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124 騎士反駁
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(嬉しい……)
耳の奥にその声が蘇るたび、白羽は胸の中に沸き起こるそんな感情を噛み締める。
嬉しい。
素直に嬉しい。すごく嬉しい。
騎士にそう言ってもらえることがこんなに嬉しいことだったなんて……。
胸が熱い。震える。
けれどそんな白羽の気持ちに水をかけるように、男たちの声がする。焦っているからか、声に一層険がある。
「そ、そんなもの、それこそどうだかわからぬだろう!? お前の騏驥はろくに話せないようではないか。そんな半端な騏驥のすることがどうして信じられる!? だいたい、どうしてそんな騏驥を連れているのだ。声の出せない騏驥など、故障した騏驥など、早々に処分すべきだろう!?」
「そうだそうだ。なにが『俺の騏驥はこんな真似は』だ! 経緯はどうあれ、実際に俺たちに敵対心を見せたことは事実だ! 口は利けない、態度は悪い——そんな騏驥は処分が妥当ではないのか!?」
「それとも、お前が口を利けなくさせたのか? 下賜された騏驥を故障させるとは……。これだから騎士擬きは」
(!!)
あまりの言いように、白羽は思わず再び男たちの前に飛び出しそうになる。その寸前に、レイゾンに止められた。
だが酷すぎる言いようだ。白羽は拳を握り締めた。
(擬き……とは……よりによって……)
レイゾンは騎士だ。
少なくとも彼らよりはよほどましな騎士だ。
確かに白羽が”こう”なった原因はレイゾンだが、こんな男たちにあんな中傷をさせたくはない。
白羽は沸き起こる憤りのやり場がなく、レイゾンの腕の中でばたばたと藻掻く。
と、片腕で軽々と白羽を捕まえ、抑えていたレイゾンが可笑しそうにクッと笑った。
<なにがおかしいのですか!!>
こんなときに!
白羽は声にならない声を上げる。だがそれに対し、返ってきたのは一層深い苦笑——いや、面白がっているような貌だ。
目を瞬かせる白羽に対し、レイゾンは目を細める。
それは微笑み——それも、大切なものを見つめるときの笑みだ。白羽はますます混乱する。そしてどきどきする。そんな場合ではないのに。
そんな白羽にレイゾンは言う。
「お前がそんなに暴れるのは珍しいな。お前が火傷をして、俺が抱えた時以来——か?」
<!!>
白羽は息を呑む。そんな以前ことを——何故、今?
レイゾンはあのときのことを覚えていたということか。
いきなり部屋にやって来たレイゾンに動揺して、白羽が醜態をさらしてしまった——あんな時のことを。
(何故……)
あんなこと、忘れていると思った。些細なことだと。それなのに……。
それほど変なことをしてしまったのだろうか?
それとも……彼は全て覚えてくれているのだろうか。二人の間にあった色々なことを。
困惑する白羽に、レイゾンは微笑んだまま続ける。
「……あの時は思ったよりドジな騏驥だと思った。今は……思っていたよりも感情豊かなのだなと思っている。……お前は、結構意外性のある騏驥なのだな……」
それとも——俺がお前に偏見を持っていただけなのか……。きっとそうなのだろうな。
最後は少し寂しげに——悔やむように言うレイゾンに、白羽は胸が引き絞られるような感覚を覚える。
彼は——レイゾンは白羽のことを理解してくれようとしている。
騎士として騏驥のことを理解しようとしてくれている。
今更なのかもしれないけれど、それでも。
なのに——。
(そんなレイゾンさまを、わたしは……わたしのせいで……)
彼の立場を危うくしてしまうかもしれない。
白羽は改めて自分の迂闊さを思い、泣きたい気分だ。
自分が処分されるだけならまだいい。元々、満足に駆けたこともなかった騏驥なのだ。半端な騏驥だったのだ。だからいつも心のどこかで覚悟していた。
けれど、騎士を巻き込んでしまうなんて、そんな騏驥、半端よりもなお悪い。
レイゾンはどう応じるだろう?
自分のせいで口を利けなくなったと話すことはないだろう。ならば「白羽は病気」とでも言うのだろうか。その理由では白羽は処分される可能性は残ってしまうけれど、それは仕方のないことだ。
レイゾンは騎士でいたいだろうし罰は受けたくないだろう。
城で——あの宴席で白羽を差し出そうとしたように、今度もまた自分の立場のために騏驥を犠牲にしようとするかもしれない。
でも今はあの時とは違う。
白羽が迂闊だったのだから。
(むしろ……わたしが処分されることでレイゾンさまが罰せられずに済むなら……)
<申し訳……>
ありません——と、白羽はレイゾンに謝ろうとした。
彼らの悪口に耐えられなかったからとはいえ、自分の立場と状態を思えば考えなしの行動だった。
しかし、そう動かしかけた唇は、レイゾンに阻まれた。
彼は軽く頭を振ると、白羽が唇を動かすことを止めさせる。
そうしていると、
「——おい、何をこそこそしている? その騏驥が話せなかったことは俺たち三人がみな目にしたことだぞ。なんとか言ったらどうだ!?」
男の一人が声を荒らげて言う。
白羽は身を竦ませてしまったが、レイゾンは落ち着いている。彼は白羽を宥めるようにそっと肩を撫でると、改めて男たちに向き直って言った。
「それのなにが悪い」
堂々とした声音。
<!?>
驚く白羽同様、男たちもまた、レイゾンのそのまったく悪びれていない態度は意外だったのようだ。ぎょっとした顔で、目を丸くしている。
そんな男たちを睥睨して、レイゾンは続けた。
「あれこれまくし立ててくれたが……全て下らぬな。『口がきけない』? 違うな。白羽は口を利かないだけだ。俺が俺の騏驥に『俺以外の騎士と話すな』と命じていただけのこと。それのなにが悪いのだ?」
<!!>
白羽ははっとレイゾンを見上げた。
まさか——まさかそんな風に応じるとは思っていなかった。レイゾンの衣を掴む白羽の肩を抱いて、レイゾンは続ける。
「それを俺に確認もせず、人の騏驥を乱暴に捕らえようとするとはどういう了見だ? 罰なら貴殿らの方がよほど罰を受けるに値する行為をしでかしているのではないか?」
「な……っ——」
「だいたい、仮に俺の騏驥がどこか具合を悪くしていたとして、それが騏驥を乱暴に扱っていい理由にはならぬだろう。独りでいる騏驥ならば保護し、しかるべき機関に届ける。騎士のいる騏驥ならば、騎士を探す——。騏驥を見かけた時の対応法として、俺が騎士学校で学んだ手順はそうだったが……貴殿たちは違うのか?」
「! ば、馬鹿にするな!」
「そ、そんな言い訳をしても誤魔化されぬぞ! その騏驥は——」
男たちはレイゾンからの反駁を想定していなかったのか、狼狽と焦りに顔を真っ赤にしている。けれどそんな彼らの口から出るのは、反論にもならない暴言めいた叫びばかりだ。
レイゾンはそれを涼しい顔で聞き流すと、微かに片頬を上げて言った。
「——俺の言うことが誤魔化しだというなら、裁決の場に持ち込めばいい。きっちりと調べてもらえるだろう。そうなれば、騏驥の『輪』の記憶も判断材料になる。おれはそれでも一向に構わぬが……。それに、これほどの往来で騒げば証人も多くいるだろうしな」
言いながらレイゾンがこれ見よがしに辺りを見回すと、男たちは今更気づいたように慌てて周りを見る。
そして、レイゾンや白羽をこれ以上糾弾することには無理があるとようやく察したのだろう。保身第一の彼らは、この場でこれ以上に事を荒立てることは得策ではないと判断したようだ。
「——もうよい!!」
捨て台詞のように口々にそう言うと、逃げるようにして去っていく。
白羽はほっと胸を撫で下ろす。
しかしレイゾンの身体の陰からそっと辺りを窺い、ぎょっとした。
確かに幾人もの人がこちらを遠巻きに見つめている。騎士四人と騏驥一人(一匹)が昼間から街中で騒いでいたのだ。耳目を集めない方がおかしいだろう。
せっかく目立たないようにしていたのに、これも台無しだ。
(わたしは……)
なにもかも、やることなすこと全てレイゾンの迷惑になってしまったのだ。
白羽は俯いてしまうが、肩を抱くレイゾンの手は相変わらず温かだ。そして優しい。
顔を上げると、
「大丈夫だったか」
レイゾンが顔を覗き込むようにして尋ねてきた。
「すまなかった……つい工房に長居してしまってお前を待たせてしまったせいだな」
更には顔を曇らせて白羽に謝ってくる。
そんなレイゾンの側では、駆け寄ってきたサンファが幾度も謝っているが、白羽はその総てが上手く頭の中に入ってこなかった。
迷惑をかけてしまった——。レイゾンに。騎士に。
こんなに大きな騒ぎを起こして——。この件で彼が咎められたらどうしよう?
男たちはあれで本当に引き下がったのだろうか? 改めてレイゾンを責めたりはしないだろうか?
(わたしはなんて馬鹿なことを……)
騏驥は騎士に逆らってはいけないと、そう言われていたのに。
ずっと普通の騏驥とは違う生活をしていたために、その重大さがよくわかっていなかった。騏驥の不始末は、連れている騎士の責任だ。
レイゾンは、怒られてしまうのだろうか。
想像すると不安で胸がいっぱいになる。白羽は思わずレイゾンの手に縋った。
見つめると、彼は心配そうな目で見つめ返してきた。
ついさっきまで、男たち相手に堂々と言い返していた騎士と同じ人物とは思えないほどの、優しい、こちらを気遣うような双眸で。
「……? 白羽? ところでその……その髪はどうしたのだ。薬が切れてしまったのか? 体調はどうだ?」
(申し訳ありません)
「?? 白羽?」
(申し訳ありません、レイゾンさま。でも我慢できなかったのです。あなたが——中傷されているのが悔しくて——)
「白羽! おい!?」
胸が苦しい。
白羽の記憶は、そこでふっと途切れた。
耳の奥にその声が蘇るたび、白羽は胸の中に沸き起こるそんな感情を噛み締める。
嬉しい。
素直に嬉しい。すごく嬉しい。
騎士にそう言ってもらえることがこんなに嬉しいことだったなんて……。
胸が熱い。震える。
けれどそんな白羽の気持ちに水をかけるように、男たちの声がする。焦っているからか、声に一層険がある。
「そ、そんなもの、それこそどうだかわからぬだろう!? お前の騏驥はろくに話せないようではないか。そんな半端な騏驥のすることがどうして信じられる!? だいたい、どうしてそんな騏驥を連れているのだ。声の出せない騏驥など、故障した騏驥など、早々に処分すべきだろう!?」
「そうだそうだ。なにが『俺の騏驥はこんな真似は』だ! 経緯はどうあれ、実際に俺たちに敵対心を見せたことは事実だ! 口は利けない、態度は悪い——そんな騏驥は処分が妥当ではないのか!?」
「それとも、お前が口を利けなくさせたのか? 下賜された騏驥を故障させるとは……。これだから騎士擬きは」
(!!)
あまりの言いように、白羽は思わず再び男たちの前に飛び出しそうになる。その寸前に、レイゾンに止められた。
だが酷すぎる言いようだ。白羽は拳を握り締めた。
(擬き……とは……よりによって……)
レイゾンは騎士だ。
少なくとも彼らよりはよほどましな騎士だ。
確かに白羽が”こう”なった原因はレイゾンだが、こんな男たちにあんな中傷をさせたくはない。
白羽は沸き起こる憤りのやり場がなく、レイゾンの腕の中でばたばたと藻掻く。
と、片腕で軽々と白羽を捕まえ、抑えていたレイゾンが可笑しそうにクッと笑った。
<なにがおかしいのですか!!>
こんなときに!
白羽は声にならない声を上げる。だがそれに対し、返ってきたのは一層深い苦笑——いや、面白がっているような貌だ。
目を瞬かせる白羽に対し、レイゾンは目を細める。
それは微笑み——それも、大切なものを見つめるときの笑みだ。白羽はますます混乱する。そしてどきどきする。そんな場合ではないのに。
そんな白羽にレイゾンは言う。
「お前がそんなに暴れるのは珍しいな。お前が火傷をして、俺が抱えた時以来——か?」
<!!>
白羽は息を呑む。そんな以前ことを——何故、今?
レイゾンはあのときのことを覚えていたということか。
いきなり部屋にやって来たレイゾンに動揺して、白羽が醜態をさらしてしまった——あんな時のことを。
(何故……)
あんなこと、忘れていると思った。些細なことだと。それなのに……。
それほど変なことをしてしまったのだろうか?
それとも……彼は全て覚えてくれているのだろうか。二人の間にあった色々なことを。
困惑する白羽に、レイゾンは微笑んだまま続ける。
「……あの時は思ったよりドジな騏驥だと思った。今は……思っていたよりも感情豊かなのだなと思っている。……お前は、結構意外性のある騏驥なのだな……」
それとも——俺がお前に偏見を持っていただけなのか……。きっとそうなのだろうな。
最後は少し寂しげに——悔やむように言うレイゾンに、白羽は胸が引き絞られるような感覚を覚える。
彼は——レイゾンは白羽のことを理解してくれようとしている。
騎士として騏驥のことを理解しようとしてくれている。
今更なのかもしれないけれど、それでも。
なのに——。
(そんなレイゾンさまを、わたしは……わたしのせいで……)
彼の立場を危うくしてしまうかもしれない。
白羽は改めて自分の迂闊さを思い、泣きたい気分だ。
自分が処分されるだけならまだいい。元々、満足に駆けたこともなかった騏驥なのだ。半端な騏驥だったのだ。だからいつも心のどこかで覚悟していた。
けれど、騎士を巻き込んでしまうなんて、そんな騏驥、半端よりもなお悪い。
レイゾンはどう応じるだろう?
自分のせいで口を利けなくなったと話すことはないだろう。ならば「白羽は病気」とでも言うのだろうか。その理由では白羽は処分される可能性は残ってしまうけれど、それは仕方のないことだ。
レイゾンは騎士でいたいだろうし罰は受けたくないだろう。
城で——あの宴席で白羽を差し出そうとしたように、今度もまた自分の立場のために騏驥を犠牲にしようとするかもしれない。
でも今はあの時とは違う。
白羽が迂闊だったのだから。
(むしろ……わたしが処分されることでレイゾンさまが罰せられずに済むなら……)
<申し訳……>
ありません——と、白羽はレイゾンに謝ろうとした。
彼らの悪口に耐えられなかったからとはいえ、自分の立場と状態を思えば考えなしの行動だった。
しかし、そう動かしかけた唇は、レイゾンに阻まれた。
彼は軽く頭を振ると、白羽が唇を動かすことを止めさせる。
そうしていると、
「——おい、何をこそこそしている? その騏驥が話せなかったことは俺たち三人がみな目にしたことだぞ。なんとか言ったらどうだ!?」
男の一人が声を荒らげて言う。
白羽は身を竦ませてしまったが、レイゾンは落ち着いている。彼は白羽を宥めるようにそっと肩を撫でると、改めて男たちに向き直って言った。
「それのなにが悪い」
堂々とした声音。
<!?>
驚く白羽同様、男たちもまた、レイゾンのそのまったく悪びれていない態度は意外だったのようだ。ぎょっとした顔で、目を丸くしている。
そんな男たちを睥睨して、レイゾンは続けた。
「あれこれまくし立ててくれたが……全て下らぬな。『口がきけない』? 違うな。白羽は口を利かないだけだ。俺が俺の騏驥に『俺以外の騎士と話すな』と命じていただけのこと。それのなにが悪いのだ?」
<!!>
白羽ははっとレイゾンを見上げた。
まさか——まさかそんな風に応じるとは思っていなかった。レイゾンの衣を掴む白羽の肩を抱いて、レイゾンは続ける。
「それを俺に確認もせず、人の騏驥を乱暴に捕らえようとするとはどういう了見だ? 罰なら貴殿らの方がよほど罰を受けるに値する行為をしでかしているのではないか?」
「な……っ——」
「だいたい、仮に俺の騏驥がどこか具合を悪くしていたとして、それが騏驥を乱暴に扱っていい理由にはならぬだろう。独りでいる騏驥ならば保護し、しかるべき機関に届ける。騎士のいる騏驥ならば、騎士を探す——。騏驥を見かけた時の対応法として、俺が騎士学校で学んだ手順はそうだったが……貴殿たちは違うのか?」
「! ば、馬鹿にするな!」
「そ、そんな言い訳をしても誤魔化されぬぞ! その騏驥は——」
男たちはレイゾンからの反駁を想定していなかったのか、狼狽と焦りに顔を真っ赤にしている。けれどそんな彼らの口から出るのは、反論にもならない暴言めいた叫びばかりだ。
レイゾンはそれを涼しい顔で聞き流すと、微かに片頬を上げて言った。
「——俺の言うことが誤魔化しだというなら、裁決の場に持ち込めばいい。きっちりと調べてもらえるだろう。そうなれば、騏驥の『輪』の記憶も判断材料になる。おれはそれでも一向に構わぬが……。それに、これほどの往来で騒げば証人も多くいるだろうしな」
言いながらレイゾンがこれ見よがしに辺りを見回すと、男たちは今更気づいたように慌てて周りを見る。
そして、レイゾンや白羽をこれ以上糾弾することには無理があるとようやく察したのだろう。保身第一の彼らは、この場でこれ以上に事を荒立てることは得策ではないと判断したようだ。
「——もうよい!!」
捨て台詞のように口々にそう言うと、逃げるようにして去っていく。
白羽はほっと胸を撫で下ろす。
しかしレイゾンの身体の陰からそっと辺りを窺い、ぎょっとした。
確かに幾人もの人がこちらを遠巻きに見つめている。騎士四人と騏驥一人(一匹)が昼間から街中で騒いでいたのだ。耳目を集めない方がおかしいだろう。
せっかく目立たないようにしていたのに、これも台無しだ。
(わたしは……)
なにもかも、やることなすこと全てレイゾンの迷惑になってしまったのだ。
白羽は俯いてしまうが、肩を抱くレイゾンの手は相変わらず温かだ。そして優しい。
顔を上げると、
「大丈夫だったか」
レイゾンが顔を覗き込むようにして尋ねてきた。
「すまなかった……つい工房に長居してしまってお前を待たせてしまったせいだな」
更には顔を曇らせて白羽に謝ってくる。
そんなレイゾンの側では、駆け寄ってきたサンファが幾度も謝っているが、白羽はその総てが上手く頭の中に入ってこなかった。
迷惑をかけてしまった——。レイゾンに。騎士に。
こんなに大きな騒ぎを起こして——。この件で彼が咎められたらどうしよう?
男たちはあれで本当に引き下がったのだろうか? 改めてレイゾンを責めたりはしないだろうか?
(わたしはなんて馬鹿なことを……)
騏驥は騎士に逆らってはいけないと、そう言われていたのに。
ずっと普通の騏驥とは違う生活をしていたために、その重大さがよくわかっていなかった。騏驥の不始末は、連れている騎士の責任だ。
レイゾンは、怒られてしまうのだろうか。
想像すると不安で胸がいっぱいになる。白羽は思わずレイゾンの手に縋った。
見つめると、彼は心配そうな目で見つめ返してきた。
ついさっきまで、男たち相手に堂々と言い返していた騎士と同じ人物とは思えないほどの、優しい、こちらを気遣うような双眸で。
「……? 白羽? ところでその……その髪はどうしたのだ。薬が切れてしまったのか? 体調はどうだ?」
(申し訳ありません)
「?? 白羽?」
(申し訳ありません、レイゾンさま。でも我慢できなかったのです。あなたが——中傷されているのが悔しくて——)
「白羽! おい!?」
胸が苦しい。
白羽の記憶は、そこでふっと途切れた。
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