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210 騎士と騎士
しおりを挟む「レイゾン殿とその騏驥によって魔獣が退治された、と……。なぜあの辺りに魔獣が出現したかについては、騎士と騏驥を派遣してさらに調査が必要と思われますが、街に被害がなくて何よりでございました。魔術師もレイゾン殿と騏驥がいて大変に助かったと申しておりますな」
そして手紙は再び王の前に戻る。
が、王の表情は硬いままだ。頰が引き攣っている。
レイゾンを睨むと、憤りを滲ませた声音で言う。
「だがお前は、わたしが下賜したものを返すと言ったのだぞ!? これは逆心を疑われても致し方のないほどの無礼。にも関わらず騎士であり続け、あまつさえ騏驥を手放さぬと言うか!?」
「下賜されておりません」
レイゾンは、激昂する王にも動じず、はっきり言った。
部屋の空気が張り詰めたのがわかる。
足が震える。
王に向けてこれほどの言葉を口にしたことはない。
王の顔が歪む。しかしレイゾンは目を逸らさず、
「下賜されてはおりません」
もう一度繰り返した。
途端、王は椅子を蹴るようにして立ち上がると、レイゾンの目の前までやってくる。
「貴様……なんのつもりだ」
怒りのためだろう。声が震えている。
「我を馬鹿にしているのか。王たる我を——」
「——陛下」
見かねたのか、マルモア卿が宥めるように声をかける。
だが王の怒りは収まらないようだ。ギラギラとした目でレイゾンを見上げると、「貴様……」と、食いしばった歯の隙間から声を漏らす。
「ではなぜ我が貴様にあの騏驥を城から連れ出させたと思っておるのだ!? なんのために我が貴様などに五変騎の一頭を——」
「騎士になりたてで万事に不慣れなわたくしのために、城での生活が長く諸事に慣れた騏驥を貸し与えて下さったのだと……。細やかなお気遣いに感謝致しておりました」
「貸……っ……。馬鹿か貴様は! 貴様相手にそんな気遣いなどせぬわ! だいたい、我は”贈る”と言ったはずだ!」
「……左様でございましたでしょうか」
「我を相手にどこまでふざけたことを言うつもりだ!? あれはお前にやったものだ! 下賜したものだ! それを返したいなどと言う者を騎士にさせておくことなどできぬ! だから騎士の任を解くのだ! わかったらさっさと下がれっ!」
とうとう叫ぶようにして王は言うと、肩で息をしながらレイゾンを睨む。
そんな様子を目の前にしながら、そういえば——と、レイゾンは思った。
そういえば、以前城に来た時も——あの宴の時も、最後は、王はこうして大いに狼狽えていた。
それまでは白羽を晒しものにするかのような言動さえしていたのに、折れた剣先が間近に刺さったのを見るや否や、みっともないほどに狼狽えて……。
(確かに剣先が飛んでくるのは怖いとしてもだ)
見ていられなほどの動揺ぶり——怯えぶりだった。
一国の王として相応しいのだろうかと首を傾げてしまうほどに。
今もそうだ。
ヒステリックに叫んで怒鳴り散らして……。
(似ていない親子だ)
きっとシィン殿下ならもっと違う対応をするだろうにと思いつつ、レイゾンは王を見つめ返す。
この国の王——そう思うと畏れ多く尻込みしそうになる。
けれど、騎士という立場は同じ——。そう思うと怖くはない。
俺も騎士なのだ。それも、あんなに素晴らしい騏驥と共に駆けた騎士。
あの騏驥と過ごした時間の全てが、俺を強くしてくれる。
大切な騏驥——白羽。
絶対に離しはしない。
「……では陛下はあくまでわたくしに下賜なさったと……」
「そうだと言っておる!」
「左様ですか。ですがわたくしの認識とは異なっている模様。では——」
そしてレイゾンは、ゆっくりと口を開く。
この戦いの、最後の剣の一振り。
「では恐れながら、わたくしがあの騏驥を賜った際に、陛下が見届け人として選んでくださった騎士を呼んではいただけませんか。そうすれば、わたくしも正しく思い出せるかと存じます」
王が、あ、という顔をした。
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