前王の白き未亡人【本編完結】

有泉

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159 明くる日(2)

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孤児院での生活は、快適!とまではいかなかったが毎日が新鮮で、それに忙しくて(特に水汲み)一日があっという間に過ぎた。

そして気がつけば、わたしは普通に過ごしている。

同じ歳のユンとはとても仲良しになった。

いつも一緒に作業をしている。

0歳のマイラは、今ハイハイの時期で目が離せない。
交代で面倒をみているのだけど、わたしにも懐いてくれて、よく抱っこしたり、離乳食を食べさせたりしている。

わたしが離れると、後追いをしてくれるの。

何にも用事がない時は、みんなでかけっこをしたり木に登ったりしている。

体を動かすなんて面倒で疲れることを今はとても楽しいと思っている。

友達と遊んだり喧嘩をしたり、時には意地悪されたり、わたしが怒ったり泣いたり、笑っている。

笑う勉強?
わたしって本当に馬鹿だと思う。
そんなのみんなと過ごせば自然と出てくる感情だった。

前回の時は、ただ寝て、起きて、食事をして、勉強をする。
それの繰り返しで、息をしてただ生きているだけだった。

それでも、最後の軟禁生活で、殿下とお父様への期待も気持ちも全くなくなり、屋敷を抜け出していた時は、やはり今考えると孤児院へ通うのは楽しかったんだと思う。

孤児院に行っている時だけは、人としての温かな感情があったと今なら気づく。

あの冷たい屋敷の中で、わたしは温かさを求めていた。

いくら使用人が頑張ってくれていても、わたしの凍りついた心は彼らの優しさにも気がつかなかった。

今ならわかる。

食が細いわたしに、食べやすく作られた料理、いつも快適に過ごせるように綺麗に整えてくれた部屋、わたしが過ごしやすいようにみんな笑ってくれていた。

でも、わたしはそんな優しさも跳ね除けて、心を閉ざしていたんだ。
だから、笑うことも泣くこともなかった。
屋敷に捨てられたわたし。

ずっとそう思っていた。



殿下に公爵の娘だから、利用価値があるから、婚約させられた。

わたしに魅力がないから、殿下はマリーナ様を愛してわたしはされた。

でも出来れば処刑は、やめて欲しかったな。
わたしは、マリーナ様に嫉妬もしていないし、ましてや殺そうなどと思っていなかった。

だって殿下のことは別になんとも思っていないのだから。

冤罪なんだからせめて調べてもらえれば、わたしが何もしていないことくらいわかるはずなのに、いきなりの処刑はないと思う。



「リゼ、何またぼうっとしているの」
わたしは裁縫の仮縫いの途中で、手を止めてぼうっとしていたようだ。

隣の席のユンが、わたしを横から小突いた。

「あ!ごめん」

わたしは慌てて手を動かした。

「リゼ、いっつもぼうっとしてるもんね。また嫌なことを思い出したの?」

ユンはわたしが夜中魘されているらしく、いつも心配そうに声をかけてくれる。
とっても優しい女の子だ。

自分は両親を火事で亡くして辛い思いをしたのに、人に優しく出来る心遣いがある。

「大丈夫だよ、早く今日のノルマ終わらせてあそぼう!」
わたしは、ユン達と早く遊びたくて作業を急いだ。

ちなみにこの作業、わたしが大量の布とミシン、ついでにアイロンを買ったので、毎日数時間作業をしないといけなくなった。

でも、みんな嫌がらずにやっている。

4か月が経ち、自分達の服を作り終わった頃、技術が上がり服を注文してくれるお店が増えた。

これで孤児院の収入が増えた。

今までは国からの寄付と貴族達からの寄付や慰問の時の差し入れ、小物を作りバザーで売った収益だけで、食べていくのがやっとだった。

孤児院を出ないといけない歳になっても、算数や字が読めない子もいて、就職先も難しい。

職員も数人しかいないので、なかなか勉強まで手が回らない。

だから、わたしは院長先生に頼んで、勉強時間の確立と上の子が下の子を教える方式とカードを作って、誰でも最低必要とされる知識を持てるようにした。

「本当は私達がしてあげられたらよかったのだけど、忙しすぎてそこまで手が回らなかったの。リゼ、感謝するわ」
院長先生は、自分達がしてあげられなかったことを悔やみつつも、これからの子ども達が少しでも生きやすくするために協力してくれた。

よく学びよく遊びよく働く。

孤児院の子達ならではの、生き方をより良く変えていく。
公爵令嬢で王太子妃教育を受けた16歳のわたしだからこそ出来る孤児院へのお礼のつもりだ。

そうしてわたしはここで10歳になり、3年半も過ごさせてもらった。








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