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1章 帝国編
10話
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「終わりましたよ。もう大丈夫です」
「おお!ありがとうアリシアちゃん!痛みが引いてきた気がするよ!」
「よかったです、お大事にしてくださいね」
医務室で兵士さんの治療をする。
治療といっても簡単なものだ。
傷口を消毒して、包帯をまく。
今の私には、それくらいしかできなかった。
「すまんな、手伝ってもらって」
「いえ、このくらいしかできないですけど」
「いいや、大助かりだよ」
リヴァイヤサンの戦闘は増えている。
どうやら大攻勢というものが近いらしい。
準備のため、いろいろやる必要があるらしい。
で、その影響で、ケガする兵士さんが増えている。
ただ、運がいいこともある。
ケガの多くが転倒とか、擦り傷であることだ。
反乱軍の多くは旧式の船で、士気が低くて、素人だ。
逆にこちらは新型で、士気旺盛で、精鋭だ。
だから戦いはいつも一方的。
負傷の主な理由も、走っていて転んだ、とか。
装填していたら指を挟んだ、などといった不注意が多い。
素人の私でも十分手当をしてあげられた。
「アリシアちぁ~ん、指はさんじゃった~」
「転んじゃった~」
「ぶつけちゃった~」
ケガをした兵士さん達の列ができる。
なぜかみなさん私の方にならんでいる。
船医さんの方はガラガラだった。
どうしてなのだろう、と思った。
船医さんの方が知識も技術も上なのに。
「お前ら、わざとケガしてねえよな?」
船医さんの低い声が響く。
兵士さん達はギクリ!と体を震わせた。
どうやらしている人もいるみたいだ。
「次やったら、俺が舐めてやるからな、傷口」
「いや~、さすがにクマに舐められるのは、ちょっと・・・」
「アリシアちゃんがいいです」
「言ったな?お前らはこっちだ!あと今笑った奴らも連帯だ!」
え~、というブーイングが響いた。
みんなとても元気そうだ。
思わず笑いがもれてしまう。
私が笑うと、兵士さん達も、笑ってくれる。
リヴァイヤサンに来てから、楽しい事ばかりだ。
父からの返信は、まだ来ない。
そのことについては、とても不安だ。
でも、そんな不安が小さくおもえるほど、
ここでの生活は充実している。
義父達との地獄のような生活。
あれはウソであったかのようだ。
偶然拾われた、偶然の結果だけど、
今はその偶然に、ただ感謝をしたい。
「リーダー!少し来てもらえますか」
それはリヴァイヤサンの補給が終わったころだった。
陸に船を着けて、たくさんの荷物を運び込む。
倉庫にはゴハンだったり、日用品だったりが満載だ。
特に新鮮な野菜や果物は、こんな時にしか食べられない。
兵士の皆さんは大喜びだった。
新鮮な食材を調理して、それが終わったら荷物運びでケガをしてしまった人を治療する。
大忙しだ。
「先生!ケガ人が!」
「ああ!またか!すまん、少しいって来るぞ」
船医さんが医務室を離れる。
どうやら、どこかでケガをした人がいるらしい。
今日はずいぶんと多いみたいだ。
「すみません、今、いいですか?」
医務室で一人で整理をしていると、誰かが来た。
兵士さんだった。
3人組で、医務室を訪れている。
「どうしましたか?」
「コイツが指を切ってしまって、治療していただけますか?」
一人が、痛そうに指を押さえている。
船医さんがいないときに、何と間の悪い。
それに3人でくるほどのケガだろうか?
すこし疑問に思う。
けれど放置もかわいそうだ。
軽いケガくらいなら、私でも治せる。
どうぞ、と言って医務室に招き入れた。
傷を見てみると、予想通り軽傷だ。
何かで切ったような傷。
これならすぐに処置は終わるだろう。
消毒液と、包帯を持ってくる。
指を出してもらって、すぐに治療を終えた。
「ありがとうございます」
兵士さんはニッコリと笑う。
じっとりとした目線でこちらを見る。
背筋が、震えた気がした。
嫌な感じがする。
この感じは覚えがあった。
義父達とおなじ目だ。
私を利用しようとする目だ。
「すみません、ちょっと席を外しますね」
気のせいかもしれない。
でも怖くなって席をたった。
一人はマズイ。
船医さんや、船長さんの元に行こう。
そう思って、医務室からでようとする。
「逃がしませんよ」
一人の兵士さんが、扉の前に立ちはだかる。
貼り付けたような笑顔で、告げる。
私は息を飲んだ。
逃げ道を、塞がれた。
偶然ではない。
つまり、そういうことだ。
この人達は、私を狙っている。
「まさか、本当にいるとはね」
兵士さん達は私を囲む。
「アリシア様。エルメア様が、あなたをお待ちです。ぜひ、ご同行を」
兵士は言った。
エルメア様、と。
私は目を見開く。
エルメアは父の弟の名だ。
母を殺し、祖父を殺し、父を今も苦しめている元凶だ。
彼らは帝国兵じゃない。
帝国の征服を着ているけれど、違うのだ。
彼らは反乱軍。
いつも笑う兵士さん達とは別の人。
それに、私の正体も、ばれている。
私が、皇帝クロードの娘であると、分かっている。
どこでばれた。
手紙でしか、正体を明かしていないのに。
どうしてばれたのだ。
兵士達はジリジリと距離を詰めてくる。
私を捕まえる気だ、というのはすぐにわかった。
まずいと、大声で叫ぼうとする。
でも、兵士たちの方が早い。
すぐに布で口を抑えられる。
声が出ない。
大人3人係だ。
とても帝国ができない。
意識が薄れていく。
布になにか薬品でも塗られていたようだ。
「すぐに迎えがやってきます。ゆっくりお眠りくださいね」
薄れゆく意識の中。
それが私が聞いた最後の言葉だった。
「おお!ありがとうアリシアちゃん!痛みが引いてきた気がするよ!」
「よかったです、お大事にしてくださいね」
医務室で兵士さんの治療をする。
治療といっても簡単なものだ。
傷口を消毒して、包帯をまく。
今の私には、それくらいしかできなかった。
「すまんな、手伝ってもらって」
「いえ、このくらいしかできないですけど」
「いいや、大助かりだよ」
リヴァイヤサンの戦闘は増えている。
どうやら大攻勢というものが近いらしい。
準備のため、いろいろやる必要があるらしい。
で、その影響で、ケガする兵士さんが増えている。
ただ、運がいいこともある。
ケガの多くが転倒とか、擦り傷であることだ。
反乱軍の多くは旧式の船で、士気が低くて、素人だ。
逆にこちらは新型で、士気旺盛で、精鋭だ。
だから戦いはいつも一方的。
負傷の主な理由も、走っていて転んだ、とか。
装填していたら指を挟んだ、などといった不注意が多い。
素人の私でも十分手当をしてあげられた。
「アリシアちぁ~ん、指はさんじゃった~」
「転んじゃった~」
「ぶつけちゃった~」
ケガをした兵士さん達の列ができる。
なぜかみなさん私の方にならんでいる。
船医さんの方はガラガラだった。
どうしてなのだろう、と思った。
船医さんの方が知識も技術も上なのに。
「お前ら、わざとケガしてねえよな?」
船医さんの低い声が響く。
兵士さん達はギクリ!と体を震わせた。
どうやらしている人もいるみたいだ。
「次やったら、俺が舐めてやるからな、傷口」
「いや~、さすがにクマに舐められるのは、ちょっと・・・」
「アリシアちゃんがいいです」
「言ったな?お前らはこっちだ!あと今笑った奴らも連帯だ!」
え~、というブーイングが響いた。
みんなとても元気そうだ。
思わず笑いがもれてしまう。
私が笑うと、兵士さん達も、笑ってくれる。
リヴァイヤサンに来てから、楽しい事ばかりだ。
父からの返信は、まだ来ない。
そのことについては、とても不安だ。
でも、そんな不安が小さくおもえるほど、
ここでの生活は充実している。
義父達との地獄のような生活。
あれはウソであったかのようだ。
偶然拾われた、偶然の結果だけど、
今はその偶然に、ただ感謝をしたい。
「リーダー!少し来てもらえますか」
それはリヴァイヤサンの補給が終わったころだった。
陸に船を着けて、たくさんの荷物を運び込む。
倉庫にはゴハンだったり、日用品だったりが満載だ。
特に新鮮な野菜や果物は、こんな時にしか食べられない。
兵士の皆さんは大喜びだった。
新鮮な食材を調理して、それが終わったら荷物運びでケガをしてしまった人を治療する。
大忙しだ。
「先生!ケガ人が!」
「ああ!またか!すまん、少しいって来るぞ」
船医さんが医務室を離れる。
どうやら、どこかでケガをした人がいるらしい。
今日はずいぶんと多いみたいだ。
「すみません、今、いいですか?」
医務室で一人で整理をしていると、誰かが来た。
兵士さんだった。
3人組で、医務室を訪れている。
「どうしましたか?」
「コイツが指を切ってしまって、治療していただけますか?」
一人が、痛そうに指を押さえている。
船医さんがいないときに、何と間の悪い。
それに3人でくるほどのケガだろうか?
すこし疑問に思う。
けれど放置もかわいそうだ。
軽いケガくらいなら、私でも治せる。
どうぞ、と言って医務室に招き入れた。
傷を見てみると、予想通り軽傷だ。
何かで切ったような傷。
これならすぐに処置は終わるだろう。
消毒液と、包帯を持ってくる。
指を出してもらって、すぐに治療を終えた。
「ありがとうございます」
兵士さんはニッコリと笑う。
じっとりとした目線でこちらを見る。
背筋が、震えた気がした。
嫌な感じがする。
この感じは覚えがあった。
義父達とおなじ目だ。
私を利用しようとする目だ。
「すみません、ちょっと席を外しますね」
気のせいかもしれない。
でも怖くなって席をたった。
一人はマズイ。
船医さんや、船長さんの元に行こう。
そう思って、医務室からでようとする。
「逃がしませんよ」
一人の兵士さんが、扉の前に立ちはだかる。
貼り付けたような笑顔で、告げる。
私は息を飲んだ。
逃げ道を、塞がれた。
偶然ではない。
つまり、そういうことだ。
この人達は、私を狙っている。
「まさか、本当にいるとはね」
兵士さん達は私を囲む。
「アリシア様。エルメア様が、あなたをお待ちです。ぜひ、ご同行を」
兵士は言った。
エルメア様、と。
私は目を見開く。
エルメアは父の弟の名だ。
母を殺し、祖父を殺し、父を今も苦しめている元凶だ。
彼らは帝国兵じゃない。
帝国の征服を着ているけれど、違うのだ。
彼らは反乱軍。
いつも笑う兵士さん達とは別の人。
それに、私の正体も、ばれている。
私が、皇帝クロードの娘であると、分かっている。
どこでばれた。
手紙でしか、正体を明かしていないのに。
どうしてばれたのだ。
兵士達はジリジリと距離を詰めてくる。
私を捕まえる気だ、というのはすぐにわかった。
まずいと、大声で叫ぼうとする。
でも、兵士たちの方が早い。
すぐに布で口を抑えられる。
声が出ない。
大人3人係だ。
とても帝国ができない。
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