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30話

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 拝啓、お母様へ。今、何をしていらしますか?お仕事でしょうか?家事でしょうか?それともそれ以外の何かでしょうか?お元気であるならばそれ以上は望みません。風邪を引かないように気をつけてくださいね。それと、私はこの厳しい異世界でも元気にやっています。え?私は今何をしているかって?


 そうですね。私はですね、いま、絶叫しています。


「いやあああああああああああ!シロ!シロ!速いって!速い!速いからアアアア!」


「♪」


 私はシロの背中でジェットコースターに乗った時のように叫び、しがみついていた。どうしてこうなった。それは少し時をさかのぼる。


 鞍を作ろうと決めて数日後。私は苦戦しながらも十分実用に耐えうる鞍を作ることに成功していた。もちろん1人ではアイデアも技術もマンパワーも足りないから、村のゴブリン達に手伝ってもらいながらだ。最初に私が作りたい物があるから手伝って欲しいといったときは、ええコイツまた変なことを言い始めたよと変な顔をされたけどね。


 ねえ、私信用されてるの?されてるんだよね?いや、隠し事してるからあやしくなるのは仕方がないんだけどさ。村でも大切にされているのは分かるんだけど、もう少し理解していただけるとありがたいです。はい。


 それとゴブリンAちゃんは、鞍の作成を全面的に手伝ってくれた。彼女には頼ってばかりだ。私がケガをしたときのお礼も口では言ったが、まだそれだけだ。シロの件が解決したら、絶対に大きなお返しをしたいと思う。だからそれまで待っててね。


 そんな過程を得て完成した鞍を私は、シロの元に持っていって彼にお座りをして貰いながら背中に付けた。シロは初めてみる鞍に、なに?なに?と興味いっぱいのようだった。うん、付けてみたところは問題はない、かな。シロが鞍をつけ嫌がる素振りをみせたらすぐはずそうと思っていたが、彼は特に気にしていないようで、元気よく私に顔をこすりつけてくる。サイズも問題なさそうだ。よし、さっそく乗ってみよう。


 私はシロの上にのった。鞍があるおかげで前に直接シロの上に乗った時と比べて安定感が全く違うことがすぐ分かった。おお、これいいな。シロのふわふわの毛を感じられないのは少し残念だけど、それ以外はすべて上だ。私は、前回のように落ちないように、ぐっと手綱を強く握る。そして


「シロ、走って」


 と言った。


 シロは私の言葉を聞くと嬉しそうに鳴きながら走り始め少しずつ加速をし始める。鞍がないときは、この一瞬で落ちてしまっていたが、今は全然へっちゃらだ。いいよ、うまくいってる。シロはどんどん速度を上げながら、森の中を走って行く。


 シロの速度はとても速かった。ゴブリンの全力疾走の十数倍はあるだろうか?しかもその速度は長時間維持しながら、悪い地形もへっちゃらのようだ。鞍と私という重いものを背負っているにも関わらず、シロはへっちゃらと言う顔で楽しそうに走る。


 景色がドンドンと流れていく。前世で車にのっていたときみたいだ。これ、想像以上にすごいかもしれない。みんなが徒歩で移動しているときに1人だけバイクに乗っているようなモノだ。機動力が全然ちがう。それに私がカゴでも背負えばたくさん荷物も運ぶことができるだろう。積載量も段違いだ。この村の生活を、大きく変えてくれる可能性を秘めているのを感じる。


「すごい!すごいよ、シロ!」


「♪」


 私は思わず興奮し、シロの上ではしゃぐ。シロはそんな私をみて嬉しそうに鳴き、さらに速度を上げていく。まだまだ見てて、僕こんなことも出来るんだよと私に見せつけるように。そして思いっきりジャンプした。大きな岩を。


「へ?ぎえええええええ」


 いきなりのシロの行動に私は驚き思わず悲鳴をあげた。体がふわりと宙に浮く。シ、シロ!?ちょっと、ちょっと待って!そろそろしがみついてるのが大変になってくるから!こんな速度のシロの上から落ちたら、私一発でKOだから!だから、シロ、少し落ち着いて・・・。


「♪」


 あ、やばいですね、これは。シロはさらに速度を上げていく。私にもっと喜んで貰いたいという風に。待て待て待って、シロ!これ以上はまずいいから。まずいからぁああ!


 それで冒頭の叫びへと繋がります。体感はまさに安全バーのないジェットコースターそのものだ。シロの全力に、私の方が耐えられない。


 それからしばらくの間、私は必死にシロの背中にしがみついているので精一杯だった。シロが走ることに満足し、止まった頃には私はもうヘロヘロでそのまま地面へと倒れ込む。そんな私に、シロはかまってかまってと顔を押しつけ、顔を舐めてきた。うわっぷ。


 シロ、元気だねえ。私は今日は、もう動けそうにないよ。これ明日ぜったい腕が筋肉痛でひどいことになっていると思う。でも成果は十分だった。ありがとうね、シロ。大好きだよ。
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