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1章 帝国編
5話
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数度目の覚醒。
今度はしっかりと目を開くことができた。
同じ天井が見える。
まだ私はベッドで寝かされているようだ。
横を見る。
すると、クマと目が合った。
クマは目を見開いて、驚いたようにこちらを見つめている。
「「・・・・・・」」」
クマはジッとこちらを見つめ、
口をパクパクとさせていた。
少し、気まずい。
この場合、どう反応するのが正解なのだろう。
ヒャアっとでも驚いた方がいいのだろうか。
と、そんな事を考えていると、
「ヒャア!生きてる!」
と叫びながらクマが椅子から転げ落ちた。
あなたのほうが、叫ぶのか。
思わず、口角が上がってきてしまう。
クマが転げ落ちた。
大きくて、強そうなクマが、子どものように。
しかも奇妙な鳴き声を出しながら。
それがおかしくてたまらなかった。
「コイツ!わ、笑うんじゃない!」
笑ってはいけないと必死に口を押さえる。
だが自然と声が出て、大きくなってきてしまう。
クマさんは起き上がりながら、恥ずかしそうに頭を掻いた。
でも、その後すぐに、安心したかのように軽く微笑えんでくれた。
どうやら、悪い人ではなさそうだ。
今は、その事だけが、救いだった。
「とりあえず、大丈夫そうだな。少し待ってろ」
クマさんは、立ち上がるとどこかに行く。
そしてすぐに手に食器をもって戻ってきた。
食器の中にはマメのスープと、漬されたパンが入っていた。
スープからは湯気が立ち、作りたてなのがわかった。
「ほら、お食べ。お腹、すいてるだろう?」
いい匂いがする。
お腹がグゥウっと鳴った。
もう、生きている理由なんてないはずなのに。
お腹だけは、ちゃんと減ってしまうようだ。
でも、私は、いらない、と首を横に振る。
死ぬつもりで、崖から身を投げて、海を漂ったのだ。
食べれば、また生き延びてしまう。
生きていれば、父の迷惑にもなってしまう。
だから、食べる気はなかった。
「お腹鳴なっとるんだろ?喰うんだ。喰わにゃ治るもんも治らんだろう」
おじさんは首を振る私に、少し困った顔をする。
スプーンでスープをすくい、私の唇の前に運んでくる。
また、いい匂いがしてきた。
スプーンを通して、スープの温かさが伝わってくる。
私のお腹は、再び元気よく鳴った。
本当に食べていいのか?とクマさんもといおじさんの顔を見つめる。
私の意思では無く、体が勝手にそう動いてしまった。
おじさんは、どうぞ、とうなずいてくれる。
恐る恐る、スープを口に運んだ。
堅く、あまり味の良くないマメの食感。
調味料を節約した、庶民御用達の薄めの味。
昔食べていたものとは比べものにならないくらい、粗末な料理。
でも、今は、そんなスープが、とてもおいしく思えるのであった。
食べるたびに、涙が溢れてくる。
暖かい食べ物なんて、久しぶりだった。
一口食べたら、もうダメだった。
無我夢中にスープを完食する。
完食をしたら、安心したせいか再び眠気が襲ってくる。
おじさんは、ゆっくりお休みと、再び毛布をかぶせてくれた。
食べてしまった。
生き延びようとしてしまった。
そんな罪悪感が私を襲ってくる。
でもそんな罪悪感も、睡魔には勝てず、私は再び眠りにつくのであった。
今度はしっかりと目を開くことができた。
同じ天井が見える。
まだ私はベッドで寝かされているようだ。
横を見る。
すると、クマと目が合った。
クマは目を見開いて、驚いたようにこちらを見つめている。
「「・・・・・・」」」
クマはジッとこちらを見つめ、
口をパクパクとさせていた。
少し、気まずい。
この場合、どう反応するのが正解なのだろう。
ヒャアっとでも驚いた方がいいのだろうか。
と、そんな事を考えていると、
「ヒャア!生きてる!」
と叫びながらクマが椅子から転げ落ちた。
あなたのほうが、叫ぶのか。
思わず、口角が上がってきてしまう。
クマが転げ落ちた。
大きくて、強そうなクマが、子どものように。
しかも奇妙な鳴き声を出しながら。
それがおかしくてたまらなかった。
「コイツ!わ、笑うんじゃない!」
笑ってはいけないと必死に口を押さえる。
だが自然と声が出て、大きくなってきてしまう。
クマさんは起き上がりながら、恥ずかしそうに頭を掻いた。
でも、その後すぐに、安心したかのように軽く微笑えんでくれた。
どうやら、悪い人ではなさそうだ。
今は、その事だけが、救いだった。
「とりあえず、大丈夫そうだな。少し待ってろ」
クマさんは、立ち上がるとどこかに行く。
そしてすぐに手に食器をもって戻ってきた。
食器の中にはマメのスープと、漬されたパンが入っていた。
スープからは湯気が立ち、作りたてなのがわかった。
「ほら、お食べ。お腹、すいてるだろう?」
いい匂いがする。
お腹がグゥウっと鳴った。
もう、生きている理由なんてないはずなのに。
お腹だけは、ちゃんと減ってしまうようだ。
でも、私は、いらない、と首を横に振る。
死ぬつもりで、崖から身を投げて、海を漂ったのだ。
食べれば、また生き延びてしまう。
生きていれば、父の迷惑にもなってしまう。
だから、食べる気はなかった。
「お腹鳴なっとるんだろ?喰うんだ。喰わにゃ治るもんも治らんだろう」
おじさんは首を振る私に、少し困った顔をする。
スプーンでスープをすくい、私の唇の前に運んでくる。
また、いい匂いがしてきた。
スプーンを通して、スープの温かさが伝わってくる。
私のお腹は、再び元気よく鳴った。
本当に食べていいのか?とクマさんもといおじさんの顔を見つめる。
私の意思では無く、体が勝手にそう動いてしまった。
おじさんは、どうぞ、とうなずいてくれる。
恐る恐る、スープを口に運んだ。
堅く、あまり味の良くないマメの食感。
調味料を節約した、庶民御用達の薄めの味。
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でも、今は、そんなスープが、とてもおいしく思えるのであった。
食べるたびに、涙が溢れてくる。
暖かい食べ物なんて、久しぶりだった。
一口食べたら、もうダメだった。
無我夢中にスープを完食する。
完食をしたら、安心したせいか再び眠気が襲ってくる。
おじさんは、ゆっくりお休みと、再び毛布をかぶせてくれた。
食べてしまった。
生き延びようとしてしまった。
そんな罪悪感が私を襲ってくる。
でもそんな罪悪感も、睡魔には勝てず、私は再び眠りにつくのであった。
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