私の頭に突きつける。


地団駄を踏みながら、獣のように叫ぶ。


落ち込んでいる暇などない。
そのことを思い出す。


エルメラの意識は外に向いていた。
兵士さん達に。艦長さんに。


彼はあまりこちらを見ていない。


ひっそりと、でも素早く。
手を縛る縄をほどいていく。


急いで縛られた縄だ。
簡単に緩んでくれた。


ゆっくりと、腰に手をのばす。


前とは、違うのだ。
あの、誘拐されそうになった時とは。


今の私には、ある。
この状況を、自力で解決できる道具が。


艦長さんが、渡してくれた、あの武器が。


今度は、やらせない。
むやみにみんなを、傷付けさせたりしない。


いざとなれば。
私は撃つ。


躊躇などはしない。


覚悟を決めながら、縄を完全にほどく。
そして、拳銃を握るのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「どういうつもりだ!?パウル!?血迷ったか!?」


クラーケンの艦長室。
こちらでも事件が起きていた。


皇帝に向けて、パウルが拳銃をむける。
臣下はうろたえた。


突然の出来事に。
何が起きているか、分からないという風に。


「・・・お前は、知っていたな、パウル」


「ええ、その通りです、陛下。私は、知っていましたよ」


クロードはまっすぐ見つめた。
パウルの目を。


冷たい瞳で。
拳銃に怯える素振りすら見せない。


ああ、さすが陛下です、とパウルは思った。


「私が、情報を握り潰しました」


「何が望みだ?」


「私は、そのまま陛下でいてほしいのです。冷酷で、優秀なあなたのままでいてください。それが帝国のためになる。父になられては、困るのです」


パウルは引き金に指を掛ける。


「主砲を、放ってください、陛下。アリシア様は、あなたの枷になる。あれは重りです。あなたの覇道を邪魔する障害でしかない」


「・・・・・・」


「陛下!」


パウルの心からの訴え。
けれどクロードは動かない。


どんな困難を前にしようと微動だとしない。
皇帝陛下の、すばらしいお姿だ。


だが、今は。
そんなすばらしさが、歯がゆかった。


「そうか」


クロードが短く返事をした。


視線を落とす。
そして再び前を向いた。


何かを、決意したという様に。
自身の腰に、手を伸ばした。


腰に下げられた拳銃を握る。


「すまない」


一発の銃声が鳴り響いた。
数秒後の、ことであった。
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