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1章 帝国編

13話

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目を覚ます。
魔の前が真っ暗だった。


身動きが取れない。


どうやら手足を縛られているようだ。
狭い何かに押し込められている。


口も塞がれている。


体が揺れる。
どうやら移動しているようだった。


覚えているのは、兵士が来たこと。
3人組の兵士に囲まれて、口を塞がれて、意識を失ったこと。


彼らは言っていた。
エルメア様が、あなたをお待ちです、と。


おそらく連れて行かれるのだろう。
憎き、弟の元に。


理由はすぐに思い付く。


父への、人質だ。


このような小娘の使い道。
それしか考えられない。


エルメアも義父達と同じだ。
私を金の卵を産むヒナだと思っている。


このままだと、父に迷惑がかかってしまう。
そう思い、思いっきり体を動かし、叫んだ。


「ムー!!ムー!!」


「うぉお!」


男性の驚く声が聞こえる。

暴れる私をとめようと押さえつけてくる。


押さえつける。
ということは暴れられたら不味いわけだ。
必死に暴れてやる。


彼らは、私を殺せない。
殺してしまえば、人質にならないから、


されたとしても、痛いことくらいだ。


そういうことは慣れている。
義父達にさんざんやられたのだ。


あれ以上の地獄は、どこにもないだろう。
だから、怖じ気づくな。


「止まれ!」


「クソがあ!」


乾いた音が聞こえる。
世界がぐらりと揺れた。


何かに叩き付けられる。
突然の事に頭をぶつける。


何もわからない。


でも、何か起こっていることだけは、わかった。


「逃げるな!」


「行け!行けえ!」


怒声が飛び交う。
無数の音が飛び交い始める。


「よくもやってくれやがっな」


突然前が明るくなる。
袋から引きずり出された。


目を開く。


目も前には兵士さん達がいた。
怖い顔をして、こちらに銃を向けている。


「テメエのせいで台無しだ!」


頭に何かがあたる。
横を見ると、拳銃だった。


医務室に来た兵士達。
彼らが私を掴み、頭に銃を当てているのだ。


「アリシアちゃん!?なんで!?」


兵士さん達が驚きの声をあげた。


「撃つな!あたるぞ!」


兵士さんが慌てる。
銃を持つ手が震えていた。
必死に仲間達を制止する。


「そうだ、それでいい」


私を掴む兵士達は、ジリジリと下がっていく。


私を盾にして。


下がるたびに、床に血がしたたる。
兵士はケガをしているようだ。


私を使かむ手から血が出ている。
刃物や擦り傷ではない。


もっと大きな何かだった。


「近づいてくるんじゃねえ!」


兵士が発砲をする。
兵士さんたちは身をかがめる。


物陰に隠れ、やり過ごしていた。


反撃をしようと銃を構えるが、顔をしかめた。


撃てないんだ。私がいるから。


私を掴む兵士たちは撃ち続ける。
一方的に。


顔見知りの兵士さん達を。


「ぐう!」


一人の兵士さんが打ち抜かれる。
肩を押さえて倒れる。


血が溢れた。
地面に赤い池を作った。


私のせいだ。
私のせいで、人が傷ついている。


兵士さん達は強い。
普通なら、こんな兵士達には負けない。


でも、私がいるせいで、勝てないんだ。


甲板にでる。
甲板では大砲が火をふいていた。
鼓膜がやぶれてしまいそうな轟音がなる。


リヴァイヤサンも、何かと戦っているようだ。


「来たぞ!」


兵士が海の方を見る。
目線の先には小さな船があった。


少しずつこちらに近づこうとしてきている。
あれに乗らされるのだ。


「卑怯者め」


兵士さん達が叫んだ。


私のせいで、多くの兵士さんがケガをしている。


そして、その現実はこれからも変わらない。


連れ去られたら、今度は反乱軍の盾にされる。


私のせいで、誰かが傷つく。
傷つく人を見ているのが嫌だった。


そんな未来に幸福などない。
それだけははっきりとわかった。


兵士達の顔を見る。
彼らの目線は、兵士さんと船に分かれてる。
誰もこちらを見ていない。


このまま、いれば前と同じだ。
義父達と同じように、すべて奪われてしまう。


大切な兵士さん達を傷付けてしまう。


以前は、父が助けてくれるのを待っていた。
そのせいで、苦しみ続けるはめになった。


でも、今は違う。


「な!?」


油断している兵士に体当たりをする。
兵士はバランスを崩す。


体を大きく揺らし、船の淵に行く。


もう、奪わせはしない。
私の、宝物を。


瞬間、船が揺れた。


何かが爆発したようだ。


ぐらりと船が傾く。
倒れかけていた兵士達は、
さらにバランスを崩した。


そして、そのまま海へと落ちる。
私を、捕まえたまま。


「アリシアちゃん!」


ゆっくりと時が流れる。
兵士さん達が駆け寄ってくるのが見えた。


私の方へと手を伸ばしてくれる。


でも、それよりも速く、落下した。
海へと、真っ逆さまに。


これでいいのだ。


自分のせいで、奪われるくらいなら。
こういう結末のほうが、良いと思った。

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