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5話

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「旦那さま、今夜は誰にいたしましょう」


「フレデリカちゃんだ。フレデリカちゃんに決まっている」


メイド長とポルコの声が聞こえてきた。
どうやら彼らが部屋に入ってきたらしい。


目をつむり、寝たふりをする。


どうやらこれでアリスさんの言っていた、事なのだろう。


「ああ、可愛い寝顔だなあ」


ポルコは私の隣くると止まった。
今、私のすぐ隣にいるのが、気配で分かった。


起きているとばれたらいけない。


(寝たふり、寝たふりしないと)


必死に反応をしないように。


「さあ、つれて行け」


「お待ちください、旦那さま」


「なんだ?」


「フレデリカは今日が初めてです。仕事もサボらずやっていました。もう少し生活に慣れてからの方が負担が少ないかと」


「・・・むう。それもそうだな。しばらくは服だけで我慢するとするか。隣のコイツにする。つれて行け」


「かしこまりました」


ごそごそと音がする。
そして二人が部屋から出て行き、扉が閉まる音が聞こえた。


思わず、目を開いた。


(なんだったんだろう)


ふと横をみる。
すると隣で寝ていたはずの子がいなくなっていた。
どうやら二人に連れて行かれたようだった。


「あぶなかったな」


私が空になったベットを見つめていると、アリスさんが小声で話しかけてくる。


「なんなんですか?あれ?」


「夜の抱き枕役だよ。あの豚の。選ばれちまったら、夜はあいつと一緒に寝ることになるのさ。最悪だぜ?くせえしよ」


アリスさんは笑いながら軽く言う。
だが私に取っては笑い事などではなかった。


それではまるで玩具ではないか。
ポルコを楽しせるための。


(私のこと、狙ってた)


ポルコは最初は私にする気だったようだ。
もしメイド長が止めてくらなかったら、今頃私は・・・。


考えただけで気持ち悪い。


「借金がなくなるまでの辛抱だよ。まあ、親が逃げちまったら一生あいつのものだがね。明日も早いよ。お休み」


アリスさんはそう告げると再び寝てしまった。
すぐにスウスウと寝息が聞こえてきた。


もう慣れているようだ。
ここでは、これが日常なんだ。


(お父様)


ベッドに潜りながら私は父の事を思い出す。
もう家に帰りたちという気持ちで一杯だった。


借金は膨大だ。
そして干ばつのせいで領地は大きなダメージを受けている。


復興してまともに税収がとれるようになるにはしばらくかかるだろう。


でも一刻も早く、ここから連れ帰ってほしい。
そう強く願わずにはいられないのであった。


「おい、起きろ寝ぼすけ。朝だぞ」


気がつくと朝になっていた。
アリスさんに起こしてもらう。


いつの間にか眠ってしまっていたようだ。


「昨日はお疲れさん。災難だったな」


「・・・・・・」


夜つれて行かれた子もいつの間にか返ってきていた。
一睡もできなかったのかひどい顔をしている。


アリスさんの言葉にも、まともに反応していなかった。


彼女は今日は特別休暇がもらえるそうだ。
ベットに潜り込んで眠り始めた。


(今度は、私がああなるんだ)


未来の自分の姿だと思うと胸がざわざわとざわめく。


「ほら、お前もボーっとしてんな。遅れちまうぞ」


アリスさんに急かされつつ、再び新しいメイド服に着替える。
そして朝食を取って、今日のお仕事が始まった。


仕事の内容は昨日と同じだ。
ひたすら床や窓を磨いていく。


「精が出るね、フレデリカちゃん」


しばらくするとポルコが再び私の元にやってきた。
昨日と同じように私の後ろを付きまとい、いやらしい視線を注いでくる。


「フレデリカちゃん、手を抜いたらいけないよ?」


「え?」


掃除をしているとポルコがそう指摘をしてきた。
彼が床を指さしている。


床には大きな黒いシミがあった。
私が拭いた時にはなかったシミだ。


(どうして?)


思わず首を傾げる。


「二日目から手を抜くとは、いけない子だ。私が直接指導してやろう」


「も、もうしわけございません。じ、自分でやりますので大丈夫です!」


「いいや、信用できないな」


ポルコは私の後ろに回る。
そして私の手を掴んで、こうやって拭くのだと指導をしてくる。


不必要なほど体を密着させてきていた。
彼のぽよぽよとした贅肉が、体に触れてくる。


鼻息が荒い。
とても興奮しているようだった。


(これは、わざとなんだ)


よく見ると、ポルコの手は黒にインクで汚れていた。
床についていたものと同じ汚れだ。


あの汚れも、きっとポルコがやったのだ。
私が見ていない隙に、こっそりと。


そして私のせいにして、今こうやって触れてきているのだ。


「たっぷり汗をかこうね。その方がいい匂いがするから」


ポルコがにやつきながらつげた。
意味が分からなかった。


数日後、その言葉を真意を知るまでは。
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