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214 騎士の策(4)
しおりを挟むなにしろ、殿下はあの場にいた。
だから、王は意図していなかったにせよ、騎士が立ち会っていたことになってしまうのだ。
「立ち会いの騎士はいなかった」ことを理由に王命を覆させるには、殿下に話を通しておかなければならない。
嘘をついてもらわなければならない……とまではいかないにせよ、事実を曲げるための協力を得なければならないのだ。さらにいえば、あの日、部屋にいた女官たちの口止めも必要になってくる。
そこまで頼めるだろうか……。
殿下にとって王は親なのだ。
レイゾンは悩んだ。
文を出すことも憚られ、どうしようかと思っていたのだが、そんなレイゾンの窮状を、殿下はどこからか聞きつけたらしい。
ツェンリェンを通じてただ一言、
『思えようにすればいい』
とだけ伝えられ、レイゾンは今日ここに至ったのだった。
◇
レイゾンは黙ったまま王を見つめる。
(どう出る……?)
実のところ、レイゾンもこれで完全に勝ったと思っているわけではない。
「下賜したというなら見届け人の騎士を出してみろ」——と、畏れ多くも恐れ多くも王に言い放ってしまったレイゾンだが(多分もっと柔らかく言ったつもりだが)、昔はともかく、現在では実際のところ、それは絶対に用意されなければならないものでもないのだ。
正式な手続き上は必要になるが、簡略化された結果。見届け人などいないまま下賜されることもままある。——らしい。
要は、王と二人だけの時に物や騏驥をねだる不届き者が出ることを制するための仕組みだから、城に置いておきたくない騏驥をなにも知らない騎士に下げ渡したような今回のような場合は、見届け人がいなくても下賜が成り立つといえば成り立つのだ。
とはいえ——。それは「正しくない」方法であることに変わりはない。
正式な手続きを経ていない以上、王の言い分は通らなくなってしまうはず……なのだが。
だが相変わらず王は黙ったままだ。
無言のままきつく奥歯を噛み締め、憤怒の表情でレイゾンを睨んでくるままだ。
(……どう……する……?)
もしかして、これでは、ヨウファンが言っていた最悪の事態になりかねないのではないだろうか。
レイゾンは不安になってくる。
ここで何か一言言って、上手く相手に譲れれば良いのだが、何をどう言えば良いのかわからない。
下手に喋ればなおさら拗れそうだ。
レイゾンは、堂々とした落ち着いた態度をなんとか崩さないようにしているものの、内心では「どうすればいいのだろう……」と、困り始める。
その時、
「……誰の入れ知恵だ……?」
王が唸るような声音で言った。低く、昏く響く声。
思いがけない言葉に、レイゾンは一瞬戸惑った。
「誰の入れ知恵だ!?」
そんなレイゾンに王は一層声を荒らげると、ズイと詰め寄ってくる。
「お前だけで考えたことではあるまい!? お前のような物知らずの異端が思いついたことではあるまい!? かように我を侮った真似を企んだのは誰だ!! 言え! 誰だ!!!」
そして部屋中に響くかと思われるような声でレイゾンを罵ると、誰だ誰だと繰り返す。
挙句には「こいつか」「あいつか」と、あれこれと名前を挙げ始める。怒っているというより錯乱しているのではと思えるほどだ。
レイゾンは当惑するしかなかった。
なんとか宥めたいものの、どうすればいいのかわからない。
わかるのは、このままではまずい、ということだ。
このままでは、レイゾンのことも白羽のことも有耶無耶になってしまいかねない。
この場で全てを終わらせなければ——この場で、レイゾンは騎士のままで白羽を側に置き続けられるという言質を取るかそれと同じくらいの確証を得られなければ、すでに発せられてしまっている王命を覆すことは難しくなってしまう。
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