【完結】僕たちのアオハルは血のにおい ~クラウディ・ヘヴン〜 

羽瀬川璃紗

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ハルシネイション・ヘヴン

雪島剛貴

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「こんにちは。突然お邪魔して申し訳ありません。赤峰あかみねと申します」

「マタドール社の星野です。初めまして」


 2人が会釈すると、雪島剛貴も軽く頭を下げた。

「どうもこんにちは、雪島です」


「えーと、2人は俺らと同じ会社の同僚で、赤峰さんは望の彼女で…」

 設定を棒読みする皇介を怪しむ事無く、剛貴は聞き返す。

「え、彼女さん⁈ …そっか。だからここまで来たんすね」

 気の毒そうな表情をする剛貴に、穂香は必死さをアピールする。

「あの…、どんな小さな事でもいいので、教えて下さい!」


 在りし日の赤城の様に、剛貴は地元の農協で、農作物の出荷や検査の仕事をしている。

 パーテーションで区切った応接スペースで、4人は顔を合わせて話をする事になった。


 広空が切り出す。

「皇介から聞いたんですが、望の車を見つけたのって…?」

「俺です。ここより南に通称赤東ラインって高速があって、その脇にある農道のトンネル前にありました」


 場所は先日地図で確認していた。車で10~15分くらいだ。


 穂香が剛貴へ問う。

「見つけた時、近くに他の車や人とか…、術の気配は?」

「『じゅつ』?」

 剛貴が訝しむ。皇介が弁解する。

「あ、この2人、晴天の糸遊なんだわ」

「ああ! そうなんだ?」

「はい。言うの遅くてすみません」

 穂香が申し訳無さそうに言う。


「いえいえ、そういう事なら。えーと、車見つけたのが、月曜から火曜にかけての夜中だったかな。
ヤス…、紺田って幼馴染が追跡系の式獣持ってるから、望と真姫と、ダメもとで望の車の特徴伝えたら、車だけ見つけて。
夜中だから10分くらいで着いたけど、その時にはもう誰も居ないし、試しにボンネット触ったら温くもなくて…」

「…て、事はだいぶ前から車はそこに在ったんですかね。夏だから温度下がるの遅いだろうし」

 広空が言うと、剛貴は頷いた。

「多分。そこから更に2人の気配辿らせようとしたけど、駄目でした。範囲外に居るのか、オーラが異常に少ないか…」

「オーラが少ないせいだとしたら、戦って減った…って事か?」

 皇介が問うと、剛貴は首を傾げた。

「懐中電灯で見た限りだけど、車の周り、焦げ跡とか草が倒れた跡すらも無かった。
警察…天番もそこを捜索したと思うけど、何も出なかったんだろうな、多分」

 穂香が口を開く。

「…2人の携帯が車内にあったと聞いたんですが、例えば2人は望の車に乗ってて、その場所に停めてから、誰かに連れ去られたとか?」

「うーん、周り何もねえしな。
…それに、赤峰さん星野さんは知らないかもだけど、真姫は16で精鋭部隊に入ったくらい強いんすよ? 
元々から慎重で頭もイイあの真姫が、抵抗出来ず捕まるとは考えられないです」

「そうですか…」


 例えば何十人もの相手に襲撃されたなら、有り得ても痕跡が残るだろう。


 広空が言う。

「探してくれて、ありがとうございます」

「そんな、当然ですよ。2人は俺にとってヒーローですから。…本当、何があったんだか」

 穂香が剛貴へ尋ねる。

「飲み会では、どんな感じでした? 地元の友達だからこそ話せる、悩みとか愚痴とか」

「悩みも愚痴も言ってくるガラじゃないから、聞いた事無いな。9月のライブも『今から楽しみなんだ』って。俺も見たいって言ったら、『チケット融通するよ!』って。
普通に元気だったし、自分から居なくなった訳じゃないと俺は思うんですけどね」




「剛貴の話、どう思います?」

 農協から出て、皇介が2人へ言ったが、2人は目で何かを示し合わせたかのように黙った。皇介は怪訝な顔をした。

「ちょ…、何?」


 穂香が笑顔で、皇介の元へ来て距離を詰めると、耳元で囁いた。


「…曇天を出るまで、答えられない。ゴメンね」

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