前王の白き未亡人【本編完結】

有泉

文字の大きさ
上 下
222 / 239

217 決着の後

しおりを挟む



 護衛の任務を受けて王都をあとにする前、レイゾンは自分がこの後に騎士の任を解かれそうだと感じ、残されるユゥのため、彼のその後について「できたら力になってやってほしい」と、方々に頭を下げていた。
 すると、そんなレイゾンの様子を不審に思った騎士たちが密かに騎士会に嘆願していたようなのだ。
「もしレイゾンが不当な理由で騎士の任を解かれるようならば、騎士会として何とかしてやってもらえないだろうか」と。

(そんなことが……)

 レイゾンは思わず足を止める。驚かずにはいられなかった。
 確かに、ごくごく僅かな知り合いの騎士や教官には、ユゥのことを頼んでいた。
 けれど、そのときは騎士の任を解かれるかもしれないということは伏せていたはずだ。
『騎士として遠征に出る以上、なにがあるかわからないから』と——そういう理由で頼んでいたはずなのに。
 なのに気にしてくれていたというのか。

 絶句するレイゾンに対して、卿は続ける。

「当初は、そんな訴えがあるとは思わず驚いた。それに、騎士の任が解かれるなど、よほどのことだ。そんなことが本当に起こるのかどうか疑わしかった。貴殿が色々なしきたりに不慣れな身とはいえ、さすがにそれほどの大事を起こすことはないだろうと思っていたからな。だから最初は馬鹿馬鹿しい話だと思って取り合わずにいた。ただ……そんな風に他の騎士が庇いたくなるような騎士である貴殿に興味がわいた」

「…………」

「そんなことがあって——昨日のことだ。再び騎士の一部から訴えがあり、さらには調教師や——おそらく騏驥からもそういう声があった。決して数は多くないし表立ってのものではなかったが……」

「!」

 手紙でやり取りをした騎士たちだろうか。
 だが彼らを巻き込まないようにしたつもりだった。
 それなのに……。

 しかも、調教師や騏驥?
 
 すぐに言葉が出ないレイゾンが可笑しいのか、マルモア卿は愉快そうだ。
 だがその貌に裏や含みは感じられない。優しい笑みだ。

「調教師も、わざわざ騎士庭にやってきた。貴殿がいなくなると困るようだな。しかもよくよく話を聞けば、どうやらそれは騏驥たちの想いでもあるという。——慕われているな、貴殿は。基本、騏驥は騎士を嫌っているというのに、まさか『いなくならないでほしい』という声が上がるとは。……調教の腕もいいらしいが、騏驥といい関係なのだな」

 そして卿は、面白がるように小さく肩を竦めて見せると、ふっと柔らかなまなざしでレイゾンを見た。

「貴殿は騎士としては異端ゆえ、騎士同士ではまだまだ風当たりの強さを感じることもあるだろう。が、騏驥との仲が良好なら気に病むことはない。騎士として正しい道を行っているということだ。これからも同じようにしていればいい」

 そしてぽんぽん、とレイゾンの腕を叩くと、笑みを深める。
 初めて聞く話の数々に、その思ってもいなかった内容に、レイゾンは感激のあまりぎこちなく頷くことしかできなかった。

 避けられていると思っていた。自分は他の騎士とは違う立場で、しかもそれを引け目に感じ、だから逆に強がって周りを見返してやろうとばかりしていたから。
 それでも何とか約束を取り付けて会いに行ったのは、自分がいなくなった後のため。文を出したのだって、半ばは無理だろうと思いながらも、それでもやれることはすべてやりたいという思いからだった。
 せめて迷惑をかけることだけはないようにと、それだけを願いながら。

 なのに……。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...