【第2部開始】すべてを奪われたので、今度は幸せになりに行こうと思います

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)

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1章 帝国編

23話

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叔父であるエルメラ。


彼との思い出は、あまりない。
ただ父とあまり仲がよくなかったことだけ覚えている。


私達を怖い目で見つめる姿。
それだけ、覚えていた。


でも、父がいない時は、普通の人だった。
笑顔が素敵な、普通の男性。


彼がなぜ、母を殺したのか。
彼がなぜ、おじいちゃんを殺したのか。


どうして父と仲が悪いのか。
何も分からない。


「アリシアちゃん」


エルメラが目の前で笑った。


目の前の彼は、ずいぶん違った。
私の記憶する、叔父の姿とは。


頬はこけ、目には大きなクマがある。
疲れきった顔に、たれた肌。


父より若いはずなのに。
老人のような姿だった。


「さあ、手をあげてくれるかい?」


エルメラは命令をした。


私は両手を上げる。
エルメラの銃が船医さんに向いているのだ。
下手なことはできなかった。


おとなしく、指示に従う。


「ダメだ!逃げろ!」


船医さんは叫んだ。
逃げるつもりはない。


船医さんや、ここの兵士さん達。
彼らを見捨ててまで、生きるつもりも、ないのだ。


「ごめんなさい」


船医さんに謝っておく。
その指示には、従えません、と。


「撃たないでください。指示には従います」


「いい子だあ~、じゃあ、こっちにおいで」


兵士さんを降ろす。
そしてゆっくりとエルメラの元へ行く。


両手を上げたまま。


心臓がバクバクと鳴った。


このままだと、危険なのは分かっている。
エルメラに従っても、幸福はない。


どこかで抵抗しなければいけない。


タイミングが、重要だ。
これ以上、誰も奪わせないために。


大切な人を、殺させないために。


「そこに座れ」


ある程度エルメラに近づく。
すると座らされた。


エルメラは器用に私を縛っていく。
両手を後ろで結ばれた。


「やっとだ。やっと手に入れられた」


感嘆の声をげる。
私の顔を見つめながら。


ずっと欲しかったものを、買ってもらえた子どものように。


「じゃあ、行こうか」


銃を頭に突きつけられる。
歩くことを強要された。


「これから、どうするつもりですか」


「僕?僕は逃げる。そして力を付けたら、また帰ってくる。あいつを殺すために。アリシアちゃんも、一緒にいこうねえ」


「嫌です」


「おっと、言葉には気をつけたほうがいいよ?」


エルメラは引き金に指をかけた。
殺すぞ、という脅しであるらしい。


不思議と、怖くはなかった。


自分でもよく分からない。
恐ろしほど、冷静であった。


この人は、私を撃てない。
撃った瞬間に、敗北が決まるから。


人質は生きているから意味がある。
死体では、意味が無いのだ。


叔父に、選択肢などない。


追い詰められているのは、この人の方なのだ。


「なんだよ、その目は」


ジッと叔父の目を見つめた。
叔父は、不機嫌そうな声をあげた。


拳銃を握る手が、震えている。


「あいつと、同じ目で見やがって」


エルメラは震えていた。
怯えているのだ。


こんな無力な私に。
腕を縛られている少女に。


大人の力と、拳銃という武器を持ちながら。
あいつが誰を指しているか。


そんなことは分からない。


でも、もう恐怖などなかった。
心臓は、静かに動く。


私はただ、チャンスを来ることを、
静かに待つのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇


エルメラは恐怖に駆られた。


少女の顔を見て。


その少女は同じ顔をしていたのだ。
あの大嫌いな、兄と、同じ顔を。


何を考えているか分からない目で。
こちらをまっすぐと見つめてくる。


エルメラは、兄のそんな顔が大嫌いであった。


(こいつ!こいつこいつこいつ!)


エルメラは地団駄を踏む。
追い詰めているのはこちらの方だ。


こちらの気分一つで、生死が決まる。
だというのに、なぜこの少女は取り乱さないのか。


昔、見せつけられた、違い。
兄の圧倒的な優秀さ。


自身にはない、特別な才能。


その才能を、彼女からも感じてしまう。
トラウマが掘り返されていく。


この子は、確かに兄の子だ。


「見るな!見るなよ!」


エルメラは叫んだ。
過去を振り払うように。


「まだだ、まだ終わっていない」


自身に言い聞かせながら、甲板にでる。
たくさんの帝国兵に囲まれた。


(ここからだ。ここからが、戦いなんだ)


エルメラは、見た。
遠くに見えるもう一つの戦艦を。


自身の兄が、帝国の皇帝が乗船する戦艦を。


決着の時は、刻一刻と近づいてきていた。
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