泣き虫悪女さんの事情

冬愛Labo

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轟ルート3

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今日もバイトに勤しむ日だ。遅番だけど少し早めに向かおうとバイト先に向かうと、周りの雰囲気がおかしい事に気づいた。
「轟、どうしました?」
「んーと、笹枝。その、貴女のお姉さんがここに来てご飯を食べていったんだけど、妹は氷の女王って言われて嫌われてるけど、皆さんは仲良くしてくださいって」
「ねえ、さ、ま…」
「あの、氷の女王って聞いたことあるんだけど、それって笹枝の事だったの?」
「それは…」
私の事だとは言えず黙っていると、轟は頭を撫でて耳元で呟く。
「私はどんな笹枝でも嫌わないよ」
「本当?」
「うん、笹枝は笹枝だもん。お姉さんにもね、心配ご無用ですって笑って言ってやったから」
「私、嫌われるかと…ふぇ、ひく、おもって、ぐすっ」
「大丈夫、大丈夫。私は貴女のこと好きだから。どんなこと言われても嫌わないよ」
「轟!!」
「少し休んでおいで、それから仕事をしよう?」
「うん、有難うございます」
私は初めて味方が出来た気がした。轟に嫌われる事を怯えて生きてきた。だけど、それが今日晴れたのだ。心がすっとした。
「轟有難うございます」
「当然じゃない!」
轟の言葉に本当にホッとした。私はここにいてもいいのだと思った。
「仕事終わったら、今日うちに来る?」
「え?いいのですか?」
「もちろん良いよ」
「嬉しいですっ!私仕事頑張ります」
「あははは、元気になって良かった」
私は仕事に戻ります、いつも以上に働いた。店長も気にしなくていいよと言ってくれた。
「ここは、訳ありさん多いから」
そんなふうに言って微笑んでくれた。訳ありとはどう言う事だろうか?
「上の空?」
「と、轟!?えっと、家に招待してもらえるのが嬉しくて」
「そっか、そろそろ上がるから準備しておいてね」
「はいです!」
私は元気よく返事をすると、ラストオーダーをさばいて閉店の準備をする。全ての準備が終わり、着替えると轟が待っていた。
「こっちよ」
「バイクです?」
「そうそう、私バイクの免許持ってるから」
「素敵です!」
「ヘルメットあるから付けて乗ってね」
「はい!」
私はヘルメットを被り、バイクに跨って轟の腰に手を伸ばす。
「っ!!バイクはまずったかしら」
「轟、どうしました?」
「ううん、何にもない」
轟の耳が少しだけ赤くなっている気がしたが、夏の暑さでなったのだろかと思い考えを止める。
「さぁ、いくわよ、しっかり捕まっててね」
「はい、振り落とされない様に頑張ります」
「笹枝、そんな怖いこと言わないでよ」
私達は笑いながら、バイクを走らせる。バイクは早く風を切って速かった。時折落ちそうになるけれど、慣れてきたらカーブの時に一緒に体を傾けることもできた。20分しただろうか?一軒家にバイクが停まると轟が声をかける。
「ここがウチ」
「ここが轟の家」
「ボロ屋でごめんね」
「いえ、そんな事ないです。すごく素敵な家です」
「そう言ってくれて有難う」
私はバイクから降りて家の前で待つと、轟がバイクを置いて戻ってきた。玄関のドアを開けた時、小さい子が急に走ってくる。
「お兄ちゃん、お帰り~!!」
「瑠衣ただいま」
(ん?お兄ちゃん?お兄さん??)
私の頭は混乱した。私の知ってる轟は確か女の子の筈。1つ上の女の子ではなかったか?
「あの、轟」
「ん?なーに?」
「轟って、もしかして、男性です?」
「あー、うんそうだよ」
「え、え、えええええ!?」
「もしかして、女性だと思ってた?」
「女性にしか見えませんよ!だって轟は細くて綺麗で可愛くて」
「有難う!嬉しい事を言ってくれる笹枝には料理を奮発しよう」
「ええ!?どういう事ですか!?」
「まぁ、ここではなんだから、部屋に入って話そうか」
「は、はい」
私は頷きながら部屋の奥に入りリビングに行くと轟と妹さんが手招きをしてくれた。
「こっちだよ。お姉ちゃん」
「有難う。妹さんは中学生ですか?」
「うん、ウチ両親が居ないから、お兄ちゃんが働いて私が家の事してるの」
「っ!もしかして、給料日に誘って断られたのは」
「それはな…まぁ、そういうことよ」
轟は妹さんが待っている為断っていたのだと知って私は力が抜けた。私の事が嫌いなわけじゃないんだ。
「いつも断ってごめんね」
「いいのです。轟にも事情があると分かったのですから」
「私さ両親が居ないから叔父さんの店で女装して働いてたのよ」
「そうだったんですか…。理由も知らずにすいません」
「いや、そろそろ言わないとって思って」
「なんでですか?」
「笹枝、私が居なくなったら泣いちゃうかなって思って」
「居なくなる?なんで、です?」
「今の所のバイトと別の場所を掛け持ちしてたんだけど、もう一つのところで就職が決まったのよ。だから、早めに働き出さないといけなくて」
「就職決まったのですか!?」
「そうなの。だから、笹枝の事が心配で今日話そうと思って呼んだの」
「そんな!喜ばしい事じゃないですか!泣いたりしませんよ。泣いたり、ふぇ…しま、せん」
「あらあら、だから、泣くと思ったのよ」
「だって」
「と言うわけで、大いに泣きなさい。そしてご飯を食べるわよ」
「ふぇええええ~。えぐっ」
「よしよしっ」
私はこれでもかと言う程泣き散らかした。その間妹さんと轟は優しく慰めてくれた。
「泣き止んだ?じゃあご飯食べましょうか?」
「あの、轟はいつもその喋り方です?」
「ううん、違うわよ」
「じゃあ、普通の喋り方が聞きたいです」
轟は苦笑いをして、咳をすると喋り始めた。
「俺は声はこっちが本当だよ」
「っ!!」
いつもと違って低い声の音に私は心臓が高鳴った。もしかしたら轟にも聞こえたかも知らないそう思うほどの大きさだった。
「変でしょ?いつもの轟じゃないから」
「そんな事無いです!とても素敵な声です!」
「じゃあ、なんで逃げるの?」
「えっと、あの、その。ふぇぇえ」
「ええ!?そこで泣く!?」
「ご、御免なさい。怖いとかではなくて自分に混乱してて」
「…やばいね。まえから思ってたけど笹枝って、いじめたくなる」
「え?」
「ねぇ、笹枝。髪触っていい?」
「か、髪ですか?いいですけど」
「有難う。髪が腰まであって綺麗だよね」
「そ、そんな事無いです。あの、轟」
「なに?」
「どうして、そんなに近づいてくるのですか?ち、近いです」
「そう?近く無いと思うけど?俺はもっと近寄りたい」
「ちちちち、!?」
「近寄りたいよ。俺はもっと笹枝のことを知りたい」
「もう殆ど知ってますよ。あの、私の事を知らない所、少ないです」
「まだあると思うと知りたい。ねぇ、知りたい、痛くっ」
「ふぇえ!?」
私が戸惑っているとお玉で轟の頭を叩いたのは妹さんだった。
「お兄ちゃん、もうお姉ちゃんをいじめちゃダメ」
「いじめてないよ。ただ、俺の愛を伝えようとしただけだよ」
「どう考えても伝わってないじゃ無い。お兄ちゃんてば、ちゃんと告白したの?」
「いつも言ってるよ。好きだって。なぁ笹枝」
「え!?好きって友達の好きではなくて?」
「男女の好きなら彼氏彼女だろ?」
「で、でも轟のこと今まで女性と思ってましたよ」
「女性であっても俺は笹枝が好きだったよ。そういう意味でいつも言っていたけど?」
「…えええええ!?」
「ははっ、大きなな声。今日は悪いこと出来ないから普通に飯食うか」
「わ、わわるいこと?」
「そそ、愛の営みとも言う」
「ええ!?」
「冗談だよ。少しは手を出すけど、そんなにしないから安心して」
「はわわわ」
「可愛いね、笹枝」
「な、何故か大人の雰囲気が出てます」
「ふふ、そうだろ?じゃあ、取り敢えず飯食うか」
私は何度も縦に頭を振ると轟は笑いながらご飯を撮りに行った。いつもと違う轟に私は戸惑うばかりだった。
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