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217 決着の後
しおりを挟む護衛の任務を受けて王都をあとにする前、レイゾンは自分がこの後に騎士の任を解かれそうだと感じ、残されるユゥのため、彼のその後について「できたら力になってやってほしい」と、方々に頭を下げていた。
すると、そんなレイゾンの様子を不審に思った騎士たちが密かに騎士会に嘆願していたようなのだ。
「もしレイゾンが不当な理由で騎士の任を解かれるようならば、騎士会として何とかしてやってもらえないだろうか」と。
(そんなことが……)
レイゾンは思わず足を止める。驚かずにはいられなかった。
確かに、ごくごく僅かな知り合いの騎士や教官には、ユゥのことを頼んでいた。
けれど、そのときは騎士の任を解かれるかもしれないということは伏せていたはずだ。
『騎士として遠征に出る以上、なにがあるかわからないから』と——そういう理由で頼んでいたはずなのに。
なのに気にしてくれていたというのか。
絶句するレイゾンに対して、卿は続ける。
「当初は、そんな訴えがあるとは思わず驚いた。それに、騎士の任が解かれるなど、よほどのことだ。そんなことが本当に起こるのかどうか疑わしかった。貴殿が色々なしきたりに不慣れな身とはいえ、さすがにそれほどの大事を起こすことはないだろうと思っていたからな。だから最初は馬鹿馬鹿しい話だと思って取り合わずにいた。ただ……そんな風に他の騎士が庇いたくなるような騎士である貴殿に興味がわいた」
「…………」
「そんなことがあって——昨日のことだ。再び騎士の一部から訴えがあり、さらには調教師や——おそらく騏驥からもそういう声があった。決して数は多くないし表立ってのものではなかったが……」
「!」
手紙でやり取りをした騎士たちだろうか。
だが彼らを巻き込まないようにしたつもりだった。
それなのに……。
しかも、調教師や騏驥?
すぐに言葉が出ないレイゾンが可笑しいのか、マルモア卿は愉快そうだ。
だがその貌に裏や含みは感じられない。優しい笑みだ。
「調教師も、わざわざ騎士庭にやってきた。貴殿がいなくなると困るようだな。しかもよくよく話を聞けば、どうやらそれは騏驥たちの想いでもあるという。——慕われているな、貴殿は。基本、騏驥は騎士を嫌っているというのに、まさか『いなくならないでほしい』という声が上がるとは。……調教の腕もいいらしいが、騏驥といい関係なのだな」
そして卿は、面白がるように小さく肩を竦めて見せると、ふっと柔らかなまなざしでレイゾンを見た。
「貴殿は騎士としては異端ゆえ、騎士同士ではまだまだ風当たりの強さを感じることもあるだろう。が、騏驥との仲が良好なら気に病むことはない。騎士として正しい道を行っているということだ。これからも同じようにしていればいい」
そしてぽんぽん、とレイゾンの腕を叩くと、笑みを深める。
初めて聞く話の数々に、その思ってもいなかった内容に、レイゾンは感激のあまりぎこちなく頷くことしかできなかった。
避けられていると思っていた。自分は他の騎士とは違う立場で、しかもそれを引け目に感じ、だから逆に強がって周りを見返してやろうとばかりしていたから。
それでも何とか約束を取り付けて会いに行ったのは、自分がいなくなった後のため。文を出したのだって、半ばは無理だろうと思いながらも、それでもやれることはすべてやりたいという思いからだった。
せめて迷惑をかけることだけはないようにと、それだけを願いながら。
なのに……。
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