まるで生まれる前から決まっていたかのように【本編完結・12/21番外完結】

有泉

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【番外】離宮へ(7)

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『ルゥイ殿下はお目がお悪い、ということは、以前少しだけ伺ったことがあります。そのために、城を離れて妃殿下ご一緒に離宮でお過ごしだと……。それ以上のことは、あまり……。あとは、妃殿下があまり騏驥をお好きではない、ということぐらいでしょうか……』

 記憶を辿りながら、覚えている通りに正直に、それでいて、やや言葉を選んで話すと、二人はそれぞれ小さく頷く。
 そして改めてじっと見つめてくると、ツェンリェンが口を開いた。

『……これから……少し話をしたい。殿下に関わることだ。が、その前にいくつかことわっておきたい』

『はい』

 身構えるダンジァに、ツェンリェンは続ける。

『一つは、今から話すことは、できればきみの胸に納めておいてほしいということだ。”絶対に”ではなく、”できれば”なのは、もしかしたら、きみは我々から話を聞いたのちに、別の誰かから似たような話を聞くことになるかもしれないからだ。もしくは、『こんな話を聞いたことがあるか』と尋ねられるかもしれないからだ。その時は、隠さなくていい。我々から聞いたと話して構わない』

 丁寧な説明だ。しかもダンジァの微妙な立場を気遣ってくれている。
 そのことに感謝しながらダンジァが頷くと、

『それと。もう一つ』

 今度はウェンライが口を開く。

『今回我々が誰よりも早くきみに話したからと言って、伏せている人は悪気があって隠しているわけではないということだ。話すタイミングがないとか……話さない方がきみのためにいいだろうと考えてのことだということを、覚えていてほしい』

『はい』

 再び、ダンジァは頷く。
 二人が事前にこれだけ配慮するということは、相当に取り扱いが難しい内容の話なのだろう。
 おそらく——いや、ほぼ間違いなくシィンのことだ。
 緊張が一層増す。
 思わずギュッ拳を握りしめると、

『きみは、やはり聡い』

 ツェンリェンが、ふ、と目元を和らげて言った。

『殿下に望まれるだけのことはある。それに、こちらも助かるよ。話がしやすいからな』
 
 そして彼は自分の杯に茶を注ぎ足すと、一口飲み、改めてダンジァを見つめた。

『きみが想像した通り、話は殿下のことだ。殿下についてと……その周囲について。少し長くなるが、全て大事な話だ』





 ——そんな風にして切り出され、二人があえて淡々と話してくれた内容を思い出すと、ダンジァは今でも胸の中が締め付けられる気がする。

 ルゥイ殿下が目を悪くした経緯にも驚きだったが、それ以上に、実は狙われていたのはシィンだったこと、そして、そんな企みを抱いた者が誰だったのか(ツェンリェンもウェンライも流石に事件の黒幕が誰かを口にすることはなかったけれど、口ぶりからしてただ一人を指していることは明白だった)をはっきりと知らされたことは大きなショックだった。

 シィンが優れた騎士であるが故に、父親である現王に嫉妬されているということはダンジァも知っていた。二人が顔を合わせた時の、親子とは思えない奇妙なやりとりも見ている。
 だがまさか、王は息子であるシィンの命まで狙っていたとは……。
 俄かには信じられないほどの酷い話だ。

 さらには、二人はダンジァも巻き込まれた騏驥の競技会での事件のことにも触れた。二人の見解では、あれもまた王の企みだったようだ。だとしたら、シィンは二度も父親から命を狙われたことになる。しかもあの事件では騏驥も数人処罰されているのだ。それを思うと、憤りに言葉もない。

 しかも、ルゥイ殿下が身代わりとなって目を傷めた事件のせいで、シィンは母親にまで距離を置かれているらしい。決してシィンのせいではないのに、妃殿下はルゥイ殿下を守るために王城から離宮に移ってしまったのだから。

『——妃殿下は、決して殿下を嫌っているわけではないと思う。ただ……一緒にいる時間があまり多くなかった。ずっと手元で育てられた弟ぎみと違って、殿下は乳母に育てられ、妃殿下とはあまり会うことがなかった。そのせいで妃殿下はどちらかといえばルゥイ殿下に思い入れがあって……お目を悪くなされてからというもの、ますます大切になさっていると言うわけだ』

 言って、ツェンリェンは軽く肩を竦める。


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