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私の名前はフレデリカ。
貴族の長女として産まれた女の子だ。
物心ついたときから家の生活は厳しかった。
貴族といっても辺境貴族。
いつも財政に悩まされて頭を抱える日々。
贅沢どころか普通の暮らしを保つのすら厳しいくらいだ。
中央の貴族の生活には何度も憧れたことか。
たぶん両手では数え切れないだろう。
けれど、私はそんな暮らしが嫌いではなかった。
貧しいながらも、幸せだったからだ。
父と、母と、数個下の妹と一つ屋根の上で暮らす。
苦楽をともにしながらの生活は、大変なことも多かった。
でも、しっかりとそこには幸せがあったのだ。
皆で笑いあいながら取る食事は、今でも大切な思い出だ。
私は家族を愛している。
愛している家族のためならば何でもできた。
そしてずっとこんな日が続いてくれるのだと。
そう、疑わなかった。
でも、そんな生活が一変したのは数ヶ月前。
突然の事だった。
私達の領地は干ばつに見舞われたのだ。
小麦や作物を育てる大切な時期に、雨が一切降ってくれない。
みるみると畑は干上がり、明日のゴハンにすら困るようになった。
「このままでは、領民が死んでしまうのだ。頼む。金を貸してくれ」
父は涙を流しながら、頭を下げていた。
相手は金貸しだった。
父は彼らから多額の借金をしたのだ。
領民達を助けるために。
タダでさえ生活が苦しいのに。
自分を犠牲にして。
結論から言えば、干ばつはなんとか乗り越えられた。
借りたお金で食料を買ってしのいだ。
「ありがとうございます、領主様!」
領民達は自分たちを救ってくださった父を崇めた。
まるで神様に祈るかのように。
「当然の事をしたまでです。だから、いいんです」
父は優しく微笑みながら、領民達に言った。
父はとてもかっこよかった。
自分を犠牲にしても領民を助けるという覚悟をみせた。
私も父のようになりたいと、心から思った。
これでみんな救われたのだ。
めでたしめでたし。
では終わらなかった。
借りたモノは返さなければいけない。
それがこの世界の法則だ。
当然、借りた借金は返していかなければいけない。
干ばつのせいで税収はたいして見込めない。
干ばつが終わったら、次に借金の返済が始まった。
ただせさえ苦しい家計に、借金が重くのしかかる。
家計は火の車だ。
ただでさえ少なかった夕食の量が減る。
服はボロボロのモノをだましながら使う。
それでも借金は減ってくれない。
さらにゴハンの量が減っていく。
「おい!今月分がまだじゃねえか!」
「すみません!すみません!必ず払うので、もう少し・・・」
「うるせえ!」
父が殴られる。
金貸しが連れてきた男達に。
モノが割れ、母の悲鳴が響く。
私と妹は別の部屋で、震えながらその音を聞く。
「だから言ったじゃない!やめようって!」
「今更そんなことを言うなよ!お前だって賛成してたくせに!」
借金取りが返った後。
家では両親が怒鳴り合っている。
前まであった笑顔はどこかにいってしまったようだ。
お腹が空いてグウグウと音を鳴らす。
「お姉ちゃん、お腹空いたよお」
妹が私にしがみついてきた。
でもどうしてやることもできなかった。
私だって、お腹が空いているのだ。
「お腹すいたぁ!お腹すいたよぉお!」
妹が私を揺すってくる。
やめてくれ。
私に、どうしろというのだ。
そんな時だった。
私を差し出せば借金を肩代わりしてやる、という手紙が家に届いたのは。
貴族の長女として産まれた女の子だ。
物心ついたときから家の生活は厳しかった。
貴族といっても辺境貴族。
いつも財政に悩まされて頭を抱える日々。
贅沢どころか普通の暮らしを保つのすら厳しいくらいだ。
中央の貴族の生活には何度も憧れたことか。
たぶん両手では数え切れないだろう。
けれど、私はそんな暮らしが嫌いではなかった。
貧しいながらも、幸せだったからだ。
父と、母と、数個下の妹と一つ屋根の上で暮らす。
苦楽をともにしながらの生活は、大変なことも多かった。
でも、しっかりとそこには幸せがあったのだ。
皆で笑いあいながら取る食事は、今でも大切な思い出だ。
私は家族を愛している。
愛している家族のためならば何でもできた。
そしてずっとこんな日が続いてくれるのだと。
そう、疑わなかった。
でも、そんな生活が一変したのは数ヶ月前。
突然の事だった。
私達の領地は干ばつに見舞われたのだ。
小麦や作物を育てる大切な時期に、雨が一切降ってくれない。
みるみると畑は干上がり、明日のゴハンにすら困るようになった。
「このままでは、領民が死んでしまうのだ。頼む。金を貸してくれ」
父は涙を流しながら、頭を下げていた。
相手は金貸しだった。
父は彼らから多額の借金をしたのだ。
領民達を助けるために。
タダでさえ生活が苦しいのに。
自分を犠牲にして。
結論から言えば、干ばつはなんとか乗り越えられた。
借りたお金で食料を買ってしのいだ。
「ありがとうございます、領主様!」
領民達は自分たちを救ってくださった父を崇めた。
まるで神様に祈るかのように。
「当然の事をしたまでです。だから、いいんです」
父は優しく微笑みながら、領民達に言った。
父はとてもかっこよかった。
自分を犠牲にしても領民を助けるという覚悟をみせた。
私も父のようになりたいと、心から思った。
これでみんな救われたのだ。
めでたしめでたし。
では終わらなかった。
借りたモノは返さなければいけない。
それがこの世界の法則だ。
当然、借りた借金は返していかなければいけない。
干ばつのせいで税収はたいして見込めない。
干ばつが終わったら、次に借金の返済が始まった。
ただせさえ苦しい家計に、借金が重くのしかかる。
家計は火の車だ。
ただでさえ少なかった夕食の量が減る。
服はボロボロのモノをだましながら使う。
それでも借金は減ってくれない。
さらにゴハンの量が減っていく。
「おい!今月分がまだじゃねえか!」
「すみません!すみません!必ず払うので、もう少し・・・」
「うるせえ!」
父が殴られる。
金貸しが連れてきた男達に。
モノが割れ、母の悲鳴が響く。
私と妹は別の部屋で、震えながらその音を聞く。
「だから言ったじゃない!やめようって!」
「今更そんなことを言うなよ!お前だって賛成してたくせに!」
借金取りが返った後。
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前まであった笑顔はどこかにいってしまったようだ。
お腹が空いてグウグウと音を鳴らす。
「お姉ちゃん、お腹空いたよお」
妹が私にしがみついてきた。
でもどうしてやることもできなかった。
私だって、お腹が空いているのだ。
「お腹すいたぁ!お腹すいたよぉお!」
妹が私を揺すってくる。
やめてくれ。
私に、どうしろというのだ。
そんな時だった。
私を差し出せば借金を肩代わりしてやる、という手紙が家に届いたのは。
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