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第1章 異種族交流編

28. 下剋上宣言

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 俺とタケシは、この世であり得ない光景を目にしたのかもしれない。
 なんせ最低クラスであるD組に所属することになったのだ。おかしい、これは絶対におかしい。実技ならば兎も角、今でも試験問題ならば9割くらい覚えている。初歩的なミスなんてあり得ない。

「に、兄様…」

 アルナの言葉にハッとする。
 俺達だけの問題じゃない、今日は折角来てもらったというのに落胆の声が俺の耳に届いた。

「気を落とさないでください、不合格になるよりかは…」
「あ…あぁ、すまない、アルナ…」

 慰めの言葉を掛けてくれたアルナ。
 しかしどうしたものか…家族になんて報告すれば…。



「ハハハッ!やっぱり口先だけの男だったな!!」
「ホントホント!私だったら恥ずかしくて逃げたいくらいね!」

 広場に突然大声で笑い声が響き渡る。
 振り返ると、そこに居たのはやはりムーダーとレシアだった。周りにはお構いなしに俺らの成績を見て笑っている。

 因みに二人は―――

 ムーダー・イバール A組
 レシア・マーダラ  A組  と、Aクラスへの合格が確定している。すぐに言い返したくなる気持ちをグッと堪える。ここで何かを叫んだとしても意味がない、結果が全てだと返されるのがと解っているからだ。

「お前らか…」
「オイオイ、底辺ヤローが何ため口開いているんだ?偉大なる俺達Aクラスに、それより勇者候補である俺様に失礼とは思わねぇか?土下座しながら喋ろよ」

 相変わらず、どこに行っても俺様ルールを敷いてくるムーダー。しかし、国中が既にこいつを"勇者"と認めているせいなのか、誰も文句を言う者がいない。その場にいた上級生や教師も、その場を見つめているだけであった。

「…生憎だが、死んでもお前らだけには頭を下げたくないな」
「なんだとぉ!?」
「それに、試験前じゃ二人とも女帝様にヘコヘコして媚び売りそうな態度だったくせに」
「テメェ、それ以上言ってみろ!お前ら弱小商会がどうなってもいいってのか!?」
「おや?ヘコヘコしたのは認めるのか?」

 ぐぬぬ…とムーダー睨まれるが、俺は軽く無視する。

「ムーダー、底辺魔術師如きに相手にする必要はございません。この結果でエバーライフ商会の信用はガタ落ち。いずれにしても、国から追い出されるのは明白よ」

 レシアの言う通りだ。
 Dクラスの合格となってしまった以上、勘当されるのは時間の問題だと言っていい。まさか、ここにきてフラグがやってきてしまうとはな…。

「そうだったな!所詮は路肩の石…いやゴミだったな。俺達はお前らなんかを相手にしてる暇なんかないわ。ってかこの帝国の未来の為にAクラス以外が恥ずかしいぜ。寧ろA以外落ちた方が良くね?」

 コイツら…!本気で言いたいことを遠慮なしで…!
 標的を俺達だけならば兎も角、BとCも必要ないと宣言しやがった。こんな奴を勇者として採用した国、本当に大丈夫なのか?

「いい加減にしなさい」

 ピシッと氷が張りそうな声、その正体はクレアだった。突然の大物登場に、全員が驚く。因みに彼女もAクラスに合格と書いてある。

「ムーダー・イバール、レシア・マーダラ…二人とも、公共の場で何をしているの?」
「女帝様…!」
「試験前にも言った通り、高等魔術学園の生徒は皆平等よ。例えどのクラスに属していようと、誰でも教育を受ける権利はあるし、受ければそこで才能を開花する者も現れる。王家が真っ先に賛同する運動に"反対"を申すと?」
「お言葉ですが陛下…その可能性は限りなく低いかと。王家の運動に反対はしませんが、俺達は"成果"に不満があるのです」
「ムーダーの仰る通りです。真に優秀な者は常に上位…実力主義の当学園では"才能"が全てではありませんか?」

 ここで初めて女帝様相手に異議を唱える二人。確かに、的は得ている。
 ブルーローズ帝国の王家では、平民でも優秀な人材であれば即採用を受け入れている。しかし、そのような人材はここ数十年学園では見当たらないのが事実であった。

「王家では、私のような選ばれた者よりも…いつ現れるか分からない"努力"で成り上がった者を受け入れると?」
「王家はそう信じています。それ以上好き勝手に言うならば、あなた方の今後について検討する必要がありそうね。下手をすれば、この状況を含め父に報告し、採用を見直すかもしれませんので」

 うぐっ…と二人は不味そうな顔をした。折角手に入れた地位をふいにしたくない魂胆が丸見えである。それからあの時の同じく、気に入らない顔で会場を後にしたのだった。そしてクレアは、こちらを見てきた。

「貴方がたを助けたわけではありません。この場を鎮めただけなので、そこは勘違いしないように」

 王家の者として当然の事をしたまでと言わんばかりの言葉を掛ける。

「それにしても信じられないわ、貴方がDクラスなんて。しかし…彼らが言った通り、この世界は結果が全て。いくら成績が良かったと思っても、教師たちがどんな考えであっても文句は言えません」
「!」

 例え何があっても結果が全て…その言葉が心に深く突き刺さったように感じた。本当にそうなのだろうか?厳正で公平な判断なんかなく…ただ出自だけで選ばれている"差別"ではないだろうか?

「…。」
「それに、Dクラスに属するのは恥なのは確かよ?学園でもギリギリの合格ライン、辛うじて"魔術を学ぶ権利と才"があるだけ。途中でついていけず、中退していった者も少なくないわ。卒業までの3年間で、クラスの半分まで減ったというのも珍しくない。そこから飛び級など成りあがった者はいない。変なプライドを持たず、ここで自主退学した方が賢明よ」


 次の瞬間、俯いていた俺の心に火が着いた。
 ドカァァン!!と掲示板の一部を、裏拳で破壊する。

「なっ!?」

 これにはクレアも驚いていた。そして―――


「なめるんじゃねぇ!俺は逃げないぞ!!」


 その場にいた全員が、一人の男に目線を集中させた。

「受けてやる!もし一生Dクラスと馬鹿にされようが、意地でもこの学園でAクラスよりも凄い魔術師になってやるんだから別に構わない!―――怖くなんかねぇよ!!」

 俺はそう言って彼女を睨み付ける。
 そうだ、そんな考えは間違っている!もし誰も成り上がらないのならば、俺がなってやる!もし学園で成り上がることを証明できれば、俺の考えに賛同してくれる生徒が少なからず出てくるはずだ。

「オルタ…」
「兄様…」

 女帝相手に一歩も譲らない姿勢に、全員が唖然としていた。

「貴方、名前は?」


「オルタ・クリムゾン…これから誰よりも強くなる魔術使いだ!」


―――――――――――――――――――――

その後…。

「はい、次の方」

 騒動の後、受付のお姉さんに受験票と市民証を見せる。

「はい、確認しま……あら?貴方、さっき広場で女帝様に怒鳴ってた子?」

「…そうです」

「ふーん、貴方ホントに度胸あるね。それでは、これが教科書です。リストも同封してありますから、確認してもし抜けがあればすぐに言って下さい。制服はこれで、事前に告知しているのでサイズはピッタリの筈です。もし一部でもサイズが合わなければ必ず言って下さい」

 お姉さんの説明を聞いて、制服と教科書を受け取る。これがこれから着る制服か…生前の世界とは一味も二味も違う種類だから、自然とウキウキしそうだ。さて、帰ったらどう報告しようかと思っていると――

「おお、帰って来たか!」

 玄関フロアに、父上と…誰かいる。ダンディな男性のように見えるが、ノーマンさんの知り合いか?そんな事を考えていると、両脇に居た二人が震え上がる。

「「こ…こ…」」

「こ?」

「「国王様!?!?」」
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