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1章 帝国編
7話
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「アリシアちゃ~ん!こっちもおねがい~い!」
「いいや俺が先だ!おねが~い!」
「はい!今行きます!」
兵士さん達の甘えた声が聞こえてくる。
私は今、船の雑用として働かせてもらっている。
帝国はどうやら人手不足のようだ。
だから救ってもらったお礼がしたいとお願いをしたらすぐに了承して貰えた。
兵士さんたちの料理を作ったり、船のお掃除を手伝ったりする。
厨房はある意味戦場だった。
いっぱい食べる兵士さん達のために、一日中食事を作るお仕事。
毎日たくさんの具材を切り、炒めるからもうたいへんだ。
掃除も広い船内を駆け回るので、気がついたら日が暮れてしまっている。
なによりも体力が必要とされて、仕事が終わったときには体中が痛くなる。
でも、前のような蹴られた痛みとは違った。
やりきった、頑張った証の痛み。
この痛みは、ぜんぜん苦でもなんでもなかった。
「うへへへへ、やっぱりアリシアちゃんはかわいいなあ」
「すっげえいい匂いがする」
「おい、手を出すなよ。アリシアちゃんは皆のものだ」
兵士さん達はそんな私を歓迎してくれている。
戦艦リヴァイヤサンの乗員はみんな男性だ。
だから女の子である私は、とてもかわいがられている。
みんな紳士で、怖い目にあったこともない。
とても楽しい職場だった。
リヴァイヤサンは悠々と海を泳ぐ。
とても戦争中とは思えないくらい、穏やかな日常だった。
「聞いたか、捕まった反乱軍の幹部達、生きたまま焼かれたらしいぞ」
「マジかよ。おっかねえなあ、うちの皇帝は」
「虐殺皇帝クロード。血も涙もない冷酷な機械だ。ほんと、こっち側でよかったぜ」
兵士さんたちの話し声が聞こえた。
この船は平和でも、帝国はきちんと内戦中なのだ。
父は、兵士達からとても恐れられている。
反乱軍に対して容赦せず。
捕まえたものたちは例外なく処刑する悪魔。
笑いも、泣きもしない機械。
あれは人の皮を被った別のなにかだ。
そう噂されていた。
昔の父もあまり表情は変わらない人だった。
でも優しくて、私とお母さんをとっても大切にしてくれる人だった。
内戦で変わってしまったのかな、と胸が少し苦しくなる。
でも、会いたかった。
どんな風になっても、父は父だ。
私の大切な人だ。
またぎゅっと抱きしめてもらいたかった。
肝心の父への連絡に、まだ返信はない。
「すまんな。陛下も忙しいようだ」
食堂にきた艦長さんは、そう謝ってくれた。
彼のせいではないのに、律儀な人だと思った。
まだ私が皇帝陛下の娘であることは伝えていない。
言っても信じてもらえるかわからないから、一様隠しておいている。
やれることはやっている。
ならあとは、待っていればいいだけだ。
数日後。
リヴァイヤサンが戦闘をおこなった。
たくさんの砲を陸に向け、一斉に発射した。
相手は反乱軍の拠点であるらしい。
陸が燃える。
黒い煙がモクモクと空に昇っていく。
近づいてくる反乱軍の船も、一瞬で海の藻屑となっていく。
「一人も逃がすなというご命令だ。徹底的にやれ」
艦長さんはいつもより怖い顔をしながら、兵士さんたちに命令をする。
兵士さんたちも、いつもの笑顔はなく、冷徹に砲を放っていた。
一方的な虐殺。
これが戦争なのだと思った。
あそこに、父の弟はいるのだろうか。
母を殺し、父を殺そうとしたあの人は。
同情はしない。
でも、記憶に残る、弟さんの優しい笑み。
思い出すと変な気分がした。
兄弟同士で殺し合うというのは、どんな気分なのだろうか。
きっと、よくはないだろうな、と思った。
「おい!貴様ら!水の使いすぎだ!」
戦闘が終わった後。
兵士さん達が艦長さんに怒られていた。
みんながシャワーを浴びすぎて、大変らしい。
今までなかったのに、急にだ。
艦長さんはお怒りだ。
「だって~、ねえ」
「そうそう。臭いと思われたら、困るじゃないですか」
「この馬鹿どもが」
艦長さんは頭を抱える。
臭いと思われた困る?
一体誰にだろうか?
そう首を傾げていると、兵士さんたちがこちらを見ているのがわかった。
私、臭いのかな?
すこし不安になる。
ちゃんと体は洗っているから、大丈夫だと思っていたのだけど。
船医さんに相談する。
「違うよ。あいつらが気にしてるんだ。君に臭いって思われたくないって」
船医さんは笑いながら説明してくれた。
男ばかりの船に、女の子が一人。
みんな私を意識して、今まで気にもしなかった自身の体臭をとても気にしているらしい。
汚かった部屋は整理された。
身だしなみもそろえられ、みんないい匂いがする。
「あの馬鹿どもめ。なんど私が言っても言うことを聞かなかったのに。君が来た途端、このざまだ」
艦長さんは少し不服そうに言った。
そんな艦長さんも、前よりいい匂いが漂うようになってきている。
人の事を言えないのでは、艦長さん。
と心の中で思った。
「いいや俺が先だ!おねが~い!」
「はい!今行きます!」
兵士さん達の甘えた声が聞こえてくる。
私は今、船の雑用として働かせてもらっている。
帝国はどうやら人手不足のようだ。
だから救ってもらったお礼がしたいとお願いをしたらすぐに了承して貰えた。
兵士さんたちの料理を作ったり、船のお掃除を手伝ったりする。
厨房はある意味戦場だった。
いっぱい食べる兵士さん達のために、一日中食事を作るお仕事。
毎日たくさんの具材を切り、炒めるからもうたいへんだ。
掃除も広い船内を駆け回るので、気がついたら日が暮れてしまっている。
なによりも体力が必要とされて、仕事が終わったときには体中が痛くなる。
でも、前のような蹴られた痛みとは違った。
やりきった、頑張った証の痛み。
この痛みは、ぜんぜん苦でもなんでもなかった。
「うへへへへ、やっぱりアリシアちゃんはかわいいなあ」
「すっげえいい匂いがする」
「おい、手を出すなよ。アリシアちゃんは皆のものだ」
兵士さん達はそんな私を歓迎してくれている。
戦艦リヴァイヤサンの乗員はみんな男性だ。
だから女の子である私は、とてもかわいがられている。
みんな紳士で、怖い目にあったこともない。
とても楽しい職場だった。
リヴァイヤサンは悠々と海を泳ぐ。
とても戦争中とは思えないくらい、穏やかな日常だった。
「聞いたか、捕まった反乱軍の幹部達、生きたまま焼かれたらしいぞ」
「マジかよ。おっかねえなあ、うちの皇帝は」
「虐殺皇帝クロード。血も涙もない冷酷な機械だ。ほんと、こっち側でよかったぜ」
兵士さんたちの話し声が聞こえた。
この船は平和でも、帝国はきちんと内戦中なのだ。
父は、兵士達からとても恐れられている。
反乱軍に対して容赦せず。
捕まえたものたちは例外なく処刑する悪魔。
笑いも、泣きもしない機械。
あれは人の皮を被った別のなにかだ。
そう噂されていた。
昔の父もあまり表情は変わらない人だった。
でも優しくて、私とお母さんをとっても大切にしてくれる人だった。
内戦で変わってしまったのかな、と胸が少し苦しくなる。
でも、会いたかった。
どんな風になっても、父は父だ。
私の大切な人だ。
またぎゅっと抱きしめてもらいたかった。
肝心の父への連絡に、まだ返信はない。
「すまんな。陛下も忙しいようだ」
食堂にきた艦長さんは、そう謝ってくれた。
彼のせいではないのに、律儀な人だと思った。
まだ私が皇帝陛下の娘であることは伝えていない。
言っても信じてもらえるかわからないから、一様隠しておいている。
やれることはやっている。
ならあとは、待っていればいいだけだ。
数日後。
リヴァイヤサンが戦闘をおこなった。
たくさんの砲を陸に向け、一斉に発射した。
相手は反乱軍の拠点であるらしい。
陸が燃える。
黒い煙がモクモクと空に昇っていく。
近づいてくる反乱軍の船も、一瞬で海の藻屑となっていく。
「一人も逃がすなというご命令だ。徹底的にやれ」
艦長さんはいつもより怖い顔をしながら、兵士さんたちに命令をする。
兵士さんたちも、いつもの笑顔はなく、冷徹に砲を放っていた。
一方的な虐殺。
これが戦争なのだと思った。
あそこに、父の弟はいるのだろうか。
母を殺し、父を殺そうとしたあの人は。
同情はしない。
でも、記憶に残る、弟さんの優しい笑み。
思い出すと変な気分がした。
兄弟同士で殺し合うというのは、どんな気分なのだろうか。
きっと、よくはないだろうな、と思った。
「おい!貴様ら!水の使いすぎだ!」
戦闘が終わった後。
兵士さん達が艦長さんに怒られていた。
みんながシャワーを浴びすぎて、大変らしい。
今までなかったのに、急にだ。
艦長さんはお怒りだ。
「だって~、ねえ」
「そうそう。臭いと思われたら、困るじゃないですか」
「この馬鹿どもが」
艦長さんは頭を抱える。
臭いと思われた困る?
一体誰にだろうか?
そう首を傾げていると、兵士さんたちがこちらを見ているのがわかった。
私、臭いのかな?
すこし不安になる。
ちゃんと体は洗っているから、大丈夫だと思っていたのだけど。
船医さんに相談する。
「違うよ。あいつらが気にしてるんだ。君に臭いって思われたくないって」
船医さんは笑いながら説明してくれた。
男ばかりの船に、女の子が一人。
みんな私を意識して、今まで気にもしなかった自身の体臭をとても気にしているらしい。
汚かった部屋は整理された。
身だしなみもそろえられ、みんないい匂いがする。
「あの馬鹿どもめ。なんど私が言っても言うことを聞かなかったのに。君が来た途端、このざまだ」
艦長さんは少し不服そうに言った。
そんな艦長さんも、前よりいい匂いが漂うようになってきている。
人の事を言えないのでは、艦長さん。
と心の中で思った。
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