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2話

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私の名前はフレデリカ。


貴族の長女として産まれた女の子だ。
物心ついたときから家の生活は厳しかった。


貴族といっても辺境貴族。


いつも財政に悩まされて頭を抱える日々。
贅沢どころか普通の暮らしを保つのすら厳しいくらいだ。


中央の貴族の生活には何度も憧れたことか。
たぶん両手では数え切れないだろう。


けれど、私はそんな暮らしが嫌いではなかった。


貧しいながらも、幸せだったからだ。


父と、母と、数個下の妹と一つ屋根の上で暮らす。
苦楽をともにしながらの生活は、大変なことも多かった。
でも、しっかりとそこには幸せがあったのだ。


皆で笑いあいながら取る食事は、今でも大切な思い出だ。
私は家族を愛している。


愛している家族のためならば何でもできた。


そしてずっとこんな日が続いてくれるのだと。
そう、疑わなかった。


でも、そんな生活が一変したのは数ヶ月前。
突然の事だった。


私達の領地は干ばつに見舞われたのだ。
小麦や作物を育てる大切な時期に、雨が一切降ってくれない。


みるみると畑は干上がり、明日のゴハンにすら困るようになった。


「このままでは、領民が死んでしまうのだ。頼む。金を貸してくれ」


父は涙を流しながら、頭を下げていた。
相手は金貸しだった。


父は彼らから多額の借金をしたのだ。
領民達を助けるために。


タダでさえ生活が苦しいのに。
自分を犠牲にして。


結論から言えば、干ばつはなんとか乗り越えられた。
借りたお金で食料を買ってしのいだ。


「ありがとうございます、領主様!」


領民達は自分たちを救ってくださった父を崇めた。
まるで神様に祈るかのように。


「当然の事をしたまでです。だから、いいんです」


父は優しく微笑みながら、領民達に言った。


父はとてもかっこよかった。
自分を犠牲にしても領民を助けるという覚悟をみせた。


私も父のようになりたいと、心から思った。
これでみんな救われたのだ。


めでたしめでたし。


では終わらなかった。


借りたモノは返さなければいけない。
それがこの世界の法則だ。


当然、借りた借金は返していかなければいけない。
干ばつのせいで税収はたいして見込めない。


干ばつが終わったら、次に借金の返済が始まった。
ただせさえ苦しい家計に、借金が重くのしかかる。


家計は火の車だ。


ただでさえ少なかった夕食の量が減る。
服はボロボロのモノをだましながら使う。


それでも借金は減ってくれない。
さらにゴハンの量が減っていく。


「おい!今月分がまだじゃねえか!」


「すみません!すみません!必ず払うので、もう少し・・・」


「うるせえ!」


父が殴られる。
金貸しが連れてきた男達に。


モノが割れ、母の悲鳴が響く。
私と妹は別の部屋で、震えながらその音を聞く。


「だから言ったじゃない!やめようって!」


「今更そんなことを言うなよ!お前だって賛成してたくせに!」


借金取りが返った後。


家では両親が怒鳴り合っている。
前まであった笑顔はどこかにいってしまったようだ。


お腹が空いてグウグウと音を鳴らす。


「お姉ちゃん、お腹空いたよお」


妹が私にしがみついてきた。
でもどうしてやることもできなかった。


私だって、お腹が空いているのだ。


「お腹すいたぁ!お腹すいたよぉお!」


妹が私を揺すってくる。
やめてくれ。


私に、どうしろというのだ。


そんな時だった。
私を差し出せば借金を肩代わりしてやる、という手紙が家に届いたのは。
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