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1章 帝国編

4話

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寒さと痛さと空腹で、目を覚ました。


「・・・・・・」


目を開けると青空が見えた。
雲一つ無い空を海鳥が悠々と泳ぎ、太陽が昇り辺りを照らしている。


自分の体がぷかぷかと浮いていることがわかった。


どうやら、私は漂流しているようだ。
大海原の上を。


顔だけ出して。


少しでも動こうとすると沈んでしまう。
それに寒くて、お腹が空いて動ける気力もなかったので、何もせずただ流されていく。



死ぬために崖から飛び降りたのに。
どうやら死ぬことはできなかったらしい。


手には、胸の大切なブローチが握られていた。


思い出すのは、母の言葉。
あの夢か現実かわからない世界での言葉。


「もう少しだけ、苦しんで、アリシア」


母の、泣きながらの言葉が反芻される。

寒くて、お腹が空いて、とても苦しい。
けれど、きっとこれも母の願いなのだろう。


あれだけの崖から落ちて、幸運にも生きている。


ただの偶然だとは思えなかった。


「・・・・・・」


ブローチを堅く握りしめる。


ならもう少しだけ苦しもう、と思った。
どうせ、助かりはしないのだ。


ならばせめて、母の言う通り、苦しんでから死のう。


そうすれば、また、頑張ったねと喜んでもらえるかも知れないから。


ボーっと空を見上げながら、そう考えた。
そして再び私は気を失うのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


何やら暖かくふわふわしたものを感じて目を覚ました。


「***!**!***!*******!」


誰かが自分の体を強く揺すってくる。
大きな声で語りかけてくる。


でも、まぶたがすごく重くて、うっすらしか目を開けられなくて。


ぼんやりとした人のようなシルエットしか、分からなかった。


再び気絶をする。
そしてまた、暖かさを感じて目を覚ました。


目を覚ますと、今度は天井が見えた。
鉄で作った骨組みが見えた。


ここは?と疑問に思い、少し横を見る。


横には、椅子に座りながら、頭を上下に振り子のように揺らしながら眠るクマがいた。


高い身長に、たっぷりと脂肪を蓄えた、巨漢の男性だ。


彼はこっくり、こっくりと鼻提灯を作りながら熟睡している。


次に自分の状況を見てみる。

最初に、母の形見のブローチをみた。
ブローチは手に握られれていた。


またどうやら自分はベッドに寝かされているようだ。


無数の毛布にくるまれて、横たわっている。
部屋は無機質で、殺風景だ。


窓一つすらない。
そして明かりだけが部屋を照らしている。


あきらかに、異常な部屋だ。
そしてこの部屋自体が少し揺れていることもわかった。


私がふらふらしているのではない。
おそらく船か何かの中なのだろう。


私の頭には包帯が巻かれている。


状況からみて、自分は助けられたのだと、分かった。


海を漂流している所を、この船に。
また生きてしまったようだ。


あのまま海を漂っていれば、死ねたというのに。


まだ、もうしばらく苦しまなくてはいけなそうだ。


痛いのはやだなあと思いながら、体も動かないため、再び眠りにつく。


もう、一生分くらいは寝ている気がした。

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