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1章 帝国編
17話
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リヴァイヤサンが海を泳ぐ。
彼女の修理は終わったらしい。
何事もなかったように悠々と泳いでいる。
「反逆者エルメラが、帝都より逃走した。我らは奴の追撃に入る。総員、戦闘配置に付け」
艦長さんの声が聞こえた。
どうやら本国からの命令であるらしい。
兵士さん達は慌ただしく動いている。
私も兵士さんたちに合わせて働く。
艦内は大忙しだった。
「大丈夫かい?」
途中、艦長さんが告げた。
私を心配している顔だった。
おそらくエルメアの事を気にしているのだろう。
一応彼は私の叔父に当たる人だ。
母を殺し、おじいさんも殺した仇だ。
彼について思うと、複雑な思いになる。
確かに、不安がないと言えばウソになるだろう。
でも首を縦も振った。
一人だったら、ダメだったと思う。
でも今は、リヴィヤサンの皆さんがいる。
だから、大丈夫だった。
「艦長、帝国軍主力部隊は帝都の奪還に成功したようです」
「吉報だな」
「はい。そして皇帝陛下自らも、エルメラの追撃に出たとの報告も・・・」
「陛下自らだと!?」
艦長が珍しく声を荒げた。
副長の報告はそれほどもものだった。
詳しく聞くと、父も船に乗り弟を追いかけているらしい。
乗るのはリヴァイヤサンの姉妹艦。
2番艦、クラーケンだそうだ。
このまま行けば合流できるかもしれない。
とのことであった。
「これはチャンスだ。陛下に直接伝える絶好の機会だぞ」
艦長さんは興奮気味だ。
内通者の正体は未だに分かっていない。
だから下手に情報を伝えられない。
どこで握りつぶされて、悪用されるかわからないから。
だが、直接会えるとなれば話は別だ。
会って話せば、偽造は不可能。
確実に真実を伝えられる。
願ってもない状況であった。
「追いつくのは数時間後だ。エルメラも、内通者もそれまでに動き出すだろう」
艦長さんは、何かをくれた。
拳銃だった。
艦長さんの私物らしい。
子どもでも撃てる、低反動のもの。
「もっておいてくれ。いざというとき、自分の身を守れるように」
戦闘は何時だって、大変だ。
みんながケガをして、動けなくなるかもしれない。
敵がまた、乗り込んでくるかもしれない。
それに、エルメラは、私を狙ってくる可能性がある。
だから、護身用にもっておいてほしい、との事だった。
簡単に使い方は教えてもらった。
撃てる自信など無い。
ものすごく重く感じた。
物理的にも。精神的にも。
「艦長!十時方向に、船体らしき影が!」
「わかった。すぐに戻る」
艦長さんは私を抱きしめる。
そして艦橋へと走っていった。
戦闘が、始めるのだ。
私も走り出す。
ただ見ているつもりはない。
私は、私の出来ることで戦う。
このリヴァイヤサンのみんなを、守るために。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!」
エルメラは叫んでいた。
何かに怯え、壊れたように同じ言葉を繰り返している。
睡眠はしばらく取れていない。
頬はこけ、目には大きなクマができていた。
ストレスで脱毛も激しい。
高齢の男性のようにすら、見えてしまう始末だ。
反乱軍は本拠地を失った。
多くの部隊が降伏していっている。
エルメラ自身は、なんとか帝都から脱出はできた。
しかし数少ない味方の大半がやられてしまった。
残るのは中規模の艦隊のみ。
かつて帝国をあと一歩まで追い詰めた反乱軍。
その末路がこれであった。
「エルメラ様、降伏をお考えください。これでは、勝ち目などございませぬ」
「嫌だ!殺されるに決まってるだろ!クロードが僕を許す訳がない!それともなんだ!お前だけは助かるつもりか!」
エルメラは子どものように泣きじゃくる。
「ああ!アリシアさえいれば!あの馬鹿共が失敗さえしなければ!」
「命を賭けた部下達です。そのような物言いは・・・」
「事実だろうが!」
部下の頬を殴りつける。
部下に歯が欠け、地面に落ちた。
艦橋は地獄であるかのような空気が流れていた。
「アリシアさえいれば、アリシアさえいれば、まだ助かる。まだ助かるんだ!」
エルメラは狂っていた。
とても正気ではなかった。
「いひひひひひ!」
最後の部下達は、見つめる。
狂った、己らの長を。
そして覚悟するのであった。
人生の、最後の時を。
彼女の修理は終わったらしい。
何事もなかったように悠々と泳いでいる。
「反逆者エルメラが、帝都より逃走した。我らは奴の追撃に入る。総員、戦闘配置に付け」
艦長さんの声が聞こえた。
どうやら本国からの命令であるらしい。
兵士さん達は慌ただしく動いている。
私も兵士さんたちに合わせて働く。
艦内は大忙しだった。
「大丈夫かい?」
途中、艦長さんが告げた。
私を心配している顔だった。
おそらくエルメアの事を気にしているのだろう。
一応彼は私の叔父に当たる人だ。
母を殺し、おじいさんも殺した仇だ。
彼について思うと、複雑な思いになる。
確かに、不安がないと言えばウソになるだろう。
でも首を縦も振った。
一人だったら、ダメだったと思う。
でも今は、リヴィヤサンの皆さんがいる。
だから、大丈夫だった。
「艦長、帝国軍主力部隊は帝都の奪還に成功したようです」
「吉報だな」
「はい。そして皇帝陛下自らも、エルメラの追撃に出たとの報告も・・・」
「陛下自らだと!?」
艦長が珍しく声を荒げた。
副長の報告はそれほどもものだった。
詳しく聞くと、父も船に乗り弟を追いかけているらしい。
乗るのはリヴァイヤサンの姉妹艦。
2番艦、クラーケンだそうだ。
このまま行けば合流できるかもしれない。
とのことであった。
「これはチャンスだ。陛下に直接伝える絶好の機会だぞ」
艦長さんは興奮気味だ。
内通者の正体は未だに分かっていない。
だから下手に情報を伝えられない。
どこで握りつぶされて、悪用されるかわからないから。
だが、直接会えるとなれば話は別だ。
会って話せば、偽造は不可能。
確実に真実を伝えられる。
願ってもない状況であった。
「追いつくのは数時間後だ。エルメラも、内通者もそれまでに動き出すだろう」
艦長さんは、何かをくれた。
拳銃だった。
艦長さんの私物らしい。
子どもでも撃てる、低反動のもの。
「もっておいてくれ。いざというとき、自分の身を守れるように」
戦闘は何時だって、大変だ。
みんながケガをして、動けなくなるかもしれない。
敵がまた、乗り込んでくるかもしれない。
それに、エルメラは、私を狙ってくる可能性がある。
だから、護身用にもっておいてほしい、との事だった。
簡単に使い方は教えてもらった。
撃てる自信など無い。
ものすごく重く感じた。
物理的にも。精神的にも。
「艦長!十時方向に、船体らしき影が!」
「わかった。すぐに戻る」
艦長さんは私を抱きしめる。
そして艦橋へと走っていった。
戦闘が、始めるのだ。
私も走り出す。
ただ見ているつもりはない。
私は、私の出来ることで戦う。
このリヴァイヤサンのみんなを、守るために。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!」
エルメラは叫んでいた。
何かに怯え、壊れたように同じ言葉を繰り返している。
睡眠はしばらく取れていない。
頬はこけ、目には大きなクマができていた。
ストレスで脱毛も激しい。
高齢の男性のようにすら、見えてしまう始末だ。
反乱軍は本拠地を失った。
多くの部隊が降伏していっている。
エルメラ自身は、なんとか帝都から脱出はできた。
しかし数少ない味方の大半がやられてしまった。
残るのは中規模の艦隊のみ。
かつて帝国をあと一歩まで追い詰めた反乱軍。
その末路がこれであった。
「エルメラ様、降伏をお考えください。これでは、勝ち目などございませぬ」
「嫌だ!殺されるに決まってるだろ!クロードが僕を許す訳がない!それともなんだ!お前だけは助かるつもりか!」
エルメラは子どものように泣きじゃくる。
「ああ!アリシアさえいれば!あの馬鹿共が失敗さえしなければ!」
「命を賭けた部下達です。そのような物言いは・・・」
「事実だろうが!」
部下の頬を殴りつける。
部下に歯が欠け、地面に落ちた。
艦橋は地獄であるかのような空気が流れていた。
「アリシアさえいれば、アリシアさえいれば、まだ助かる。まだ助かるんだ!」
エルメラは狂っていた。
とても正気ではなかった。
「いひひひひひ!」
最後の部下達は、見つめる。
狂った、己らの長を。
そして覚悟するのであった。
人生の、最後の時を。
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