【第２部開始】すべてを奪われたので、今度は幸せになりに行こうと思います

1章 帝国編

１６話

帝都、グラード。


長年帝国の首都として栄えた都市だ。


100万人近くの人口をもつ大都市。
歴代の皇帝が統治する中心地であった。


かつては栄華を極めた大地。


が、今はその見る影もない。


見るも無残な姿だ。


帝都は、襲撃された。
内戦が始まった直後に。


よって現在は反乱軍の本拠地となっている。


「お止めください、陛下。帝国２０００年の歴史が、消えてしまいます」


帝都が見下ろせる丘で。
陛下に訴える部下がいた。


帝国軍は、帝都を完全に包囲している。


蟻一匹逃がさない完全な包囲。
帝国自慢の物量戦だ。


単純だが、故に強い。
多くの英雄達を打ち破ってきた戦略。


その戦略より、帝都は飢餓に陥っていた。


多くの民や反乱兵が飢えていた。


「あそこに住むのは、無実の民です。殺す必要がありましょうか」


「反乱軍についた者達だ。死んで当然だろう」


「陛下、正気にお戻りください。これは、ただの虐殺です」


涙を流しながら部下は告げる。
しかし皇帝の目は冷たかった。


部下の訴えは響いていない。
まるで民の命など、どうでもいいという風に。


虐殺皇帝クロード。
これが彼であった。


「陛下の通りでございます。あやつらは敵。いつ裏切るかも分かりませぬ。ここですべて倒してしまいましょう」


思い空気が流れる中。
ひょうひょうと一人の部下が言った。


「パウル！貴様！どの口でいうか！」


「もういい、貴様は下がれ。次は、ないぞ」


クロードが、淡々と告げる。


部下は顔をしかめた。
まだ言い足りぬという顔をする。


だが、皇帝の命令には逆らえない。
去って行く。


パウルはほくそ笑んだ。
やはり皇帝は、こうでなくては、と。


すべてが彼の思い道理に進んでいた。
一つの事柄を除いては。


アリシアの手紙を処分し。
情報を反乱軍に流す。


ここまではよかった。


だが、それ以降がダメだ。


反乱軍の長。
エルメア。


彼はあろうことか、アリシアを生け捕りにしようとしたらしい。
そのせいで、奇襲は失敗。


リヴァイヤサンは警戒態勢に入ってしまった。


もう手出しはできまい。
簡単には。


さっさと殺せばよかったものを。
誘拐など考えずに。


（本当に兄弟なのか？雲泥の差じゃないか）


パウルはため息をつく。


リスクを犯して情報を流した。
内通者も潜入させてやった。


にも関わらず結果はこれだ。


骨折り損のくたびれもうけ。
ただ裏切りがばれる可能性が増えただけ。


もう反乱軍は頼らぬ方がいいだろう。


「報告します」


「なんだ」


「反乱軍艦隊が、攻撃を開始しました。反撃し撃滅いたしましたが、数隻は逃走された模様」


「逃げられたか」


「はい。逃走した船には、エルメアの専用艦も含まれます。その可能性は高いかと」


「追え。そしてエルメアは確実に殺せ。連れてくるのは、遺体でも構わん」


部下の報告を聞く。
皇帝は立ち上がる。


そして命令をくだした。


「全軍、攻撃を開始しろ。帝都を、取り戻すのだ」


長が逃走した今。
元々士気が低い反乱軍だ。


たいした抵抗も不可能だろう。


あとは飢餓で苦しみ、見捨てられた奴らを丁寧に殺していくだけだ。


痩せ細った体と、精神で、何が出来ようか。
帝国の勝利は揺るがない。


彼らは、元はといえば自国民。
同じ旗の下暮らした同士達だ。


下手な将では、同情し、手心を加えてしまうだろう。


加えて帝国2000年の歴史がある都市だ。
保存したくなる気持ちも理解する。


だが、それではだめだ。
そんな生ぬるい人物では、皇帝は務まらない。


裏切り者は、容赦なく殺す。
未来のために、歴史を燃やす。


そのくらいの冷徹さがなければ。
そのくらいの思いきりがなければ。


皇帝など務まらない。


時期にこの内戦は終わる。
エルメラの死亡によって。


弟が死に、娘も死ねば、皇帝は完成する。
弱みなどない、完璧な皇帝が。


もうあまり猶予はなかった。


いそがなければ。
パウルは思った。


帝国軍が帝都に攻撃は開始する。
兵士達が、逆賊たちを蹂躙していく。


とてもすばらしい眺めだ、とパウロは思うのであった。