まるで生まれる前から決まっていたかのように【本編完結・12/21番外完結】

有泉

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【番外】わたしはあなたのものであなたはわたしのもの(前)*性的な描写があります*

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 ああ、蕩ける——とシィンは思った。
 溶けて蕩ける。
 身体が。
 心が。
 包むように抱きしめられ、ただ唇同士を触れ合わせているだけで。

「ん、ん……」

 微かに漏れるくぐもった吐息も、その予兆のように熱く湿っている。
 ちゅ……ちゅ……と時折耳を掠める濡れた音はやけに生々しくて、羞恥を呼び起こすとともに、興奮に拍車をかけてくる。
 ダンジァの胸元に縋るようにその単衣を掴むと、腰を抱く腕にもじわりと力が込められる。逞しさと優しさに、自身の頬が一層熱くなるのがわかった。
 
 シィンの、秘密の部屋。
 今夜、先にここにやってきたのはシィンの方だった。
 久しぶりの逢瀬の時間に胸を高鳴らせながら、溜まった政務を大至急で終わらせてこの部屋に閉じこもったのだ。



 唯一の、そして最愛の騏驥であるダンジァを城に——自らの側に置いて、約半月。
 最初の数日こそ、まさに蜜月という時間を過ごせたものの、その後は思っていたより会えない日が続いていた。
 距離が近くなったから、今まで以上に一緒にいられるだろうと思ったのに、実際はまるで違っていて。
 特にこの数日は、毎日の朝の調教に乗る以外は、ほとんど会えない日々となっていた。

 が。それも仕方がない。シィンが倒れていた間の政務は溜まっていたし、その後の処理もまだまだ継続中だ。会いたい気持ちは日に日に膨らんでいても、流石に仕事を放り出すわけにはいかなかった。
 五変騎の一頭を愛騏とした王子——という対面は保っているとはいえ、我儘を通しての自分たちの関係だ。それがわかっているから後ろ指刺されるような真似はしたくなかった。
 自分が「駄目な王子」と言われるのはまだ我慢できる(かもしれない。でも多分できない)としても、ダンジァが悪く言われるかもしれないとなれば話は別だ。
 彼が奸臣のように言われるかもしれないことを想像すると、想像だけで我慢がならず、誰にもそんなことは言わせないように、やるべきことはやってから彼と会おうと思っていたら——。
 全然会えなくなってしまったのである。

 しかも、全く会えないならともかく、調教には乗るので、ますます「もっと彼と一緒にいたいのに!」という思いが高まり、とうとう今日。
 仕事の優先順位と割り振りを改めてウェンライに見直させ(彼は文句も言わずにその作業をやったので、なんとなく察していたものと思われる)、「絶対に今日のうちにやらなければならないこと」だけ、大急ぎで完璧に終わらせて、ここへ籠ったのだった。
 少なくとも明日の朝までは、愛しい相手と二人きりで過ごすために。


「シィン様……」

「ん……」

「シィン様……お会いしとうございました……」

「うん……わたしもだ……」

 口付けの合間、秘めていた想いを打ち明けるように、待ち侘びたように熱く囁くダンジァに、シィンも心からの想いを伝える。
 彼も同じように会いたいと思っていてくれたのは嬉しいし、それを言わずに我慢していたなんて、なんて健気なのだとますます愛しくなるのだ。

 そうしていると、唇に、また唇が触れる。頬に添えられる大きな手。
 ダンジァからは、彼の香りと水の香りがした。
 
 調教師と相談して行っているという夕方の運動を終え、彼がやってきたのはついさっきだ。
 シィンが湯浴みを終えて部屋にいると、庭を望む大窓が開き、泉で水浴びを終えたらしい彼が入ってきたのだ。部屋着用の単衣こそ羽織っていたものの、髪にはまだ水の滴が残っていて、その濡れた髪を無造作に掻き上げた彼の艶かしさといったら!
 顔を見た途端「会いたかった」と飛びつくつもりが、しばしぼうっと見とれてしまったほどだ。
 そしてすぐに、彼に抱きしめられて口付けられて……。

 それだけで、早くも溶けそうになって気持ちが逸って、ムズムズウズウズしているのが今——というわけだ。

「んぅ……ん……っ」

 感触を楽しむかのように、何度もやわやわと唇を唇で食まれ、焦ったさにこめかみが痺れるような感覚を覚えた瞬間、まるで見計らったかのように、肉厚の舌が口内に挿し入ってくる。
 散々焦らされたせいで、待ちきれず自分から舌を絡めに行ってしまい、直後、シィンは羞恥に真っ赤になった。
 なんてはしたない……。
 けれど待てないものは待てないのだから仕方がない。
 それに、ダンジァは自分のこうした淫らさを決して嫌がったりはしない。揶揄ったりもしない。
 むしろ積極的であることも喜んでいるらしく、何か変化があるとすれば、嬉しそうに目を細めるか、ほんの少し意味深な表情を見せるだけだ。
 そしてその後は、それまで以上に甘やかしたり、逆に少し意地悪になったりして、シィンをますます昂らせ、悦ばせてくれる。

 今もそうだ。
 自分の方から求めていたはずが、気づけばいつの間にか彼に主導権を握られている。
 抱きしめてくる腕にじわじわと力が込められたかと思うと擽ぐるようにして舌を舐られ、その甘美な刺激にくぐもった声が溢れる。
 自分の唇が、口内が、舌が、こんなに感じるなんて知らなかった。

「っふ……ぁ……ダン……ダンジァ……っ」

 口付けだけで、頭がぼうっとする。彼の香りが、布越しの体温が愛おしい。
 待ちきれない——と急かすようにシィンが名を呼ぶと、唇を離した彼の騏驥は心得たようにシィンのその身体を抱き上げる。
 ふわ、と浮く身体。けれどそれはほんの僅かな間だ。すぐさま柔らかな夜具の上にそっと寝かされる。いつの間にか、寝台のすぐ側まで来ていたらしい。その事実に、シィンは横たわったまま頬を染めた。
 口付けに夢中で、自分が部屋のどこにいるかわからなくなっていた。
 それとも……ダンジァが巧みに寝台の近くまで自分を誘導したのだろうか。

 いずれにせよ、全く気付かなかった……。

 それほどまでにダンジァとの抱擁に、そして口付けに熱心になっていたのだと思うと——それを思い知らされると今さらながらに恥ずかしい。
 我知らず真っ赤になってしまうと、その頬に口付けが触れた。体重をかけすぎないようにのしかかってきたダンジァが、小さく笑う。

「今夜はいつもにも増してお綺麗です……。お綺麗で可愛らしくて……そんな顔を見せられては困ってしまいます」

「……困る……?」

「好きになりすぎて……おかしくなりそうで困ります。自制できず、無理をさせてしまいそうで……」

 そして再び、頬に口付けられる。反対の頬にも、唇にもしっとりと唇が押し当てられる。そんな風に触れられるたび、自分のあちこちが彼のものになり、触れ合っている全ての箇所が彼と混じっていく気がする。

 シィンはダンジァを見上げた。
 すぐ近く。隙間もないほど身体を重ね、見つめてくる男を見つめ返す。
 目が合うだけで——視線が交わるだけで言葉にできないほどの幸福感が込み上げる。
 そんな、ただ一人の相手。


 王子だから——自分は王子だから、誰かを「自分のもの」にすることについては考えることがあった。
 けれど。
 自分が「誰かのもの」になることは考えたこともなかった。
 なかったのだ。一度も。
 なかった——のだが。

(悪くない……)

 シィンはうっとりとそう思う。
 自身を組み伏せる美丈夫を見つめたまま、そう思う。

 自分が誰かのものになるなんて、今まで考えたこともなかった。
 でも。
 彼のものになるのは、なんて心地良いのだろうと思うのだ。
 
 離れられない——忘れられない自分の立場。
 けれど彼と二人だけでいるときは——彼の腕の中にいるときは、そんな「王子である自分」から少しだけ離れられる気がするのだ。
 ただの”シィン”になれるような……そんな気がして……。
 そしてそんな自分を、彼はいつもいつもこれ以上ないほどに愛してくれて……。

 シィンはダンジァを見つめたまま彼の頬を撫で、そのまま前髪をかき上げる。
 まだ少し湿っている髪。けれどそれは指通りよく、触れるたびにシィンを心地良くさせるのだ。
 昂りや興奮とは少し違う、安心や安堵、そして信頼……。そんなものが指先から、掌から流れ込んでくる気がして。

「……ダンジァ……」

「はい、シィン様」

「ダンジァ」

「はい」

「ダンジァ。——ダンジァ」

 何度も髪をかき上げ、梳き上げてやりながら繰り返し名前を呼ぶ。そうしていないと「好き」が胸の中に積もって爆発してしまいそうだ。
 さっきダンジァが言っていた「困る」がなんとなくわかる気がして、シィンは小さく笑った。
 
(私たちはきっとずっと——こんな風に困ってばかりなのだろうな……どうすればいいのかわからないほど相手のことが好きで……ふとした時にもっと好きになって……困って……)

 そんな永遠の「好き」を繰り返すのだ。
 そう思うと、ふふ、と小さく笑いが溢れる。ダンジァが軽く首を傾げた。

「……なんですか?」

「ん? なんでもない」

「なんでもないのにお笑いになったのですか?」

「ん……」

 シィンは再びくすくす笑うと、ダンジァの首筋に腕を絡める。
 尋ねてくるダンジァだって、本気で不思議に思って尋ねて来ているわけじゃない——それはシィンにもわかる。
 ただただ、二人で他愛のない話をしたいのだ。戯れ合うように、甘え合うように。ささやかな幸せな時間を噛み締めるように。
 背中に腕が回される、掬い上げられるようにして抱きしめられる。
 全身がきゅうっ……と絞られるかのように抱きしめられ、その苦しさにさえ悦びを覚える。
 
「ダン……ん……」

 そのまま口付けられ、呼びかけた彼の名前は吐息に溶ける。混じり合うそれを存分にやり取りして、やがて、ダンジァが囁くように言った。

「愛しています、シィン様……」

「うん……」

「愛しています……」

「ん……わたしも……わたしもだ。ダンジァ……愛している……」

 わたしの、大事な、特別な、ダンジァ。
 言いながらそっと彼の額に触れると、微笑んだ彼に再び口付けられる。そのまま手を取られ、夜具に縫いとめるかのように押さえつけられた。
 痛くはない。けれど、彼が一瞬覗かせた雄の気配に、一瞬で抵抗できなくなる。

「ぁ……」

 乱れた襟元から覗く首筋に口付けが降る。
 仰反る白い肌に幾度も幾度も口付けられ、シィンはその度掠れた喘ぎを零す。
 そして鎖骨の少し下。ひときわ皮膚の薄いところをちゅっと吸い上げられた刹那、

「ぁ……!」

 ゾクゾクするような刺激が一瞬で巡り、高い嬌声と共に大きく背が跳ねる。
 
「ぁ、あ、ああっ——あっ……!」

 ちゅくちゅくと微かに音を立てて吸われるたび、シィンの唇からはあられもない声が溢れ、全身が快感に慄く。逃げようにも、のし掛かられている上、片手を抑えられていればそれもままならず、シィンはダンジァにされるがままだ。

「ゃ……ん、んんっ……ンンッ——」

 そんな、なんでもない箇所ですら彼に触れられれば感じてしまうのだと思うと——それを曝け出してしまっているのだと思うと、恥ずかしさが込み上げてくる。
 全身が熱い。舌先で強く弱く舐められ、時折齧るように歯を立てられると、そのたび腰の奥にじわじわと熱が溜まっていく。

「は……っゃ……ぁ……」

「シィン様のお身体は……本当にお綺麗です……」

 そうしながら、うっとりしたようにダンジァが言う。

「滑らかで、しっとりと掌に吸い付いてくるようで……甘い香りがして……」

「んんっ……」

「ずっと触れていたいと……ずっと舐めていたいと思うほどです。特に……」

「あァっ——!」

 次の瞬間、不意に胸の突起をキュッと摘まれ、大きく腰が跳ねた。
 さっきまでより一層大きな快感が、その小さな尖りから全身へと駆け抜けていく。

「特にここは。格別に美味しく可愛らしく存じます……」

「ゃ……っんっゃ、ぁ……っァっ……!」

 反対側の乳首を食まれ、唇で捏ねるようにして刺激され、左右への同時の刺激にシィンは耐えられなくなったかのようにいやいやと頭を振る。
 溢す息が熱い。頭の中が熱い。身体中が沸立つように熱い。
 興奮に掠れたダンジァの声が聞こえるたび、彼の汗の香りを感じるたび、彼に触れられるたび、欲望はさらにさらに大きくなって全身に広がっていく。
 身体の奥がじんじんと疼き始めているのがわかる。
 もっともっと彼に触れられたい。もっともっと——身体の中まで。奥深くまで。
 絶え間なく快感を注がれているのに、「もっと」とねだってしまう淫らさに耳まで赤くなりながら、シィンはダンジァの身体の下、幾度も夜具を乱して身悶える。

 そうしていると、唇はより下へ——下へと移っていく。
 鳩尾、腰、臍……。口付けが位置を変えるたび、シィンの期待はいやが上にも高まっていく。恥ずかしいのに、息が速くなるのを止められない。
 既に硬く形を変えて勃ち上がっている性器が待ち焦がれるように震える。
 
 だが。

「っァ……あぁんッ——」

 ダンジァの唇が触れたのは、大きく開かされた脚の付け根——鼠蹊部だった。
 すっかり無防備になっていたそこを熱心に舐められ、シィンの腰は幾度となく淫らに揺れる。望んでいた箇所への愛撫とは違っている。違っていた——はずなのに、そこで得られる快感は深く、悦びの声が止まらない。

「ゃ……や、だめ……っぁ、だ、めぇ……っ」

「ここはお嫌いですか……? そんなご様子には見えませんが……」

「ゃ……ひぁ……あァ、あああッ——」

 声と共にひときわ強く舐め上げられ、大きく腰が揺れる。張り詰めている性器が揺れる。そんなあられもない格好をダンジァの眼前に晒していると思うと、全身が焼けるように恥ずかしい。
 恥ずかしいのに気持ちが良くて、それがますます恥ずかしくて……どうすればいいのかわからない。頭の中が真っ白に塗り変わっていく。絶え間なく与えられる快感に溺れてしまいそうだ。

「ダン……ダ……ぁ、あ、ああっ!」

「シィン様……シィン様のここも……ここも……全部自分のものです。全部……全部——」

「んぅ……ん、っ——」

「可愛らしく恥ずかしがるご様子も、淫らにのたうつ手も脚も——全部——……」

「あぁっ!」

 声と同時にべろりと薄い皮膚を舐め上げられ、泣き声のような嬌声を零してしまう。ダンジァが露わにする独占の欲望にゾクリと背が震える。普段は聡明で穏やかな彼が隠し持つ——秘めている激情。
 彼のもう一つの姿。馬の姿の時の燃えるような赤い毛色は伊達ではないのだと——彼の持つ熱情そのままなのだと、思い知らされる。

 そして彼の唇は、シィンの脚にいくつもの赤い跡を残しながら下へ下へと下がっていく。本当にシィンの身体の全てに触れなければ気が済まないとでも言うように。
 膝、脛、踝——。やがて爪先に辿り着くと、ダンジァはシィンの足指の一つ一つまでを丹念にしゃぶり始めた。親指、人差し指、中指……。右の爪先、左の爪先。
 そしてその献身的とも執拗とも言える愛撫が左足の薬指に移った瞬間、

「ひァっ——!!」

 シィンの唇から、上擦った声が上がった。咄嗟に口元を押さえてしまう。背がしなる。思いもよらなかった快感の強さに思わず足を引きかけたが、ダンジァはそれを許してくれない。一層強く足首を掴まれたかと思うと、再び指を口に含まれ、チュウっと強く吸い上げられた。

「ゃッ……! ぁ、ゃ、やだ……っ……ゃ……ダン、ダンジァ……っ!」

「大人しくなさっていて下さい。ここは、シィン様のお好きなところではございませんか」

「っちが……そんなと……あ、ア、あァっ——!」

 違う違うと首を振って抵抗しても、その小さな指を舐めしゃぶられ、吸われ、柔らかく歯を立てられると、その度信じられないほどの快感が突き上げ、腰の奥が熱く重くなっていく。

(な、んで……)

 なんでそんなところが!?

 混乱と快感にもみくちゃにされるシィンの潤んだ視界に、満足そうにこちらを見つめているダンジァの貌が映る。
 知っていたのだ、彼は。シィンが何故だかここで強い快感を覚えるらしいことを。弱いことを。シィンすら知らなかったことを、これまでの数回の交歓で。

「ぁ……あ、ァ……だ、め……だ……っ」

 恥ずかしくて何度も頭を振って拒絶の声を上げるが、それが拒絶になっていないことは自分自身が一番よくわかっている。
 なぜだかわからないけれど、吸われるたび、噛まれるたび、足指の間に舌を這わされるたび、それだけで達してしまうのではないかと思うほどの快感が込み上げるのだ。
 いやいっそ——もう達してしまいたい。
 シィンは腰の奥で今か今かと解放を待っている欲望を早く解き放ちたくて、さっきから性器に手を伸ばそうとしてはなんとか思いとどまるのを繰り返している。

 達してしまいたい——でも——。
 達したい——でも——。

 快感に塗りつぶされた頭の中でそれだけがぐるぐる回り、シィンは堪えるように縋るように夜具を掻きむしる。

 達してしまいたい——けれどダンジァと一緒がいいのだ。
 彼のものを受け入れて、彼と繋がって、彼とともに——彼と一緒に、がいい。

「ぁ……ダン……ダンジァ……っ」

 シィンは、もう上手く回らなくなっている口で彼の騏驥の名を呼ぶ。
 彼が欲しい。
 彼の熱が。彼の欲が。
 彼が欲しい。
 この中に。奥に。一番深いところに。

「ダンジァ……っ……」

 シィンは舌足らずな声音でダンジァを呼ぶと、掴まれていない右脚をおずおずと自身の身体に向けて引き寄せる。膝をたたむようにして——その膝裏を掬い、自ら大きく脚を開くようにして。
 交わりを誘うような淫らな格好に、ダンジァが息を呑むのがわかった。驚いたように瞠目している彼を恍惚の笑みで見つめたまま、

「……ダンジァ……」

 シィンはもう一度、愛しい男の名前を呼ぶ。
 先刻から絶え間なく滴る先走りの体液が、勃ち上がっている性器を、そして陰嚢を、さらには双丘の奥の窄まりまでもを濡らしている。それを露に——まるで見せつけるようにしながら、ことさら大きく脚を開くと、くちゅ……と密かな音が溢れる。
 焼けるような目でシィンを見つめ返してくるダンジァの喉が、大きく上下する。シィンの足首を掴んでいる指に、ぎりぎりと力が込められる。

 羞恥と興奮と期待と渇望。
 
「……ダンジァ……もぅ……欲し、ぃ……っ」

 熱い息と共に、シィンが声を絞り出したその瞬間——。

「シィン様……っ!」

 ダンジァが再び——今度はシィンを食べ尽くさんとせんばかりの勢いでのしかかってきた。
 きつく抱きしめられ、忙しなく全身を撫で回され、口付けられる。布越しに彼の猛ったものが押し当てられ、彼もまた昂っていたのだと知ると、いっそうの劣情が込み上げる。

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