【第2部開始】すべてを奪われたので、今度は幸せになりに行こうと思います

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)

文字の大きさ
上 下
9 / 46
1章 帝国編

9話

しおりを挟む
「クソ!クソ!クソ!なんで負けているんだよ!」


エルメアは机を叩く。
彼は反乱軍の長であり、皇帝クロードの弟だ。


貴族達を率い帝国に反旗を翻した男だ。


前皇帝と現皇帝の妻を毒殺し、
圧倒的な軍備力でクロードを追い詰めていた。


そのはずだった。


だが今の反乱軍に当時の勢いはない。


クロードの策略により多くの軍隊はやられ、
共に反乱を企てた貴族達は処刑されてしまっていた。


帝国は体勢を立て直し、反撃に出てきている。


数日前にも、帝国の新型艦に拠点を潰されたばかりだ。


日に日に反乱軍を裏切るものもでている。


残っているものも、戦意は低い。
みなクロードを恐れているのだ。


下手に抗えば、処刑されてしまう。
処刑されるくらいならば、無駄な抵抗はせずに、降伏したほうが良いと。


「なんで!なんでいつもあいつなんだ!みんな僕じゃなくてあいつの話をする!」


エルメアは頭をかきむしる。


物心ついたときから、彼はクロードと比べられていた。


一歳差の兄は、すべての面で優秀であった。


臣下も、母も、前皇帝も、褒めるのは兄ばかり。


エルメアを見ているモノは、誰もいない。


兄は、弟が持たぬモノをすべて持っていた。


人々の賞賛も、端正な顔立ちも、優秀な頭も、優れた身体能力も、帝位継承権も、美しい妻も、かわいらしい子も、すべて持っている。


どれだけ手を伸ばそうとも手に入らぬものを、持っている。


だから、エルメアは決めたのだ。
兄からすべてを奪ってやろうと。


何も持たぬ自分が、すべて手に入れてやろうと。


そうして彼は、クロードの杯に毒を盛った。
クロードが死ねば、すべて自分のモノになると信じて。


だが、そううまくはいかなかった。
偶然にも、毒杯を、クロードの妻、クロージャがあおってしまったのだ。


クロージャは血を吐いて死んだ。
すぐに原因が調査され、犯人がエルメアだとばれてしまった。


もう、後戻りはできなかった。


すぐさま皇帝も毒殺し、現状に不満を持つ貴族達をかき集めた。


皇帝が死に、動揺している帝国相手に大攻勢をかけた。


多くの忠臣たちを殺した。
クロードの大切なモノを奪ってやった。


そして、あともう少しでクロード自身の首も取れたというのに。


どうして今、劣勢になっているのだ。


「なにか、なにか手は無いか!死にたくない!死にたくない!」


「エルメア様、入ります」


「なんだ!」


「スパイから情報が」


「情報?」


部屋に入って来た部下が書類を渡す。
書類を見つめて、エルメアは目を見開く。


書類には、皇帝クロードの一人娘である、
アリシアが、新型戦艦に乗っている可能性がある。


という情報が載っていた。


「ふふふふふ!あははははははは!」


「エルメア様?」


「あるじゃないか!一発逆転の方法が!あいつの一番の弱点が!」


エルメアは高らかに笑った。


クロードの唯一の弱点。
それは愛情の深さだった。


前皇帝と同じように、彼は血縁となると判断が鈍る。


エルメアはすでにその対象ではない。


だが、実の娘となれば、別だろう。
愛した亡き妻との、子なら。


ずっとアリシアのことは探させていた。
だが、どうしても見つけることが出来ていなかった。


けれど、今、彼女の尻尾はつかめたようだ。


「アリシアを捕まえて、人質にする!そすればあいつはもう動けない!勝てる!まだ勝てるぞ!まっていろよ、クロード!あははははは!」


部屋には、笑い声が響く。
エルメアの奇妙な笑い声が。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

最低限の信頼関係さえ崩壊した今、夫の望みは実現させません。

田太 優
恋愛
仕方なかったとはいえ、愛の無いまま結婚したことを後悔していた。 本当なら幼馴染と結婚したかったが、幼馴染はもっと条件の良い相手と結婚してしまった。 今でもまだ幼馴染への想いは消えていない。 そして思いがけず、幼馴染から会いたいという手紙が届いた。

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

処理中です...