【第2部開始】すべてを奪われたので、今度は幸せになりに行こうと思います

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)

文字の大きさ
上 下
4 / 46
1章 帝国編

4話

しおりを挟む
寒さと痛さと空腹で、目を覚ました。


「・・・・・・」


目を開けると青空が見えた。
雲一つ無い空を海鳥が悠々と泳ぎ、太陽が昇り辺りを照らしている。


自分の体がぷかぷかと浮いていることがわかった。


どうやら、私は漂流しているようだ。
大海原の上を。


顔だけ出して。


少しでも動こうとすると沈んでしまう。
それに寒くて、お腹が空いて動ける気力もなかったので、何もせずただ流されていく。



死ぬために崖から飛び降りたのに。
どうやら死ぬことはできなかったらしい。


手には、胸の大切なブローチが握られていた。


思い出すのは、母の言葉。
あの夢か現実かわからない世界での言葉。


「もう少しだけ、苦しんで、アリシア」


母の、泣きながらの言葉が反芻される。

寒くて、お腹が空いて、とても苦しい。
けれど、きっとこれも母の願いなのだろう。


あれだけの崖から落ちて、幸運にも生きている。


ただの偶然だとは思えなかった。


「・・・・・・」


ブローチを堅く握りしめる。


ならもう少しだけ苦しもう、と思った。
どうせ、助かりはしないのだ。


ならばせめて、母の言う通り、苦しんでから死のう。


そうすれば、また、頑張ったねと喜んでもらえるかも知れないから。


ボーっと空を見上げながら、そう考えた。
そして再び私は気を失うのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


何やら暖かくふわふわしたものを感じて目を覚ました。


「***!**!***!*******!」


誰かが自分の体を強く揺すってくる。
大きな声で語りかけてくる。


でも、まぶたがすごく重くて、うっすらしか目を開けられなくて。


ぼんやりとした人のようなシルエットしか、分からなかった。


再び気絶をする。
そしてまた、暖かさを感じて目を覚ました。


目を覚ますと、今度は天井が見えた。
鉄で作った骨組みが見えた。


ここは?と疑問に思い、少し横を見る。


横には、椅子に座りながら、頭を上下に振り子のように揺らしながら眠るクマがいた。


高い身長に、たっぷりと脂肪を蓄えた、巨漢の男性だ。


彼はこっくり、こっくりと鼻提灯を作りながら熟睡している。


次に自分の状況を見てみる。

最初に、母の形見のブローチをみた。
ブローチは手に握られれていた。


またどうやら自分はベッドに寝かされているようだ。


無数の毛布にくるまれて、横たわっている。
部屋は無機質で、殺風景だ。


窓一つすらない。
そして明かりだけが部屋を照らしている。


あきらかに、異常な部屋だ。
そしてこの部屋自体が少し揺れていることもわかった。


私がふらふらしているのではない。
おそらく船か何かの中なのだろう。


私の頭には包帯が巻かれている。


状況からみて、自分は助けられたのだと、分かった。


海を漂流している所を、この船に。
また生きてしまったようだ。


あのまま海を漂っていれば、死ねたというのに。


まだ、もうしばらく苦しまなくてはいけなそうだ。


痛いのはやだなあと思いながら、体も動かないため、再び眠りにつく。


もう、一生分くらいは寝ている気がした。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

あなたと別れて、この子を生みました

キムラましゅろう
恋愛
約二年前、ジュリアは恋人だったクリスと別れた後、たった一人で息子のリューイを生んで育てていた。 クリスとは二度と会わないように生まれ育った王都を捨て地方でドリア屋を営んでいたジュリアだが、偶然にも最愛の息子リューイの父親であるクリスと再会してしまう。 自分にそっくりのリューイを見て、自分の息子ではないかというクリスにジュリアは言い放つ。 この子は私一人で生んだ私一人の子だと。 ジュリアとクリスの過去に何があったのか。 子は鎹となり得るのか。 完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。 ⚠️ご注意⚠️ 作者は元サヤハピエン主義です。 え?コイツと元サヤ……?と思われた方は回れ右をよろしくお願い申し上げます。 誤字脱字、最初に謝っておきます。 申し訳ございませぬ< (_"_) >ペコリ 小説家になろうさんにも時差投稿します。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

処理中です...