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219 純白の霊廟——ふたたび
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導かれるように——誘われるようにしてたどり着いた霊廟は、以前訪れた時と同じように、静寂に包まれていた。
静けさから生まれ、静けさへと還っていく場所。
ここはいつ訪れても、そんな”無”の場所だ。
百白石の白さ。冷たさ。美しく咲き誇る純白の花々。
そして、今も美しくあり続けるティエンの姿……。
玻璃の棺の中の彼は、本当に、ただ眠っているだけのように見える。
寄り添い合って眠った夜、白羽はいつもずっと彼の寝顔を見つめていた。騏驥は人に比べて眠りが少なくて済む。だから夜、彼の寝息を聞きながら、白羽はずっとずっとティエンの貌を見つめていた。
彼が幸せであるように——ずっと彼と一緒にいられるようにと願いながら。昼間は恥ずかしくてなかなかまともに見つめていられないその貌を、この時だけは、と。
深夜、彼が悪夢を見ていると思しき時はさりげなく起こし、朝、彼が起きる気配を見せた時は眠ったふりをした。
ティエンは白羽のそんな行為に気づいていたようだけれど、彼に咎められることはなかった。
優しかった人。
——儚かった人。
この上なく大切にしてくれて、けれど一瞬たりとも白羽の騎士ではなかった人。
(わたしが騏驥でなければ……)
あなたを苦しめることもなかったのでしょうか……?
白羽は、柩の中のティエンを見つめながら胸の中で呟く。
彼は、白羽が騏驥になっても変わらず愛してくれていた。それまで同様に優しく、大切にしてくれていた。その気持ちを疑ったことは一度もない。
けれど——多分。
慈しんでくれていながら、同時に、彼にとって騏驥は畏れる対象でもあったのだ。
いつからか、ほんの僅かではあったけれど——彼は白羽を見るたび苦しげな貌を見せることがあったから。
彼の美しい手は、騏驥を鞭打ち、走らせることにあまりに不向きだった。
死の間際の彼の言葉が脳裏に蘇る。
『わたしはわたしの寂しさをわずかに減らすためだけに、お前に人生を無駄にさせてしまった……。騏驥になる前も……なってからも……』
あの時も今も、ティエンの側にいたことが無駄だとは思わない。毛ほども。
けれどあの時と違い、今は、彼がどうしてあんなことを言ったのかは、わかるようになった。
騏驥になど、なりたくてなったわけではないけれど——けれどそれでも。騏驥にとってのなによりの望みは、騎士と共に駆けることなのだと知ってしまった今は。
(……ティエンさま……)
亡き王を見つめる白羽の視界が滲む。
(荒野で見たあの夢は、本当に夢だったのですか?)
死してのちも自分を護ってくれている人。今もなお、その気配は残り香のように自分を包んでくれている。
再び彼に会えるなら悪夢であっても構わないとさえ思っている——けれど。
(けれど……わたしは……)
レイゾンと共にいたいと思っている。彼の騏驥として。
それは、ティエンを裏切ることなのだろうか。
もし彼がそれを望んでいないとしたら——あの夢はその密かな報せなのだとしたら自分は……。
(ティエンさま……)
白羽は胸の中で繰り返し亡き王の名を呼ぶ。
呼び続ければ、再び目を開けるかもしれないと——そう思っているかのように。
直接会ってみればどうか、とヨウファンは言っていた。
白羽もそう思った。だからここへ来た。再び。
けれどここへ来て思うのは、もうここへは来られないということだ。
自分はレイゾンを選んだ。騏驥として彼を。
そんな想いを抱いたまま、どうしてティエンの側に居られるものか。
なのに離れ難い。
立ち去り難い。
ここへきて分かったのは、自分が不実だという事実だ。
いつまでも自分の気持ちに整理をつけられず、一人で悩んで……。
けれどそれほどに、ティエンとの縁が深かったこともまた事実なのだ。
騎士と騏驥ではなかったけれど。
(忘れられるわけがない……)
忘れたくない。
白羽が改めて強く、そう——思ってしまったとき。
「——白羽」
レイゾンの声がした。
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