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1章 帝国編

19話

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「あ、あれ?」


それは食事中に起きた。
仕事を早めに終わらせて、3人で食事を囲む。


いつもとまったく同じ。
家族での団欒の時間。


クロージャが飲物をのんだ直後。
ぐらりと体を揺らした。


「どうした?」


「お母さん?」


いつもとは違う彼女の反応。
クロードとアリシアは、すぐに異変に気づいた。


「カフッ!」


クロージャが血を吐いた。
まるで二人の問いに答えるように。


真っ黒なドス黒い血が、
アリシアや料理にかかった。


「お母さん!」


「奥様!」


クロージャが椅子から転げ落ちた。
アリシアと、侍女達が駆け寄る。


肝心なクロードは動けなかった。


目の前で起きていること。
それが現実だとは思えなかった。


「か!か!か!」


クロージャが泡をふく。
ブクブクと、カニの様に。


そして体を痙攣させた。
打ち上げられた魚のように。


その姿は見たことがあった。


毒だ。


毒を盛られた時の反応だ。
貴族が邪魔な貴族を排除する際に行う方法。


何度も、見たことがある光景だった。


「お母さん!お母さん!」


「まずい、急げ!」


珍しいアリシアの悲鳴と、侍女達の怒声。
急いで入ってきた医者達の大声。


それから先のことは、あまり良く覚えていない。


「・・・申し訳、ございません」


気づくと、医者が頭を下げていた。

知らぬ間に医務室にいた。


医者の後ろにはベッドに横たわるクロージャが見える。


顔に白い布を被され、ピクリともしない。


アリシアは、そんなクロージャの手を握っていた。


「・・・夢か?」


無意識に、クロードはつぶやいた。


クロージャは先ほどまで笑っていた。
昔と変わらない笑みを浮かべ、明日はどうしようと話していた。


そんな彼女が、死ぬはずがない。
きっと、また笑って起き上がってくる。



そう思った。


医者を無視して、クロージャの隣に行った。
布を外して、顔を見つめる。


クロージャは静かに眠っていた。


「お父さん・・・」


アリシアの声が聞こえた。
今にも泣きそうな、震える声。


いつも冷静な、アリシアの泣き顔。


(ああ、これは、現実なのだな)


クロードは理解した。
大声で泣くアリシアを抱きしめる。


涙は出てくれなかった。


すぐにクロージャの死因が調べられた。
原因は、やはり毒物であった。


料理人が、盛っていたらしい。


すぐにその料理人を拘束する。
そして尋問をした。


「なぜクロージャを殺した?」


「は!偶然さ!本当はお前だったんだよ!死ぬはずだったのはな!」


「・・・・・・」


「幸運だったな、生き延びて」


料理人は吐き捨てる。


幸運。


その言葉が頭の中で反芻された。
クロードの頭の中で。


クロージャが死んだ。
それが、幸運だと?


その後、料理人は、見るも無惨な拷問を受けさせた。


彼は、多くの事を話してくれた。


裏で糸を引いたのが、弟のエルメラである事。


彼が、皇位継承権を狙っていることなど。


「なんたることだ!今すぐにエルメラをここに来させろ!」


先代皇帝が怒り、告げた。


「クロード、後は任せろ。お前は、少し休め」


先代皇帝の言葉に甘える。


すぐにクロージャのお葬式をした。


アリシアは、ただ、見つめていた。
泣かずに、目も見開いて。


母の入る棺を。


どのような言葉をかけてやればいいのかが分からない。


弟がなぜ自分を殺そうとしたかも、分からない。


もう、頭がパンクしていまいそうであった。


「クロード様!」


「・・・なんだ」


「皇帝陛下が!」


「は?」


だが、悪い事は続いた。

先代皇帝が、死んだのだ。
まだクロージャのお葬式も済んでいないというのに。


エルメラから話を聞いている際。
クロージャと同じように、血を吐いて死んだらしい。


肝心なエルメラは、姿を消した。
自身が犯人です、と言っているようなものであった。


その後、すぐに内戦が始まることとなった。
エルメラが、貴族達を率いて、攻めてくる。


皇帝不在の中、混乱する帝国。
反乱軍をとめるすべはなかった。


多くの臣下達が殺されていく。
そして多くの人間が、裏切ってもいった。


妻が死に、父が死んだ。
多くの忠臣や、仲間達が死んだ。


「陛下!いますぐ反撃を!」


部下達がおのおの叫んだ。


どうでもいいと、クロードは思った。
今は、怒りよりも、悲しみが大きい。


どうとでもなってしまえ、と思った。


「お父さん?」


部屋に閉じこもり、うなだれていると、
アリシアが顔を覗かせる。


目が赤くなっている。


きっと泣いた後なのだろう。
けれどアリシアはいつものような足取りでクロードの前に来た。


そしてしがみついてくる。


クロードは思いだす。
自分には守るべき存在がいたことを。


ここで、嘆いている暇は、ないということを。


「アリシア、お前は生きてくれ」


クロージャとの、宝物。
自分の命より大切な宝物。


帝国にいれば、どのような目にあうかは予想がつく。


この子だけは、守れるように、王国へと養子にだした。


そして、アリシアが再び帝国へ帰ってこれるようにと。


クロードは戦う事を決意するのであった。
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