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73 *合意の上ではない暴力的な性的行為の描写があります*
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◇
「レイゾンさま……っ!」
掴まれた腕が、軋んでは痛む。
白羽は苦痛にひび割れた声を上げると、何とか騎士の手の中から逃れようと必死で藻掻き続ける。
自分でも言い過ぎたかもしれないと——言った後になって思ったのだ。けれど口は止まらなかった。想いは止まらなかった。
もう——もう彼の側にはいたくない。この騎士の側にはいたくない。彼のものではいたくない——そんな想いが。
だから怒られることは想定していたし、打たれるかもしれないことも覚悟していた。
けれど——。
「…………」
自分を見つめ下ろすその目が澱んだような熱を孕むのを感じた瞬間、白羽は堪えられないほどの恐怖を覚えて、逃げようとせずにはいられなかった。
想像していた以上に——レイゾンは怒ってしまった。
怒らせてしまったのだ。
それは白羽の迂闊さゆえだが、仕方のないことでもあった。
踊り子だった昔はいざ知らず、王都に来てからというもの——ティエンの側に来てからというもの、白羽は人が激怒するという様子を間近に見ることがなかったのだ。
ティエンはいつも穏やかだったし、サンファも、ぷりぷりと怒ったさまを見せることはあっても、それはあくまで彼女の可愛らしい振る舞いの一つに過ぎなかった。
それ以外の者たちと会う機会は極めて少なかったし、ましてやこれほど荒々しい騎士になど、今まで会ったことはなかった。
加えて、運の悪いことに白羽はそれまで騎士とは友好な関係しか築いたことがなかった。
当然だ、今まで彼が知っている騎士はティエンのみ。親しくしたのは主だけだったのだ。そして彼は白羽にとって「主」ではなかった。騎士であり主だったことは間違いないが、通常の主従の関係ではなかった。彼は白羽を従わせようとはしなかったのだ。一度も。
特定の騏驥を従える他の騎士同様、側に置き、心を込めて愛してくれたが従わせようとはしなかった。乗ろうともしなかったのだから当然だ。決して従えようとせず、むしろ人と同じように扱っていた。白羽を騏驥として扱わなかった。
そして、白羽がティエン以外に唯一比較的親しかったシィンもまた、当然ながら、伯父であり王であるティエンの騏驥、白羽を自分に従わせようとすることはなかった。
つまり——。
白羽は騎士に対する騏驥の”正しい”態度や口のきき方を知らなかった。
知っていたつもりで知らなかった。
服従しなければならない、反論してはならない、という原則を。
そのため、白羽にとっては、騎士が相手でも(自分が思う礼儀の範囲で)自分が思ったままを口にすることはごく自然のことではあったのだが——。
それはティエンという、ただ一人の騎士にしか通用しないことだった。
「っ……離っ……離してください……!」
いや。
嫌。
繰り返しながら、白羽は自らの身体の上に圧し掛かってくるレイゾンの身体を叩く。
叩いている——つもりだ。
が、本当にそうできているのかはわからない。レイゾンはまったく気にしていない様子で、ますます恐ろしい形相で間近から白羽を睨みつけてくるのだ。
重く、苦しく、痛い。
——怖い。
白羽は騎士の大きな身体の下で繰り返し身を捩っては、なんとかそこから逃げ出そうと試みるが、何度やっても上手くいかない。
レイゾンの力は強く、身体は逞しく、白羽が全身の力で精一杯抗ってもびくともしないのだ。
「レイ——」
「逃げるな……」
間近から聞こえてくる声は、地の底から聞こえてくるかのように低く恐ろしい。
白羽は恐怖に泣きながら、嫌々を繰り返した。
服を引っ張り、腕を引っ搔き、できる限りの抵抗をして逃れようとするが上手くいかない。
「逃げるな——」
「……っ」
「逃げるな!」
「嫌です……! いや——」
「白羽……!」
「離してください! 離して——!」
「抵抗するな! 俺はお前の騎士だぞ。お前は俺のものだろう。——逃げるな!」
「ぃや……っ——!」
白羽は脚をばたつかせて暴れる。拳で幾度もレイゾンの身体を叩き、必死で抗い、声を上げる。
「あなたは……あ、あなたは、あなたこそ、わたしを嫌っていたではありませんか……! なのに、いまさら——」
「黙れ!」
「ゃ……ッ——!」
嫌。
いや。
離して。
助けて。
誰か。
誰か。
——ティエンさま——。
無我夢中で、ただ逃げ出したいあまりに、訳も分からないまま思い浮かんだ言葉を次々に白羽は叫ぶ。と、次の瞬間、
「アっ——!」
一際強く腕を掴まれたかと思うと、そのままガクガクと激しく身体を揺さぶられた。
冷たく堅い床に、背が、肩が、頭が幾度もぶつかる。経験したことのない暴力と感じたことがない痛みに、全身が竦む。だがレイゾンの力は一向に弱まらない。
「お前……っ……」
彼は唸るような声を上げると、射殺すような目で白羽を睨む。頬の傷が引き攣るように歪み、それは彼の野性的な貌をさらに野蛮に見せる。
厳ついが男っぽくて整っていると感じられていた面影は今はなく、ただただ恐ろしい印象だけが際立っている。
白羽は怖さのあまり震えることしかできない。
と——。レイゾンは不意に、そんな白羽の脚を手荒く掴んだ。白羽が痛みに顔を歪めるのにも構わず、彼はそのまま強引に白羽の膝を開かせる。そして白羽の脚の間に自身の身体を割り込ませてくると、白羽が纏っている衣を無理やりに引き剥がし始めた。
「!? レ……なにを——」
狼狽した白羽が暴れると、ビッ——! と、どこかで絹が破れる音がする。だがレイゾンの手は止まらない。白羽のしなやかな身体を緩やかに包んでいた白い衣がみるみる荒く乱されていく。今夜の宴のためにレイゾンが用意してくれていたものだ。それが、彼の手で。
思いもよらない事態に白羽は惑乱する。
レイゾンが——彼がどうして。
なんのつもりで——。
慌てて彼の手を抑えようとするが、元々彼に組み敷かれていて大して動けない身体だ。さっきまでよりもより無様に藻掻く格好になるだけで、レイゾンの傍若な振る舞いを僅かも止められない。
が、そんな白羽の些細な抵抗すら邪魔に感じたのだろう。レイゾンは「鬱陶しい」と言わんばかりの手つきで、白羽の手を払った。そして改めて白羽を強く床に押し付けてくると、頬を歪めて言った。
「大人しくしていろ。お前はこうしないと自分の主だと認めないんだろう?」
「……! なっ——」
「もっと早くこうすべきだったな。お前はそういう騏驥だったのだから。前の主を忘れられないのもこれが理由だろう」
「なにを……ティエンさまは決して——」
「黙れ!」
自分とティエンの両方を侮辱する言葉に、白羽の全身が怒りで震える。声を荒らげて言い返そうとしたが、それはレイゾンの大声にかき消された。
レイゾンの大きな手が、太い指が、白羽の細い首にかかる。そこにじわじわと力を込めながら、レイゾンは白羽を睨んで言う。
「黙れ。……二度と前の主のことを言うな。お前の主はこの俺だ」
「違います……! あなたなど——」
苦しさの中、それでも白羽は声を上げようとしたが、それは途中で彼の喉の奥に消える。
首からするりと手が離れたかと思うと、息をつく間もなく、レイゾンのその手が、白羽の脚を大きく割り広げたのだ。
裾が乱れ、合わせているだけの肌衣から脚が剝き出しになる。さらにはその奥まで。
あられもない格好に白羽は真っ赤になって抵抗したが、レイゾンはそのまま白羽の秘部に手を伸ばしてくると、双丘の奥に無遠慮に触れる。
「……っ!」
そのまま——何の準備も遠慮もなく後孔にグイと指を埋められ、狭いところを押し開かれる痛みに白羽は痛みに大きく顔を歪める。
どうして。
どうして——。
なぜ——。
「ゃ……めて、下さい……っ——」
「お前が誰の騏驥なのか——きちんとわからせてやる」
「や——」
「俺を見ていろ。お前の騎士はこの俺だ。どれほど呼ぼうがお前の前の主はもう——」
「いゃ……ぁ!」
聞きたくない、と白羽は大きく頭を振る。助けを求めて暴れ、必死で伸ばした手が、柩に触れる。その無機質な冷たさ。ここに眠るのは、もう二度と会えない人——。
「っァ……あ、ぁアぁッ——!!」
次の瞬間、身体が裂かれるような信じられないほどの痛みが背筋を突き上げた。
熱く大きなものに無理やりに貫かれる苦痛と圧迫感に、白羽は悲鳴を上げて藻掻く。恐怖と嫌悪に全身が軋む。色の異なる瞳はこれ以上なく大きく見開かれ、大粒の涙がぼろぼろと零れる。
だが、肉の楔は、なおじわじわと白羽の体奥を犯していく。
「……っ……ぅ……」
もう息も上手くできない。
溢れる涙もそのままきつく目を閉じ、喉を逸らして辛うじて息を継いでは、ただ痛みから逃れたくて少しでもずり上がろうと試みる。が、その身体はすぐにレイゾンに引き戻されたかと思うと、ますます荒々しく揺さぶられる。
塵になってしまったかのようだ——と、白羽は思った。
何をしても逃げられず抵抗も抵抗にならず、ただただレイゾンの——強い力の思うままになるしかない塵のようなものに。
以前の——ティエンに会う前の自分に戻ってしまったかのように——。
(ティエンさま——)
かの人を想うと、あとからあとから涙が零れる。
わたしを連れ出してくれた人。
誰よりも美しい人。
わたしのただ一人の騎士。
それなのに——。
よりによって。
よりによってここでこんな目に遭うなんて——。
奥歯を噛み締めても、涙が止まらない。
「ァ……っ……」
痛みと悲しみに声を上げる白羽の上で、レイゾンは荒い息音とともに忙しなく動き続けている。律動のたびに、自身の熱と激しさを白羽の身体に刻み込もうとするかのように。
汗が、白羽の閉じた瞼の上に落ちる。
俺を見ていろ、と彼は言った。けれど見ていたくなどない。
ただただ早く終わってほしい。こんな男、わたしの騎士じゃない。
無理やりに身体は繋がれても、心は——。
白羽は床に爪を立てると、瞼の裏が赤く染まるほどきつくきつく目を閉じる。
痛みから——悪夢のような現実から、少しだけでも逃れようと足掻くかのように。
「レイゾンさま……っ!」
掴まれた腕が、軋んでは痛む。
白羽は苦痛にひび割れた声を上げると、何とか騎士の手の中から逃れようと必死で藻掻き続ける。
自分でも言い過ぎたかもしれないと——言った後になって思ったのだ。けれど口は止まらなかった。想いは止まらなかった。
もう——もう彼の側にはいたくない。この騎士の側にはいたくない。彼のものではいたくない——そんな想いが。
だから怒られることは想定していたし、打たれるかもしれないことも覚悟していた。
けれど——。
「…………」
自分を見つめ下ろすその目が澱んだような熱を孕むのを感じた瞬間、白羽は堪えられないほどの恐怖を覚えて、逃げようとせずにはいられなかった。
想像していた以上に——レイゾンは怒ってしまった。
怒らせてしまったのだ。
それは白羽の迂闊さゆえだが、仕方のないことでもあった。
踊り子だった昔はいざ知らず、王都に来てからというもの——ティエンの側に来てからというもの、白羽は人が激怒するという様子を間近に見ることがなかったのだ。
ティエンはいつも穏やかだったし、サンファも、ぷりぷりと怒ったさまを見せることはあっても、それはあくまで彼女の可愛らしい振る舞いの一つに過ぎなかった。
それ以外の者たちと会う機会は極めて少なかったし、ましてやこれほど荒々しい騎士になど、今まで会ったことはなかった。
加えて、運の悪いことに白羽はそれまで騎士とは友好な関係しか築いたことがなかった。
当然だ、今まで彼が知っている騎士はティエンのみ。親しくしたのは主だけだったのだ。そして彼は白羽にとって「主」ではなかった。騎士であり主だったことは間違いないが、通常の主従の関係ではなかった。彼は白羽を従わせようとはしなかったのだ。一度も。
特定の騏驥を従える他の騎士同様、側に置き、心を込めて愛してくれたが従わせようとはしなかった。乗ろうともしなかったのだから当然だ。決して従えようとせず、むしろ人と同じように扱っていた。白羽を騏驥として扱わなかった。
そして、白羽がティエン以外に唯一比較的親しかったシィンもまた、当然ながら、伯父であり王であるティエンの騏驥、白羽を自分に従わせようとすることはなかった。
つまり——。
白羽は騎士に対する騏驥の”正しい”態度や口のきき方を知らなかった。
知っていたつもりで知らなかった。
服従しなければならない、反論してはならない、という原則を。
そのため、白羽にとっては、騎士が相手でも(自分が思う礼儀の範囲で)自分が思ったままを口にすることはごく自然のことではあったのだが——。
それはティエンという、ただ一人の騎士にしか通用しないことだった。
「っ……離っ……離してください……!」
いや。
嫌。
繰り返しながら、白羽は自らの身体の上に圧し掛かってくるレイゾンの身体を叩く。
叩いている——つもりだ。
が、本当にそうできているのかはわからない。レイゾンはまったく気にしていない様子で、ますます恐ろしい形相で間近から白羽を睨みつけてくるのだ。
重く、苦しく、痛い。
——怖い。
白羽は騎士の大きな身体の下で繰り返し身を捩っては、なんとかそこから逃げ出そうと試みるが、何度やっても上手くいかない。
レイゾンの力は強く、身体は逞しく、白羽が全身の力で精一杯抗ってもびくともしないのだ。
「レイ——」
「逃げるな……」
間近から聞こえてくる声は、地の底から聞こえてくるかのように低く恐ろしい。
白羽は恐怖に泣きながら、嫌々を繰り返した。
服を引っ張り、腕を引っ搔き、できる限りの抵抗をして逃れようとするが上手くいかない。
「逃げるな——」
「……っ」
「逃げるな!」
「嫌です……! いや——」
「白羽……!」
「離してください! 離して——!」
「抵抗するな! 俺はお前の騎士だぞ。お前は俺のものだろう。——逃げるな!」
「ぃや……っ——!」
白羽は脚をばたつかせて暴れる。拳で幾度もレイゾンの身体を叩き、必死で抗い、声を上げる。
「あなたは……あ、あなたは、あなたこそ、わたしを嫌っていたではありませんか……! なのに、いまさら——」
「黙れ!」
「ゃ……ッ——!」
嫌。
いや。
離して。
助けて。
誰か。
誰か。
——ティエンさま——。
無我夢中で、ただ逃げ出したいあまりに、訳も分からないまま思い浮かんだ言葉を次々に白羽は叫ぶ。と、次の瞬間、
「アっ——!」
一際強く腕を掴まれたかと思うと、そのままガクガクと激しく身体を揺さぶられた。
冷たく堅い床に、背が、肩が、頭が幾度もぶつかる。経験したことのない暴力と感じたことがない痛みに、全身が竦む。だがレイゾンの力は一向に弱まらない。
「お前……っ……」
彼は唸るような声を上げると、射殺すような目で白羽を睨む。頬の傷が引き攣るように歪み、それは彼の野性的な貌をさらに野蛮に見せる。
厳ついが男っぽくて整っていると感じられていた面影は今はなく、ただただ恐ろしい印象だけが際立っている。
白羽は怖さのあまり震えることしかできない。
と——。レイゾンは不意に、そんな白羽の脚を手荒く掴んだ。白羽が痛みに顔を歪めるのにも構わず、彼はそのまま強引に白羽の膝を開かせる。そして白羽の脚の間に自身の身体を割り込ませてくると、白羽が纏っている衣を無理やりに引き剥がし始めた。
「!? レ……なにを——」
狼狽した白羽が暴れると、ビッ——! と、どこかで絹が破れる音がする。だがレイゾンの手は止まらない。白羽のしなやかな身体を緩やかに包んでいた白い衣がみるみる荒く乱されていく。今夜の宴のためにレイゾンが用意してくれていたものだ。それが、彼の手で。
思いもよらない事態に白羽は惑乱する。
レイゾンが——彼がどうして。
なんのつもりで——。
慌てて彼の手を抑えようとするが、元々彼に組み敷かれていて大して動けない身体だ。さっきまでよりもより無様に藻掻く格好になるだけで、レイゾンの傍若な振る舞いを僅かも止められない。
が、そんな白羽の些細な抵抗すら邪魔に感じたのだろう。レイゾンは「鬱陶しい」と言わんばかりの手つきで、白羽の手を払った。そして改めて白羽を強く床に押し付けてくると、頬を歪めて言った。
「大人しくしていろ。お前はこうしないと自分の主だと認めないんだろう?」
「……! なっ——」
「もっと早くこうすべきだったな。お前はそういう騏驥だったのだから。前の主を忘れられないのもこれが理由だろう」
「なにを……ティエンさまは決して——」
「黙れ!」
自分とティエンの両方を侮辱する言葉に、白羽の全身が怒りで震える。声を荒らげて言い返そうとしたが、それはレイゾンの大声にかき消された。
レイゾンの大きな手が、太い指が、白羽の細い首にかかる。そこにじわじわと力を込めながら、レイゾンは白羽を睨んで言う。
「黙れ。……二度と前の主のことを言うな。お前の主はこの俺だ」
「違います……! あなたなど——」
苦しさの中、それでも白羽は声を上げようとしたが、それは途中で彼の喉の奥に消える。
首からするりと手が離れたかと思うと、息をつく間もなく、レイゾンのその手が、白羽の脚を大きく割り広げたのだ。
裾が乱れ、合わせているだけの肌衣から脚が剝き出しになる。さらにはその奥まで。
あられもない格好に白羽は真っ赤になって抵抗したが、レイゾンはそのまま白羽の秘部に手を伸ばしてくると、双丘の奥に無遠慮に触れる。
「……っ!」
そのまま——何の準備も遠慮もなく後孔にグイと指を埋められ、狭いところを押し開かれる痛みに白羽は痛みに大きく顔を歪める。
どうして。
どうして——。
なぜ——。
「ゃ……めて、下さい……っ——」
「お前が誰の騏驥なのか——きちんとわからせてやる」
「や——」
「俺を見ていろ。お前の騎士はこの俺だ。どれほど呼ぼうがお前の前の主はもう——」
「いゃ……ぁ!」
聞きたくない、と白羽は大きく頭を振る。助けを求めて暴れ、必死で伸ばした手が、柩に触れる。その無機質な冷たさ。ここに眠るのは、もう二度と会えない人——。
「っァ……あ、ぁアぁッ——!!」
次の瞬間、身体が裂かれるような信じられないほどの痛みが背筋を突き上げた。
熱く大きなものに無理やりに貫かれる苦痛と圧迫感に、白羽は悲鳴を上げて藻掻く。恐怖と嫌悪に全身が軋む。色の異なる瞳はこれ以上なく大きく見開かれ、大粒の涙がぼろぼろと零れる。
だが、肉の楔は、なおじわじわと白羽の体奥を犯していく。
「……っ……ぅ……」
もう息も上手くできない。
溢れる涙もそのままきつく目を閉じ、喉を逸らして辛うじて息を継いでは、ただ痛みから逃れたくて少しでもずり上がろうと試みる。が、その身体はすぐにレイゾンに引き戻されたかと思うと、ますます荒々しく揺さぶられる。
塵になってしまったかのようだ——と、白羽は思った。
何をしても逃げられず抵抗も抵抗にならず、ただただレイゾンの——強い力の思うままになるしかない塵のようなものに。
以前の——ティエンに会う前の自分に戻ってしまったかのように——。
(ティエンさま——)
かの人を想うと、あとからあとから涙が零れる。
わたしを連れ出してくれた人。
誰よりも美しい人。
わたしのただ一人の騎士。
それなのに——。
よりによって。
よりによってここでこんな目に遭うなんて——。
奥歯を噛み締めても、涙が止まらない。
「ァ……っ……」
痛みと悲しみに声を上げる白羽の上で、レイゾンは荒い息音とともに忙しなく動き続けている。律動のたびに、自身の熱と激しさを白羽の身体に刻み込もうとするかのように。
汗が、白羽の閉じた瞼の上に落ちる。
俺を見ていろ、と彼は言った。けれど見ていたくなどない。
ただただ早く終わってほしい。こんな男、わたしの騎士じゃない。
無理やりに身体は繋がれても、心は——。
白羽は床に爪を立てると、瞼の裏が赤く染まるほどきつくきつく目を閉じる。
痛みから——悪夢のような現実から、少しだけでも逃れようと足掻くかのように。
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