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長北吉男2 ※グロ、犯罪行為表現あり
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懐かしい社長室に吉男と、30代くらいの男性社員が映る。
吉男が怒鳴る。
『すみませんで済んだら警察は要らんわ!!何回同じ事言わせんや!』
確かあの男は木梨と言う出来の悪い奴だった。
吉男は木梨を殴り、殴り、蹴る。頭を掴んで床へ押し付ける。
『…お前、誠意見せろ』
『は、はい!』
木梨は縺れたままの髪で土下座したが、吉男は頭を目掛けて蹴り倒す。
『違うわ!誠意っつうのは小指詰める事だ!!』
木梨は顔を青くする。
『そんな…、出来ません』
『指1本無くなったって、仕事の出来は変わんねえだろ?!』
木梨が拒否する度に、吉男が殴るのを数回繰り返し、吉男は木梨に彫刻刀を突き付けた。
鏡を見る一同の顔が曇る。
(いやいや、本当に詰めなかったし!骨が硬くて出来なかったから、結局生爪1枚剥がして許してやったじゃないか!!)
映像が変わり、また社長室。吉男は若い女性社員と居た。吉男は言う。
『はあ?もう営業出来ませんってどういう事?』
『…ですので、ああいった事は』
『てめえの仕事は、その顔と体で寝て契約取る事だろ?』
吉男は笑いながら続けた。
『あのさ、この業界で女っつったらそういう仕事してナンボでしょ?…マリちゃんさあ、何ならウチ辞めるか?結婚の予定も無え、病気の母ちゃんとまだ小さい兄弟抱えてるでしょ。
ウチほど貰えるとこ、他に無いと思うよ?』
(こいつにはその分、相場の1.5倍の給料払ってたんだ。内容に見合ってるじゃないか!)
取引先でミスをした社員にレンチを投げつけ、あわや失明の怪我をさせた。
(でも、治療費は全額払ったじゃないか!)
新入社員の女性に酒を多量に飲ませ、無理矢理関係を持った。
(あれは介抱中の出来心で…)
不出来な男性社員を下着1枚にし、事務所の隅で1日中正座させた。
(指導の一環だって!)
ミスを連発した男性社員を、歯が折れるまで何発も殴った。
(あのおっさんの歯が弱いんだって!)
室内の空気が悪くなる。吉男は恐る恐る口を挟む。
「…あの、まだ見ないといけませんか?」
青蓮華はしれっとして答える。
「マイナスの理由、お判り頂けたなら」
「ああ、はい! もうやめ…」
青蓮華は吉男が言い終わらない内に、映像を雑に消した(雑と感じたのは吉男だけだが)。
吉久が頭を抱える。
「はああ…。クズやな、お前」
「いや、待ってよ親父。確かにやり過ぎや出来心はあったけど、出来ない奴への指導の何がいけないん?!
それに…、おかしいだろ? 良かった事の映像はやらずに、悪かった事のだけ皆に見せるなんて! 姉ちゃん、あんた弁護士やろ? 何か言ってよ!」
「生憎ですが、私は弁護士ではありません」
細羅は答えた後、吉男の目を見て言葉を続けた。
「我々は、吉男さんが作ってしまった負債の返済方法を提案し、解決へ導く係です。
お手元の『天獄帳』をご確認下さい。一時はマイナス400万まで増えた負債が、吉男さまの死亡時にはマイナス15万程までに減額されてますよね?」
最後の項目には『名義人死亡』と『-148000』とある。
吉久が言う。
「お前に分かり易く説明すると、死ぬまでに『負債』をゼロにしておかないと、俺達の子孫が不幸になる事で相殺するか、お前が生まれ変わる時に不幸な人生の始まりをする事で、相殺する必要がある」
「不幸になる子孫って…、晶がか?」
青蓮華が答える。
「そうですね、この場合は血縁関係のあるご子孫になります。因みに、吉男さまのお母様がご存命ですが、既に腎臓がんになられ透析の必要なお身体になる事で、現在から死去予定までの7年で返済ローンを組んでおられます。
ですので、相殺の対象外となります」
(訳分かんねえ)
だが、天獄帳を眺める吉男はある事に気づく。
「ちょっと待て? 400万の負債、何で15万まで減ったんだ」
「家族皆で肩代わりしたんだ」
吉久は悲しそうな怒ってる様な、不思議な表情をして言った。
「俺がポックリ死したんも、母さんが病気になったんも。会社の売り上げ悪くして、吉仁と恵子が私立や上の学校諦めさせたのも。
はなえが拝み屋に寝取られ有り金を持ち逃げしたんも、会社と家無くなったんも…」
「そんな…」
あの不幸は、全部自分1人の身から出た錆だというのか?
だとしても、あんな思いをしてもまだ、負債があるだなんて…。
「肩代わりされたご親族は、その分の徳を積まれております。ですが存命の方の徳は、当人以外使う事は出来かねます」
細羅の補足を聞きつつ、吉男は誰か親族に死んで貰い相殺する事も可能なのかと、一瞬邪推した。
(俺は父親だ。そんな決断する訳無いけど)
吉男は細羅に質問した。
「約15万分の相殺を、子孫が受ける場合はどんな目に遭うんですか…?」
「状況によりますが、死に至らない程度の犯罪被害1件、もしくは完治2年のご疾病、その他では約1年程度の強めの精神的落ち込み、などでしょうか。
ただ、複合的に別の問題…犯罪被害に遭った事による鬱病や恐怖症発症、なども同時発生する場合もあります。必ずしも単発で済むとは言えませんので、ご了承下さい」
(何が了承下さいだ!)
睨みつける吉男を鼻にもかけず、細羅は説明を続ける。
「吉男さまを含めて、これからご誕生する方が請け負う場合は、成人までに亡くなる事になります」
その言葉に、吉男は益々絶望的になっていった。
苦労をかけた息子や娘、そして孫の晶に、これ以上悪い事が起こって欲しくない。
これから生まれるかもしれない晶の兄弟や、娘の子供が早死にするのも嫌だ。
頭を抱える吉男に、無等が言う。
「一時休審といたします。ごゆっくり考えてご判断ください」
集中治療室。頭に包帯、首にコルセット、小さな手足に合計3つの点滴、口元に酸素マスク。
晶はぐっすりと眠っていた。
ただでさえ晶は風邪をひいていたのに、事故で大怪我をしている。この子に、これ以上の肩代わりをさせたくない。
吉久が声を掛ける。
「大丈夫、この子は死なない」
「親父…。俺、どうして生きてる間に気づけなかったんだろう」
今更反省しても、何も覆らない。吉久は息をつく。
「仕方ないさ。この世界はそういう風に出来ている。生きている間は絶対に分からないんだ」
「…俺の転生先に負債を持っていくか。そうすりゃこの子に迷惑をかけずに済むよな」
吉男の呟くような声に、吉久が答える。
「方法は、他にもある」
2回目の相殺審判。吉久が提案をする。
「息子に、生者の守護業務をさせる事で、負債の相殺をしたいと考えております」
吉男も、続けて発言をした。
「私の生前の行いのせいで縁者に迷惑をかけたので、責任を持って守護させて下さい。
転生はずっと後でいい。どんな苦労をしてでも償いをしたいのです。晶を、あの子を守りたい!」
無等は困ったような、微笑みを浮かべ答えた。
「それは可能ですが、決して楽ではありませんよ? もし勤めを果たせなかったら、更に獄が増えますし」
吉男は席から一歩脇に立つと、土下座をした。
「お願いします!!」
「三昧耶さん、お疲れさまでした」
結審後、審判室を後にした青蓮華と細羅は並んで頭を下げた。
三昧耶は笑って答える。
「こちらこそ世話になったね」
『守護業務』手続きのため、新たな担当者と共に別室へ向かう吉男を見つつ、細羅が問う。
「よろしかったんですか? 息子さん、あの子の『守護』につけて」
「いいんだよ。僕は僕の孫にも『本当』の曾孫にも、負債を請け負って欲しくなかったから」
三昧耶は穏やかな笑みで返した。
ある病院内の公衆電話コーナー。女が焦った様子で電話している。
「マズイ事になったの。晶が旦那の子じゃないってバレた。
あのね、事故の時に輸血する事になって、血液型で…、
もう旦那がさ、DNA検査も弁護士も用意してて。…ヤバいの。めっちゃ不利なの!
これまでの養育費返還だの、慰謝料だのってもう最悪!!
…ねえ、子供手放しても請求の金額減らないのかなぁ? どうしよー」
吉男が怒鳴る。
『すみませんで済んだら警察は要らんわ!!何回同じ事言わせんや!』
確かあの男は木梨と言う出来の悪い奴だった。
吉男は木梨を殴り、殴り、蹴る。頭を掴んで床へ押し付ける。
『…お前、誠意見せろ』
『は、はい!』
木梨は縺れたままの髪で土下座したが、吉男は頭を目掛けて蹴り倒す。
『違うわ!誠意っつうのは小指詰める事だ!!』
木梨は顔を青くする。
『そんな…、出来ません』
『指1本無くなったって、仕事の出来は変わんねえだろ?!』
木梨が拒否する度に、吉男が殴るのを数回繰り返し、吉男は木梨に彫刻刀を突き付けた。
鏡を見る一同の顔が曇る。
(いやいや、本当に詰めなかったし!骨が硬くて出来なかったから、結局生爪1枚剥がして許してやったじゃないか!!)
映像が変わり、また社長室。吉男は若い女性社員と居た。吉男は言う。
『はあ?もう営業出来ませんってどういう事?』
『…ですので、ああいった事は』
『てめえの仕事は、その顔と体で寝て契約取る事だろ?』
吉男は笑いながら続けた。
『あのさ、この業界で女っつったらそういう仕事してナンボでしょ?…マリちゃんさあ、何ならウチ辞めるか?結婚の予定も無え、病気の母ちゃんとまだ小さい兄弟抱えてるでしょ。
ウチほど貰えるとこ、他に無いと思うよ?』
(こいつにはその分、相場の1.5倍の給料払ってたんだ。内容に見合ってるじゃないか!)
取引先でミスをした社員にレンチを投げつけ、あわや失明の怪我をさせた。
(でも、治療費は全額払ったじゃないか!)
新入社員の女性に酒を多量に飲ませ、無理矢理関係を持った。
(あれは介抱中の出来心で…)
不出来な男性社員を下着1枚にし、事務所の隅で1日中正座させた。
(指導の一環だって!)
ミスを連発した男性社員を、歯が折れるまで何発も殴った。
(あのおっさんの歯が弱いんだって!)
室内の空気が悪くなる。吉男は恐る恐る口を挟む。
「…あの、まだ見ないといけませんか?」
青蓮華はしれっとして答える。
「マイナスの理由、お判り頂けたなら」
「ああ、はい! もうやめ…」
青蓮華は吉男が言い終わらない内に、映像を雑に消した(雑と感じたのは吉男だけだが)。
吉久が頭を抱える。
「はああ…。クズやな、お前」
「いや、待ってよ親父。確かにやり過ぎや出来心はあったけど、出来ない奴への指導の何がいけないん?!
それに…、おかしいだろ? 良かった事の映像はやらずに、悪かった事のだけ皆に見せるなんて! 姉ちゃん、あんた弁護士やろ? 何か言ってよ!」
「生憎ですが、私は弁護士ではありません」
細羅は答えた後、吉男の目を見て言葉を続けた。
「我々は、吉男さんが作ってしまった負債の返済方法を提案し、解決へ導く係です。
お手元の『天獄帳』をご確認下さい。一時はマイナス400万まで増えた負債が、吉男さまの死亡時にはマイナス15万程までに減額されてますよね?」
最後の項目には『名義人死亡』と『-148000』とある。
吉久が言う。
「お前に分かり易く説明すると、死ぬまでに『負債』をゼロにしておかないと、俺達の子孫が不幸になる事で相殺するか、お前が生まれ変わる時に不幸な人生の始まりをする事で、相殺する必要がある」
「不幸になる子孫って…、晶がか?」
青蓮華が答える。
「そうですね、この場合は血縁関係のあるご子孫になります。因みに、吉男さまのお母様がご存命ですが、既に腎臓がんになられ透析の必要なお身体になる事で、現在から死去予定までの7年で返済ローンを組んでおられます。
ですので、相殺の対象外となります」
(訳分かんねえ)
だが、天獄帳を眺める吉男はある事に気づく。
「ちょっと待て? 400万の負債、何で15万まで減ったんだ」
「家族皆で肩代わりしたんだ」
吉久は悲しそうな怒ってる様な、不思議な表情をして言った。
「俺がポックリ死したんも、母さんが病気になったんも。会社の売り上げ悪くして、吉仁と恵子が私立や上の学校諦めさせたのも。
はなえが拝み屋に寝取られ有り金を持ち逃げしたんも、会社と家無くなったんも…」
「そんな…」
あの不幸は、全部自分1人の身から出た錆だというのか?
だとしても、あんな思いをしてもまだ、負債があるだなんて…。
「肩代わりされたご親族は、その分の徳を積まれております。ですが存命の方の徳は、当人以外使う事は出来かねます」
細羅の補足を聞きつつ、吉男は誰か親族に死んで貰い相殺する事も可能なのかと、一瞬邪推した。
(俺は父親だ。そんな決断する訳無いけど)
吉男は細羅に質問した。
「約15万分の相殺を、子孫が受ける場合はどんな目に遭うんですか…?」
「状況によりますが、死に至らない程度の犯罪被害1件、もしくは完治2年のご疾病、その他では約1年程度の強めの精神的落ち込み、などでしょうか。
ただ、複合的に別の問題…犯罪被害に遭った事による鬱病や恐怖症発症、なども同時発生する場合もあります。必ずしも単発で済むとは言えませんので、ご了承下さい」
(何が了承下さいだ!)
睨みつける吉男を鼻にもかけず、細羅は説明を続ける。
「吉男さまを含めて、これからご誕生する方が請け負う場合は、成人までに亡くなる事になります」
その言葉に、吉男は益々絶望的になっていった。
苦労をかけた息子や娘、そして孫の晶に、これ以上悪い事が起こって欲しくない。
これから生まれるかもしれない晶の兄弟や、娘の子供が早死にするのも嫌だ。
頭を抱える吉男に、無等が言う。
「一時休審といたします。ごゆっくり考えてご判断ください」
集中治療室。頭に包帯、首にコルセット、小さな手足に合計3つの点滴、口元に酸素マスク。
晶はぐっすりと眠っていた。
ただでさえ晶は風邪をひいていたのに、事故で大怪我をしている。この子に、これ以上の肩代わりをさせたくない。
吉久が声を掛ける。
「大丈夫、この子は死なない」
「親父…。俺、どうして生きてる間に気づけなかったんだろう」
今更反省しても、何も覆らない。吉久は息をつく。
「仕方ないさ。この世界はそういう風に出来ている。生きている間は絶対に分からないんだ」
「…俺の転生先に負債を持っていくか。そうすりゃこの子に迷惑をかけずに済むよな」
吉男の呟くような声に、吉久が答える。
「方法は、他にもある」
2回目の相殺審判。吉久が提案をする。
「息子に、生者の守護業務をさせる事で、負債の相殺をしたいと考えております」
吉男も、続けて発言をした。
「私の生前の行いのせいで縁者に迷惑をかけたので、責任を持って守護させて下さい。
転生はずっと後でいい。どんな苦労をしてでも償いをしたいのです。晶を、あの子を守りたい!」
無等は困ったような、微笑みを浮かべ答えた。
「それは可能ですが、決して楽ではありませんよ? もし勤めを果たせなかったら、更に獄が増えますし」
吉男は席から一歩脇に立つと、土下座をした。
「お願いします!!」
「三昧耶さん、お疲れさまでした」
結審後、審判室を後にした青蓮華と細羅は並んで頭を下げた。
三昧耶は笑って答える。
「こちらこそ世話になったね」
『守護業務』手続きのため、新たな担当者と共に別室へ向かう吉男を見つつ、細羅が問う。
「よろしかったんですか? 息子さん、あの子の『守護』につけて」
「いいんだよ。僕は僕の孫にも『本当』の曾孫にも、負債を請け負って欲しくなかったから」
三昧耶は穏やかな笑みで返した。
ある病院内の公衆電話コーナー。女が焦った様子で電話している。
「マズイ事になったの。晶が旦那の子じゃないってバレた。
あのね、事故の時に輸血する事になって、血液型で…、
もう旦那がさ、DNA検査も弁護士も用意してて。…ヤバいの。めっちゃ不利なの!
これまでの養育費返還だの、慰謝料だのってもう最悪!!
…ねえ、子供手放しても請求の金額減らないのかなぁ? どうしよー」
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