【第2部開始】すべてを奪われたので、今度は幸せになりに行こうと思います

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)

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1章 帝国編

21話

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戦闘が始まった。


轟音が船を震わせる。
主砲達が楽器のように音楽を奏でる。


船が大きく揺れた。
兵士さん達がせわしなく動き続けていた。


状況はわからない。
艦内にいるから。


でも激しい戦いだということは分かった。


いつ、誰がケガをしてもいいように。
船医さん達と共に、医療室で、待機しておく。


たくさん、治療道具の予備を用意しておく。


でも、できればみんな無事でいてほしい。
目をつむり、ぎゅっと祈った。


「野郎!接近してくるぞ!白兵戦用意!」


誰かの怒声が鳴り響く。


兵士さん達が銃を持つ。
どうやら敵が船に乗り込んでくるようだ。


反乱軍の船は旧式だ。


勝ち目などない。
リヴァイヤサンと撃ち合っても。


だから接近してくるのだ。
自分たちの得意を押しつけようと。


「えらいこっちゃ!」


船医さんが震え上がった。
そのまま私を抱きしめてくれる。
必死に、外敵から守るように。


船医さんは、とても落ち込んでいた。
私が誘拐され掛けたとき。


どうして一人にしてしまったのだと。
彼のせいではないのに。


だから、今日は常に隣にいるように、
と言われている。


船医さんのお肉に取り込まれていく。


ありがとうございます、船医さん。
でも、まだ早いと思います。


「いてぇ!」


「すまん、手当を頼む!」


しばらくするとたくさん兵士さんがきた。
ケガをした兵士さん達が。


擦り傷や、転倒傷、銃で撃たれた傷。
命は危なくないけれど、かなりの傷を負っている人もいる。


急いで治療を行う。


「すまん!」


治療を終える。
兵士さん達はすぐに出て行ってしまった。


すぐに配置に戻るらしい。


ゆっくり休んでいる暇が無いのだ。
例えケガをしていても。


それだけひどい戦闘らしい。


「乗り込まれたぞ!」


「撃て!防衛線を作れ!」


そして、もう人ごとでもないらしい。
船医さんと目を合わせる。


持てるだけの道具と資材を持って。


最前線へ。
一人でも兵士さん達を助けるために。


これが私の、私の出来る、戦いだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「行け!戦力を集中させろ!アリシアの船に!」


エルメラは叫んだ。


戦闘が始まって、まだ数時間。
反乱軍は大きな被害を受けていた。


戦艦リヴァイヤサン。
戦艦クラーケン。


帝国最新鋭の戦艦達。
彼女達の砲撃は次々と反乱軍を沈めていく。


圧倒的な火力で。
圧倒的な機動力で。


戦い、などとは呼べない。
一方的な蹂躙であった。


だが、負けてばかりではない。
残った反乱兵達は、死に物狂いだ。


降伏したところで、彼らをまつのは処刑のみ。


ならばこの戦いで死んでやろう。


狂気にもにた感情で、帝国の船に体当たりをしていく。


すでに少なくない人数が、リヴァイヤさんに乗り込んでいる。


白兵戦ならば、性能差は少ない。
十分反乱軍でも、戦えた。


「エルメラ様!」


「なんだ!」


「船が!」


部下が叫んだ。
次の瞬間、船が大きく揺れた。


何かが爆発をした音。
艦橋から外を見てみる。


エルメラの専用艦。
彼女は船尾を大きく損傷していた。


どうやらここまでのようだ。
船の動きが遅くなっていく。


そんな船に帝国兵が乗り込んでくる。
銃声が鳴り響く。


殺しに来ているのだ、エルメラを。
直接、兵士達の手で。


船ごと沈めては、彼が本当に死んだかがわからない。


しっかりと、遺体を手に入れるために。


「ふふふふふ!あはははははは!」


エルメラは笑った。


多額の金をつみ作らせた専用艦。
権威の象徴。


それが、こうもあっけないとは。


彼ももう、正気などではなかった。


「アリシアの船に突っ込め!」


「な!正気ですか!」


「黙れ!」


パン、と乾いた音が鳴る。
エルメらの無茶な要求。


制止しようとした艦長が撃たれた。
艦長は地面へと倒れる。


「やれ!」


「は、はい!」


拳銃を突きつけて、操舵手を脅す。
エルメラの専用艦がリヴァイヤサンへと近づいていく。


回避行動を取ってくる。
だが、もう間に合わない。


「アリシア!」


エルメラの獣のような声。
船と船がぶつかり合う音。


艦首がリヴァイヤサンの横腹を突く。


船内が揺れ、人が中に浮く。


箱の中に動物を入れ、振ったときのように。
船内にいる人間のすべては、揺すられた。


「進め!」


自身も頭から血を流しながら。
エルメラは走り始める。


アリシアのいるリヴァイアサンへと。


「アリシア!アリシアああ!」


血を流し、痩せこけ、同じ言葉を狂ったように叫ぶエルメラ。


それはまるで、悪魔のようで。
アリシアに魔の手が近づいている、証でもあるのであった。
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